47歳、第3の挫折「夫も家も工場も失って」
でも、チャレンジ精神旺盛な千佐子はこれぐらいで負けていない。環境が悪ければ変えればいい。Tシャツなどにプリントをする印刷工場を夫婦で起業した。ところが経営はうまくいかず、両方の親族からお金を借りまくった。
いつも自分に冷淡な目を向けてくる貝塚の親族に頭を下げるのは、千佐子のプライドを削り続けたことだろう。
北九州の両親は2,000万円ものお金を貸してくれた。母親は「子どもたちを連れて帰っておいで」と何度もすすめたが、千佐子はそうはしなかった。このとき離婚して故郷に帰っていたら、死刑になるような犯罪をおかすこともなかっただろう。
でも、プライドなのか孤立癖なのか、千佐子は人に甘えることのできない性格だ。自分の力で逆転ホームランを打とうとあがきにあがく。
そんな中、病気がちだった夫が亡くなる。無理な設備投資をしたのか、ハイリスクな投資で資金を増やそうとして失敗したのか、借金の抵当に家も工場も取られてしまった。
20年の間に10人の男性が命を落とす
崖っぷちに追い込まれた47歳の千佐子が向かった先、それは結婚相談所だった。この年から逮捕までの20年のあいだに、彼女と親しくなった、あるいは結婚した10人の男性が次々と命を落としていく。
手口はいつも同じで、公正証書遺言を書かせて青酸化合物入りのカプセルを飲ませる。血の一滴も流れないため証拠が残らない。まるで死の職人による手慣れたルーティンワークだ。挫折が相次いだとはいえ、どこかで悪魔に魂を売り渡したとしか思えない。
しかし、青酸化合物はどこから手に入れたのか、10億円もの資産はどこに消えたのか、謎はまだ残る。
【#3へつづく:男性たちから奪い取った10億円、痕跡も残さずに消えた…】
【参考文献・映像】
・「筧千佐子 60回の告白 ルポ・連続青酸不審死事件」(安倍龍太郎/2018年/朝日新聞出版)
・「全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと」(小野一光/2018年/小学館)
・「脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体」(中野信子/2014年/幻冬舎新書)
・「サイコパス」(中野信子/2016年/文春新書)
・「ザ!世界仰天ニュース 連続殺人犯・筧千佐子…夫・交際相手を次々毒殺!カメラ前で嘘並べる」(日本テレビ/2023年8月29日放送)
・「後妻業の女」(大竹しのぶ主演・鶴橋康夫監督/2016年/東宝)
・「関西連続青酸殺人事件 筧千佐子死刑囚が泣きながら語った出生の秘密」(日刊ゲンダイDIGITAL/2022年3月13日配信)
・「「後妻業」で高齢男性を次々と籠絡、心の隙間に忍び込む毒婦の手口」(ダイヤモンドオンライン/2018年7月27日配信)
・「筧千佐子被告、死刑確定 被害者に「幸せ」といわしめた骨抜きテクと秀才少女時代」(週刊女性PRIME/2021年7月7日配信)
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