娘の名門合格を喜べない…男に依存してきた妻が「女子校進学」を強いる理由

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-02-08 06:00
投稿日:2025-02-08 06:00

初カレは地元のヤンキーだった私

 地元・群馬では地域一番の美人と言われていた愛子。初めての彼氏はイケメンのヤンキーだった。そのため、中学時代は両親を悲しませた過去がある。

 当時の彼氏や仲間とは、父から勧られた進学による上京で切れた。だがその後、すぐに最初のバイト先で当時バイトリーダーだった5歳年上の晴信に出会い、グイグイ押された末に断り切れず交際を経て今に至る。社会人経験は一切ない。

 つまり、男の押しに流されるだけの人生で――。

 現在余裕ある生活をしていることもあって、やり直したいとは思わない。ただ、この人生を後悔していないと言えば嘘になる。

 だからいつからか、美愛には中高一貫の女子高に通って欲しいと考えるようになった。女子校なら、思春期の6年間は異性の目を気にせず、のびのびと自立心を育められるだろう、と。

 横浜には山手に、横浜女子御三家と言われるキリスト教系の歴史ある女学校がある。いずれも偏差値は60近辺。頑張れば美愛にも手が届きそうなことも魅力であった。

「美愛、横浜雙葉の学園祭に行ってみましょうか」

「うん、行きたい!」

 美愛の小学校3年次の秋。文化祭シーズンに横浜雙葉中学の学園祭に連れて行くと、愛子の望みはすんなりと彼女の意志になった。この学校はもちろん横浜女子御三家のひとつ。緑あふれる中の歴史を感じさせる校舎に美愛の目は輝いていた。

 何より愛子を喜ばせたのは、他の女子校よりずば抜けてお嬢様度が高いと言われるその校風。

 はしゃいだ美愛が転んだ際、在校の女生徒がさっと駆け寄ってきてハンカチを差し出してくれた。控えめにイニシアルが刺繍された純白のそれは、愛子の瞳に焼き付いた。

気品ある少女の姿に見惚れる

「あ、ありがとう…ございます」

「どういたしまして」

 拙く礼を言う美愛に対しても丁寧に頭を下げる彼女は、まだ幼げな少女ではあったが、所作の隅々に気品があった。

 立ち上がり、きょろきょろとあたりを見回しながら歩く小さな背中を眺めながら、この学校に美愛が通うことができたならどんなにいいだろうと、明るい未来を想像する。

 しかも、雙葉という全国的に名が知れた冠を持つ歴史ある名門に通う生徒の母親になることは、自身にとっての誇りにもなるだろう…と。

「美愛、あなたならきっとここの生徒になれるはず。4年後の春が想像できるもの。ママと一緒に頑張りましょう」

 愛子は美愛の手をぎゅっと握った。

 美愛も当然その手を強く握り返した。

#2へつづく:東京の「Fラン大学」を出た誇り 優秀な娘に人生を重ねるママの傲慢な願い】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「私は一応慶応卒」学歴マウント炸裂!ママ友から届いた地獄LINE6選
 子育て中の女性が避けて通れないのが「ママ友との付き合い」ですよね。中にはドン引きするようなマウント女や、辛辣な物言いを...
10年分のカネの流れが怪しい。会員数が集まり⼤喜びしたのもつかの間…
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
円満退職に必要な最低限のマナー6選、「立つ鳥跡を濁さず」は社会人として当たり前!
 終身雇用の時代は終わり、今では6割の社会人が転職経験ありだというデータも出ています。読者の皆さまのなかにも、「転職しよ...
更年期、それはある日突然に…45歳女の体が『倦怠感で満タン』になった
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まった老...
生理前を穏やかに過ごすご機嫌アロマ術【調香師が解説】タイプ別おすすめの香り・精油・香水は?
 女性の体は生理が近づくとホルモンのバランスが崩れ、精神的なイライラや落ち込みに加え、むくみや便秘、疲れやすさなど、PM...
兄弟姉妹なのになぜ不仲? 怒る前に知っておきたい原因5つと対応策3つ
 子育てをしていると、兄弟姉妹の不仲に悩む人が多いですよね。一体何が原因なのでしょうか? また、自身が親になっても兄弟姉...
思わず二度見!『バブ』新商品・MEGA級のボコボコ泡の実力は? 自宅の風呂がジャグジーになるのか
 話題のコスメや、広告でよく見かける化粧品や日用品。「webでよく見るあの商品、本当にイイの? 」「買ってみたいけれど、...
手のぬくもりとともに
 自然と手を合わせるときの気持ちって、  みんな、おんなじだよね。
実りの秋! 澄みわたる青空の下“たまたま”狩りに出かけませんか?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
女と水がいっぱいだ…『娑婆』は何て読む? ヒント:「娑婆はいいな」
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ほっこり癒し漫画/第83回「迷いインコ歌をうたう 前編」
【連載第83回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
中目黒「ダコー」はまだ大混雑? 代官山「無印良品」新店はオサレな店員さんだらけだった!【秋の東京散歩】
 8月のオープン時には話題を呼び、大行列をなしていた中目黒のパン屋「ダコー(dacō)」。あれから2カ月が経ち、やっぱり...
下世話な仕事がバレた? 夫や息子の「意外な反応」で主婦が気づいたこと
 大崎の高層マンションに暮らす華は、テレビ局に勤める夫・大輔と二人の子供に囲まれ悠々自適な専業主婦生活を送っている。毎日...
地味な女に負けた? 夢を諦めた“こたつライター”の「プライド」が砕かれるまで
 大崎の高層マンションに暮らす華は、テレビ局に勤める夫・大輔と二人の子供に囲まれ悠々自適な専業主婦生活を送っている。毎日...
私の「仕事」は夫に内緒。専業主婦が下世話なゴシップにのめり込むワケ
 夫を仕事に、ふたりの息子を小学校に送り出してからが、自分の時間だ。  長時間かけて丁寧に淹れたブルーマウンテンを...
プロ作家・村上龍先生をリスペクト。64歳のプロ童貞が語る「自己啓発本を好きなこれだけの理由」
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...