「ネタになるかもしれない」という下心
バラエティ番組のディレクターをする彼は、よく現場での話を私にしてくれる。
相当ストレスが溜まっているのだろう。コンプライアンス的にどうなのかという疑問はあるが、それだけ信用されているということが密かに嬉しい。
「わかるよ」「大変だね」私は彼の言葉を引き出すように、目の前に座り、笑顔で共感とねぎらいの言葉を並べた。
激務で緊張感ある彼のストレスを少しでも解消させてあげたい…というのは建前で、単純にテレビの裏側に興味があるのだ。
何かのネタになるかもしれない、という下心もありつつ――。
下世話な「ネット記事」で小遣い稼ぎする毎日
翌朝。朝8時。
私はいつものようにテレビを見ながら家事をこなす。若手人気俳優が薬物で逮捕されたというニュースが報じられたこともあり、ワイドショーも含めてチャンネルを回遊しながら穏やかな朝を過ごした。
そして9時半、一通り見終わった後で、パソコンを立ち上げる。
<ワイドショー出演者の発言にSNS騒然!「もう収録に参加していません」>
<慶応卒新人女子アナ、薬物逮捕の俳優に「一緒に遊んだ…」と衝撃発言>
<スタッフ恫喝も…関係者が語るM-1王者の裏の顔>
企画案、と冒頭に記したテキストメール。他いくつかを、大学の同級生でwebメディアの編集長をしている友人・礼香に送ってみた。
返事は即やってくる。
『ありがとう、みんなお願いできる? 上二つは明日までにもらえると嬉しい』
了解、と返信してさっそく取り掛かった。
私は専業主婦の傍ら、ネット記事執筆の仕事をしている。
昨日出版社から来ていた封書は原稿料の明細。先月頑張って10記事を上げたことや、アクセス数トップだったボーナスも計上されていた。全部合わせて、6万円。専業主婦のお小遣いとしては十分な金額だ。
――夫からのお小遣いもあるし、全額貯金に回して、年末には…。
午前中を使ってひと記事書き終えたところで、頭の中でチャリン、と音がした。
頭の中にヴァレクストラのバッグを思い浮かべ、垂れ流しのテレビの前で私は口角を緩めるのだった。
【#2へつづく:地味な女に負けた? 夢を諦めた“こたつライター”の「プライド」が砕かれるまで】
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