インスタでは好評なのになぜ? 「丁寧な暮らし」をする35歳女のホームパーティーに誰も来ないワケ

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-01-11 06:00
投稿日:2025-01-11 06:00

【辻堂の女・熊田 沙耶35歳 #1】

 吹き抜けの天窓から降り注ぐ昼下がりの穏やかな日差し。

 熊田沙耶はまぶたを開け、シャバーサナから覚醒した。

 無の中から、意識を現実に戻すべく、ヨガマットの上でシーリングファンの動きを目で追う。いつもの、高い天井だ。

 20代の頃から望んでいた、ひろびろとした庭付きの一軒家。穏やかな毎日の中にいる自分は、確かに満ちた生活の中にいる。穏やかな凪に浮かんでいる。

 アンティークの振り子時計が3つ、時を打った。

 もうすぐ夫と子供たちがスイミングから帰ってくることを思い出す。沙耶は身体を起こし、キッチンに立った。

 準備を急がねばならない。

 夜は友人を集めたホームパーティーの予定なのだから。

憧れの「丁寧な湘南暮らし」を手に入れた

 都内から転居し、湘南・辻堂に居を構えて2年ほど経つ。

 夫の職場にも近く、土地の値段も手ごろだったため、知人の建築家が設計した北欧風の注文住宅を、こだわりを十分に込めて建てた。

 近所にはチェリーパイのおいしいカフェや、スタバ、蔦屋家電もある。少し歩いて駅の方にいけば、地元民からはテラモと呼ばれるショッピングモール・テラスモール湘南があり、バスを使えば海だってすぐだ。

 何よりも、都内より人があくせくしていないのがいい。だからといって再開発が進む街ということもあり、地方のような閉鎖的な人間関係もない。

――『鎌倉野菜のぬか漬けに挑戦してみました』――

 そんな何気ないことを連日投稿する沙耶のInstagramのフォロワーは、都内に暮らしていた時の友人や、前勤務先のPR会社の同僚が中心だ。

 暇つぶしで始めたSNSだったが、丁寧な湘南生活は皆の興味を集めているようで、友人以外のフォローも増えてきた。

 コメントに「いつかお邪魔させてください」「行きたい!」「こんな毎日が憧れです」と寄せられることは常だ。その要望に応え、たびたびホームパーティーを企画し、開催している。

――『夫と子供がスイミングに出かけたので、のんびりヨガ。シーリングファン、つけて良かった。今日お越しになる方はよろしくね!』――

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


うーん…友達と「金銭感覚が合わない」と感じた瞬間。疲れたらタクシーに乗る? 我慢する?
 30年、40年と生きていれば、友達と距離を置いたり縁を切ったりしたこともありますよね。関係が続かなかった友達に対して「...
この倦怠感は自律神経? それとも…更年期の症状は神出鬼没。妊活アプリのように「通知」が来る方法はないのか
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
離婚で「実母と義母」のバトル勃発! 嫁を“敵認定”した義母が放つ衝撃的な一言【身内のありえない発言】
 嫁と姑の付き合い方が見直され、昔ほどフィーチャーされにくくなった「嫁姑問題」。ですが、実際はトラブルが発生しているもの...
「ミスっても死なない!」優柔不断とおさらばする“前向きマインド”5つ
「優柔不断な性格を直したい…」「いつもクヨクヨ悩んでしまう」こんな悩みを抱えている優柔不断な方、集合! 優柔不断を改善す...
“神たま”のそば、羨ましいでしょ? 進むたび揺れる「にゃんたま」をソッと撮るお仕事です
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
わかるけど…LINEの「疲れた」アピールにウンザリ。愚痴って対応に困るんです!
 何気なくする“疲れたアピール”は、ときに人を困らせてしまうもの。相手に遠慮や我慢をさせてしまったり、無理させたりする場...
仕事一筋の私が『対岸の家事』詩穂に共感した理由。くだらない「専業主婦vsワーママ」対立してる場合じゃない
 多部未華子さん主演のドラマ『対岸の家事』が6月3日に最終回を迎えた。毎回放送されるたびに話題になり、SNSを中心に視聴...
ストゼロでも消えない死への恐怖。介護に離婚…友人それぞれが歩む人生に救われた夜。人が最後に行きつく先は
 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らし...
48歳、乳がん検診の「要精密検査」に衝撃。独居暮らし男の孤独死に重なる…誰にも看取られない恐怖
 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らし...
40代は“知人の訃報”がくる年齢だ。憎んだ男の「死亡通知書」で20年ぶりに集う同級生、独身の私はどう映る?
 板チョコのような重い扉を百恵が開けると、真っ赤な口紅を施したママさんがいつものように明るく出迎えてくれた。 「い...
「20年モノのフライパン」がかっこいい? 貧乏戦線に異状あり!
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
お酒の席の“あのルール”に物申したい! グラスに注ぐベストタイミングは…
 働く側としても、お客さんとしても大好きなスナック。今後も良いところをどんどん書いていければと思っているのですが、今回は...
若者が『めおと日和』の“昭和な恋愛”に胸キュンするのは何故? タイパ重視じゃないもどかしさ
 アラフィフ独女ライターのmirae.です。前回のコラムでは、「50代の恋愛にときめきは必要なのか?」というテーマについ...
婚活に介護…もう頑張れない。アラフォー女性が抱えがちな問題、6つのケースを聞いた
 今回ご紹介するのは、アラフォー女性の悲鳴。「もう頑張れない」と思っていることを教えてもらいました。同じ悩みを抱えている...
怒った中年の顔は「ブス」だと知った。更年期世代がイラついた時にするべき大事なアレ
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
ゴロンする一瞬♡ 奇跡のモフモフ“にゃんたま”とプニプニ頬っぺが尊すぎる
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...