主婦vs丸の内バリキャリの「マウント合戦」は漫才よりも笑える。“負け顔”ができる女芸人の観察

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-03-08 06:00
投稿日:2025-03-08 06:00

主婦とバリキャリのマウント合戦が始まる

「すみれ、アワビ残しておいたよ」

「え…いいの?」

「どうぞ、いっぱい食べてよ。すみれには頑張ってほしいからさ」

 たぶん彼女は、私をいまだ貧乏な夢追い人だと思っている。

 昨日は南麻布でお鮨を腹いっぱいに食べた。プライベートのパートナーでもある同期芸人のおごりではあるのだけど。

「ねえ、時間大丈夫なら、品川に移動しない? 行きつけがあるの」

「そうね、パパと子供に確認してもいい?」

「別に確認しなくてもいいじゃない。麻梨乃さんはめったに行けないでしょう」

「これで、家庭円満が保たれるなら安いものよ」

ネタにしたくなるのが、芸人のサガだ

 2人の間にもうっすらとした戦慄が流れていることに気づく。

 なんだか楽しくなってきた。これはネタになる。マラドーナがどうこうより、絶対に面白い。

 私はスマホを取り出し、メモ帳アプリを開いた。

「すみれも行くよね?」

「もちろん。でもさ、品川に移動しようなんてセリフ、ネタ合わせの時みたい」

「あった! この辺の公園でのネタ合わせは、うるさくて苦情がくるからって品川まで徒歩で行っていたね」

「なつかしー!」

負け顔ができる芸人はどこでも重宝される

 みんな、自分の人生が正しいと思いたい。

 勝手に周囲を低め想像して眺め、勝手に安心している。

「パパと子供たち、どうぞ行ってらっしゃいって」

 満面の笑顔で麻梨乃さんは告げた。

「優しー。じゃあ、ふたりを付き合わせるお礼に、ここはおごるよ」

 翠さんは、シャネルの財布をちらつかせながら私と麻梨乃さんに微笑む。私は、馬鹿な後輩を演じ、有難く好意を受け取ることにする。負け顔ができる芸人はどこでも重宝される。

 彼女たちとは、これからも頻繁に会いたいと思った。

 春からの深夜番組とラジオのレギュラーが決まったことは、次の店で話そう。とても喜んでくれるといいのだけれど。

Fin

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


まるで宝探し!話題の木更津コンセプトストアでほっこりした男女の会話
 昨年6月、三井アウトレットパーク木更津(千葉)の隣にオープンした「木更津コンセプトストア」。サステナブルな社会を目指し...
「量と質」どちらを優先するか迷ったら経験値を振り返ろう
 大人になると「量より質」を意識する機会が増えますよね。私の場合、食事に関してはまさにそうなってきた気がします。  そ...
湧き水が心にも沁みてくる 福井県爪割の滝
 北陸地方に甚大な被害をもたらした能登半島地震。  被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。  つらいこ...
貫禄の毛繕い中をパチリ!ありがたいご神体“たまたま”に感謝
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
【2023年人気記事】セックスは嗜好品?子宮頸がんサバイバーの性生活
 2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記事を再掲載します。こちらの記事初...
2024-01-04 06:00 ライフスタイル
近すぎなくていい 毎日は“ゆるい人間関係”に支えられている
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
【2023年人気記事】吉田沙保里と大久保嘉人は公認? ウロつく女が嫌!
 あけましておめでとうございます。2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...
【2023年人気記事】新宿立ちんぼ女性に異変…進む売春のフリーランス化
 あけましておめでとうございます。2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...
【2023年人気記事】ラブホテルに泊まりました。
 あけましておめでとうございます。2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...
駆け落ちにマッチングアプリ…いつの時代もロマンティックに憧れる
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
【2023年人気記事】新幹線で帰省、ヤバい親子に遭遇!お互い様の解釈
 あけましておめでとうございます。2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...
年が明けたところで 正直なんも変わらないけれど…
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
あけましておめでとう! 2024年はどんな年になるだろうね
 スサノオノミコトが造った日本初の宮、島根県須我神社。  なかなかゆっくり参ることはできないから、気持ちだけでも、...
姦、嫐、嬲…スキマ時間に読み方クイズはいかが? 漢字って奥深い。
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
女同士の嫌味合戦に終止符を! 相手を黙らせる冴えた返し方
 女同士の嫌味の言い合いは、いつだって熾烈。 相手が職場の上司や同僚だと、言い返すことができずストレスになってしまう場合...
また!snsのアイコンコロコロ変えるの何で?4つの心理&注意したいこと
 あなたはsnsのアイコンをどのくらいの頻度で変えますか? snsを始めてから一度も変えたことがない人もいれば、月に一度...