地味な同級生がニュースになっていた理由は
――臥上玖美…文学部のゼミで同じだったような。
確か大学で同級生だった。同じゼミで、海外のミステリー小説のマニアだった印象がある。
話したことはあるが、どこか小賢しい部分があり、ノリも合わない地味な女の子だったため、静かに距離をとっていたコだ。
気になって名前を検索すると、彼女がアマチュア向け投稿サイトで公開していた小説の数々がヒットした。
受賞プロフィールによると、ネットで小説公開の傍ら、新聞社で校閲をしながら小説教室に通い、コツコツ投稿を続けていた模様だ。既にアマチュア向けの賞をいくつか受賞しているという。
受賞作は、社会派の本格ミステリー。あらすじだけみても独創的で、素直に読みたくなってしまった。ジェンダー問題や格差社会に深く切り込んだことも評価されており、勿論、有名作家が述べる選評も絶賛ばかりだ。
――なるほどね…。
目を通しながら、私は大学時代を思い返す。
私は「作家になりたい」と言えなかった
「小説家になりたいんです」
ゼミの初顔合わせの際、玖美さんは教授に向かってそのように自己紹介をした。実は私も密かに同じ夢を持っていたが、胸を張って言い切る彼女への反発なのか、むしろ引いてしまい「趣味はカフェ巡り」と無難に濁した。
一度だけ、ゼミ終わりに誘われてお茶をしたことがある。
大学ラグビーで有名選手だった先輩・大輔と当時から交際していた私。玖美さんに「執筆している小説にラガーマンの登場人物を出したいからいろいろ聞いてみたい」と言われたから。
軽い気持ちで受けたが、彼女からの質問項目がルールやラグビー界の現状など、あまりにも細かく、自分も答えられないことが多かった。結局、大輔の伝手で別の部員を紹介することになった。
アクセス1位でもどこか恥ずかしい
…ただそれだけの、彼女との思い出。
知り合いと自慢するのもおこがましい。
だが、記憶は憂鬱と化して胸の重りとなった。
気持ちを奮い立たせるため、アクセス数1位となった自身の記事「秋アニメ声優イケメン5選」を読み返した。
こうやってサイト上で同級生と肩を並べることになるとは思っても見なかった。どこか恥ずかしい。その恥ずかしさの意味を有耶無耶にしたまま、記事にぶら下がった自分宛てのコメントに目をやる。
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