ド安定感なNHK朝ドラ班の子役選び。避難所でのおむすびシーンで母の愛も描く

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2024-10-28 18:20
投稿日:2024-10-28 18:20

第5週「あの日のこと」#21

 糸島フェスティバルが終わって海辺でただずんでいた結(橋本環奈)は、翔也(佐野勇斗)からよく寂しそうな顔をしているのはなぜかと聞かれ、たぶん9年前のあの日、1995年1月17日からだと答えて幼い頃を思い出す。

 6歳の時、結(磯村アメリ)は、神戸に住んでいて、「セーラームーン」が大好きだったが、阪神・淡路大震災で被災してしまう。


【こちらもどうぞ】頑張れ「おむすび」! 見せ場のパラパラダンス、感動が半減した“いろいろ”を振り返り

【本日のツボ】

心の内を聞き出した翔也の今後

 ※※以下、ネタバレあります※※

「たぶんあの日から…。9年前。1995年1月17日」

 糸島フェスティバルのあと、「おめえ、ここにいっとき、いつも寂しそうな顔してた」「なんで、そんな顔すんだ?」と聞かれ、9年前のことを話し出す結――。

 憧れの書道部・風見先輩(松本怜生)に彼女がいることがわかって、それでてっきり落ち込んでいるのかと思っていたら、そうではなかったのですね。

 結のほんとうの寂しさに気付き、心の内を聞き出した翔也。末は島田秀平のような占い師か(いい意味で、です)、さもなくば、結の人生において大切な存在になるのは違いないでしょう。陽太(菅生新樹)にはお気の毒ですが…。

 ここから、回想シーンへ。

 結の子ども時代を演じる磯村アメリちゃんの名演技につい見入ってしまいます。いつもながら、朝ドラ班の子役選びのセンスには感服です。

 アメリちゃん、このまますくすく成長し、十数年後には朝ドラヒロインに、なんてことになれば、「おむすび」も朝ドラ史に残るかも、などと妄想したりしています。

 9年前の震災前日。歩(高松咲希)と親友の真紀(大島美優)はトア・ロードでお買物。「真紀ちゃんに洋服を選んでもらってん」と買ってきた服をみんなに見せて、「真紀ちゃん、めっちゃめちゃセンスいいねん」と歩が言えば、「さすがモデル目指してるだけのことあるな」と近所のおっちゃん(吉本新喜劇の内場勝則)。

 ここで、真紀がモデル志望だということがわかります。さらに、「そや、結ちゃんに。セーラームーンってこんなん使って変身するやろ」と、変身コンパクトのついたペンダントを結の首にかけてあげます。「やった~」と無邪気に喜ぶ結。真紀ちゃんの優しさが描かれました。

「また、買いもん、行こうな」「じゃあ明日、学校で」そう言って別れた真紀ちゃん。バイバイと見送る歩のほうを振り返って、大きく手を振っていました。

 そして、あの地震が起こります。画面右下には「このあと地震の描写があります」のテロップが…。

「おばちゃん、これ、冷たい。チンして」

 ドラマで震災を描くのはそれだけデリケートなことであり、30年経った今でも、当時を思い出すから見たくない、という人も大勢いるでしょう。その後も、東日本大震災、熊本地震…今年はじめには能登半島地震も起こりました。つらい経験をした人たちには、今週は酷な内容になるかもしれません。

 それがわかっていて、あえて震災を描くのだから、結を通して、その先にある“希望”をしっかりと描いてくれると信じて、今週は心してお付き合いしようと思います。

 差し入れのおむすびに、「おばちゃん、これ、冷たい。チンして」と結。生まれた時から電気やガスはあるのが当たり前で、冷たい食べ物はチンすれば温かくなる、という生活を送っていた6歳の子どもには、一夜にして変わった状況を理解しろというほうが難しいでしょう。

 そんな結に腹を立てるわけでもなく、「ごめんな」と謝る女性。「おばちゃんち出た時は、おむすびほかほかやったんやけどなあ。街も道路もめちゃめちゃで、ここまで来んのにえらい時間かかって、冷めてもうた」と涙交じりで話します。

「おばちゃん、なんで泣いてんの?」と結が聞くと、「おばちゃんな、生まれも育ちも神戸やねん。大好きな神戸の街があんなんなってんの見たら…」とさらに泣き崩れ、「でも大丈夫、大丈夫やから」と。

 暗がりのなかで、命を繋ぐおむすびが光って見えました。ふたりひとつなのに、ひとつのおむすびを二つに割って、歩と結に渡した愛子(麻生久美子)。母の愛を感じました。


桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


「あんぱん」最後まで毒親だった登美子(松嶋菜々子)。去っていく彼女に問うてみたいこと
 受験したのぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の明暗が分かれる。静まり返った柳井家で、寛(竹野内豊)たちに頭を下げる嵩。そこ...
桧山珠美 2025-04-26 12:50 エンタメ
春ドラマの評判を調査!『最後から二番目の恋』は令和の鬼渡?『あんぱん』『対岸の家事』の感想は
 2025年4月期も話題のドラマが続々スタート! 多すぎてどれを見るのか迷ってしまう…。そんな人のために忖度なしでドラマ...
「あんぱん」千尋(中沢元紀)は本当に良い子…史実どおりの展開なのか。しょくぱんまんのようなイケメンだ
 けんかした嵩(北村匠海)と千尋(中沢元紀)に、寛(竹野内豊)は改めて後継ぎはいらないと告げる。そして、何をしながら生き...
桧山珠美 2025-04-23 17:51 エンタメ
こうでなくちゃ! 志尊淳の正解を「恋は闇」で見た。いい人よりも“妖しい姿”に妄想が駆り立てられる
 新ドラマ「恋は闇」(日本テレビ系)の志尊淳が良きです。  前クールの「日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった...
「あんぱん」なんて贅沢!今が旬、河合優実の“目で語る”表現力と色気に驚く。俳優・ソニンのEE JUMP感を消した演技も見事
 なりたい夢を見つけたのぶ(今田美桜)は、女子師範学校合格に向けて猛勉強をし始めるが、成績が思わしくなく頭を抱える。同じ...
桧山珠美 2025-04-21 14:23 エンタメ
怪演・市原隼人に「ヤバい超大物」2人が熱烈ラブコール。迫真すぎる“ガンギマリ”の演技がモテる理由か
 大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)にて、盲目の大富豪にしてゾクッとする異様な雰囲気を放つ鳥山検校を怪演...
堺屋大地 2025-04-21 06:00 エンタメ
ラランド・サーヤは「名誉男性」なのか? お笑い界の“女すぎる”という悪口に思うこと
 ラランド・サーヤが参加するバンド「礼賛」が大阪で行ったライブで、痴漢行為が発生。被害女性がSNSで被害を訴えたことで発...
帽子田 2025-04-20 06:00 エンタメ
「あんぱん」松嶋菜々子の“毒”さえチャーミングにする厄介な美しさ。ドキンちゃんにも見えてしまった
 8年間音沙汰のなかった登美子(松嶋菜々子)が突然帰ってくる。登美子に対してわだかまりが残ってはいるものの、自分の漫画を...
桧山珠美 2025-04-19 06:00 エンタメ
「あんぱん」登美子(松嶋菜々子)の登場が不穏…色っぽいけど。貴島中尉(市川知宏)は“あのキャラ”を意識?
 新聞社に出した漫画で賞金をもらい、ご機嫌の嵩(北村匠海)。一方のぶ(今田美桜)は、パン食い競走で転びそうになったところ...
桧山珠美 2025-04-17 16:02 エンタメ
カトパンへの嫌味に物議…新井恵理那は承認欲求のカタマリか、悪役を演じる聖人か?
 昨年3月、8年間出演して総合司会も務めていたテレビ朝日系の朝の情報番組『グッド!モーニング』を降板したフリーアナウンサ...
堺屋大地 2025-04-17 06:00 エンタメ
【募集】春ドラマ何見る? 面白かった&ガッカリを教えて!『最後から二番目の恋』『あんぱん』etc
 コクハクでは2025年春ドラマを対象としたアンケートを実施します。4月よりスタートした春ドラマ、「期待している」「面白...
笠松将、柳楽優弥を超えなければと思っていた。俳優業の“わからなさ”は「自分自身にビビッている感覚」『ガンニバル』シーズン2インタビュー
“この村では、人が喰われているらしい……”    2022年の年末にディズニープラス スターにて独占配信がスタートす...
望月ふみ 2025-04-15 06:00 エンタメ
「あんぱん」嵩(北村匠海)の“ジェラシー”がなんとも可愛い! 寛(竹野内豊)の診察シーンが見たかった
 昭和10年、高等女学校の5年生になったのぶ(今田美桜)は、ある日、貴島中尉(市川知宏)と再会。祭りのパン食い競走で使う...
桧山珠美 2025-04-14 19:03 エンタメ
15分の朝ドラで高揚感を得られるんだ! のぶ&嵩の“子役最終回”が見せた未来の夫婦関係
 久しぶりに登美子(松嶋菜々子)の顔を見て胸がいっぱいになる嵩(木村優来)だったが、登美子は困惑した表情を浮かべる。のぶ...
桧山珠美 2025-04-12 06:00 エンタメ