50万円のピアスに「興味がない」のは言い訳?
毎晩、晴乃が帰宅の途につくのは、23時近くだ。サロンでも一番の新人なので、営業終了後、施術のレッスンを先輩たちから受けて片づけ等を終えるといつもそのくらいになってしまう。
サロンから自転車で10分の場所に、晴乃の住むアパートはある。
築40年、3階建ての2階部分にある6畳一間。家賃は7万円。周辺のどの駅から遠いこともあり、このエリアでは破格の家賃だ。
「ただいまー…」
部屋の扉を開けるなり、誰もいない暗闇に呼びかけた。田舎の大家族育ちである晴乃の癖のようなものだ。当然ながら何も返ってこない。
収納がないこの部屋にあるのは、米どころの故郷から送られてきた米と炊飯器、冷蔵庫くらいだ。テレビない。パソコンも当然ない。スマホがあればある程度、事足りる。
「あのピアス、50万円近くするんだ」
ネットサーフィンをしながら、晴乃はふりかけごはんをかき込む。まひなが身に着けていたハイブランドの検索画像が今晩のおかずだ。食欲より好奇心が満たされる。
――よかった、私はこういうのに興味がない人間で。
年頃の女性が多い職場ゆえ、そういった知識は自然と入ってきてしまうが、晴乃はそれらの価値を見出せない。
同じお金を払うなら、生活費の足しにしたいし、もっとお金をもらえるなら、アロマや施術技術の資格を取るための学校にも通いたいと思う。ゆくゆくは自分のお店も出したい。
だからこそ、贅沢なアクセサリーやバックは、今の自分には必要ないものなのだ。
もしかしたら、それは言い訳なのかもしれないのだけれど…。
ついにチャンスが巡ってきた!
『明日、1時間早く出勤できますか? スキルテストを行います』
トップ施術師でありオーナーの大西友梨佳からLINEが届いた。晴乃は背筋を伸ばし、すぐに了解とお礼の言葉を返す。
地元の短大と専門学校を卒業後、店に入って半年。やっとこの時が来たと身を引き締めた。
――しかも、友梨佳先生が直々に見てくれるなんて!
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