【2024年人気記事】千代田区民は“勝ち”だよね。通勤ラッシュを知らない自分は上流階級層の女

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-01-04 06:00
投稿日:2025-01-04 06:00
 あけましておめでとうございます。2024年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記事を再掲載します。こちらの記事初公開日は同年1月13日。年齢や固有名詞等は公開時のままとなります。
 ※  ※  ※

【御茶ノ水の女・鈴木綾乃33歳 #1】

――『東京の中心に暮らす、ということ』…なんてね。

 鈴木綾乃の頭の中にマンション販売のコピーのような、そんな言葉が思い浮かんだ。

 東京は、朝の8時半。

 御茶ノ水駅前のスターバックスコーヒーで、のんびりラテを傾けるこの時間は、出勤前の至福のひとときだ。

 綾乃はガラス窓越しに、改札口から湧き出てくる人々の群れをぼんやり眺める。

 誰もが通勤、通学に疲弊した顔をしている。どれだけ遠い郊外から運ばれてきたのだろうと彼らに想いを馳せた。

 そして、その者たちとは違う世界にいる自分を思い知る。

夫の栄転がきっかけ

 綾乃は、中央線・御茶ノ水駅から徒歩10分ほどの分譲マンションに2歳年上の夫と4歳の娘と共に住んでいる。

 実父がかつて投資用に購入した3LDKの物件を、生前贈与で譲り受け、夫の東京本社異動をきっかけに3カ月前、引っ越してきた。

 地上10階建ての9階のその部屋は、築20年は超えているがスタイリッシュにリフォームがされている。そんな高揚感と暮らしやすさを兼ね備えた居住空間は、綾乃の気持ちを十分に満足させている。

 夫の孝憲は現在、神田駿河台にある大手保険会社に勤務している。課長職という役職は、同期の出世頭だ。

 少し前までは北関東にある支社のいち課長代理だった孝憲。そこに突然の昇進と東京への異動辞令――以前の部署で、実績を残した結果ということから、栄転といってもいいだろう。

 その土地の病院で薬剤師をしていた綾乃は、退職を余儀なくされたが、東京への移住は何よりも代えがたいご褒美だった。

カルティエのタンクが象徴するもの

 幸い、すぐに今住んでいる場所に近い大学病院から転職のオファーもあり、二の足を踏むことなく都会のど真ん中へ行くことを決めた。

 ラテを飲み終えた綾乃は、駅から出てくる人波がまばらになってきていることに気づく。

 腕時計の短針は、9に届きそうな位置だ。

 綾乃はスーツの袖口から顔を覗かせるきらきら光る文字盤を眺め、現在の幸せをかみしめる。

 カルティエのタンクフランセーズ。

 孝憲から先日の結婚記念日に贈られたものだ。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


侮るなかれ! 花屋が「ホントは教えたくない」名脇役の植物たち。見た目地味だけど外したくない4つの条件
「あまり目立たないけど、そういえばよく見るね」  お花屋さんで購入した花束やアレンジメントの中に、そんなお花やグリ...
うーん…友達と「金銭感覚が合わない」と感じた瞬間。疲れたらタクシーに乗る? 我慢する?
 30年、40年と生きていれば、友達と距離を置いたり縁を切ったりしたこともありますよね。関係が続かなかった友達に対して「...
この倦怠感は自律神経? それとも…更年期の症状は神出鬼没。妊活アプリのように「通知」が来る方法はないのか
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
離婚で「実母と義母」のバトル勃発! 嫁を“敵認定”した義母が放つ衝撃的な一言【身内のありえない発言】
 嫁と姑の付き合い方が見直され、昔ほどフィーチャーされにくくなった「嫁姑問題」。ですが、実際はトラブルが発生しているもの...
「ミスっても死なない!」優柔不断とおさらばする“前向きマインド”5つ
「優柔不断な性格を直したい…」「いつもクヨクヨ悩んでしまう」こんな悩みを抱えている優柔不断な方、集合! 優柔不断を改善す...
“神たま”のそば、羨ましいでしょ? 進むたび揺れる「にゃんたま」をソッと撮るお仕事です
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
わかるけど…LINEの「疲れた」アピールにウンザリ。愚痴って対応に困るんです!
 何気なくする“疲れたアピール”は、ときに人を困らせてしまうもの。相手に遠慮や我慢をさせてしまったり、無理させたりする場...
仕事一筋の私が『対岸の家事』詩穂に共感した理由。くだらない「専業主婦vsワーママ」対立してる場合じゃない
 多部未華子さん主演のドラマ『対岸の家事』が6月3日に最終回を迎えた。毎回放送されるたびに話題になり、SNSを中心に視聴...
ストゼロでも消えない死への恐怖。介護に離婚…友人それぞれが歩む人生に救われた夜。人が最後に行きつく先は
 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らし...
48歳、乳がん検診の「要精密検査」に衝撃。独居暮らし男の孤独死に重なる…誰にも看取られない恐怖
 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らし...
40代は“知人の訃報”がくる年齢だ。憎んだ男の「死亡通知書」で20年ぶりに集う同級生、独身の私はどう映る?
 板チョコのような重い扉を百恵が開けると、真っ赤な口紅を施したママさんがいつものように明るく出迎えてくれた。 「い...
「20年モノのフライパン」がかっこいい? 貧乏戦線に異状あり!
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
お酒の席の“あのルール”に物申したい! グラスに注ぐベストタイミングは…
 働く側としても、お客さんとしても大好きなスナック。今後も良いところをどんどん書いていければと思っているのですが、今回は...
若者が『めおと日和』の“昭和な恋愛”に胸キュンするのは何故? タイパ重視じゃないもどかしさ
 アラフィフ独女ライターのmirae.です。前回のコラムでは、「50代の恋愛にときめきは必要なのか?」というテーマについ...
婚活に介護…もう頑張れない。アラフォー女性が抱えがちな問題、6つのケースを聞いた
 今回ご紹介するのは、アラフォー女性の悲鳴。「もう頑張れない」と思っていることを教えてもらいました。同じ悩みを抱えている...
怒った中年の顔は「ブス」だと知った。更年期世代がイラついた時にするべき大事なアレ
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...