“百戦錬磨”香川照之ゆえの提案「全6話、スイッチを仕込んでいます」【主演ドラマ『災』インタビュー】

コクハク編集部
更新日:2025-04-05 06:00
投稿日:2025-04-05 06:00
「連続ドラマW 災」(WOWOW、6日22時スタート)は、湿り気を帯びた陰鬱な雰囲気とぞわりとする劇伴が感情を揺さぶる不気味なドラマだ。視聴後は誰かと無性に“答え合わせ”をしたくなり、一回見ただけでは受け止めきれない。
 そしてなにより、主演を務める香川照之(59)は一人6役を演じ分け、見る者の心をざわつかせる。

6人分の“ある男”の役づくり

「僕の食指が動くような奇妙なお話しを書いていただいてうれしかったです」

 軽く笑いを誘うように出演オファーを受けた時の心境をこう話す。『災』は監督集団・5月の関友太郎・平瀬謙太朗両氏が共同で監督・脚本・編集を務める完全オリジナルドラマだ。主人公は葛藤を抱えながら現代を生きる男女6人。それぞれの物語に香川演じる“ある男”が紛れ込み、災いが無慈悲に降りかかるさまをおどろおどろしく描いていく。

 今回のドラマについて、硬軟問わず数多の作品に出演してきた“百戦錬磨”の実力派は、原作のある作品との違いを楽しんでいた。

「漫画や小説の原作がある、あるいは実在する人物を演じる場合は、資料などを参考にしながら似通うカタチに昇華させる楽しみがあります。かたやオリジナル作品は、役者自身が作品において担うパーセンテージは大きくなるものの、そのぶん、想像を膨らませ、新しい要素を加える面白さと難しさがありますね」

 香川が演じた6役はそれぞれ容姿、口調、顔つき、性格、所作も異なる全くの別人で、台本には素性や性格、学歴・職歴、食の好みなど一切書かれていなかったという。6人分の“ある男”の役づくりは、演じる役者自身にほぼ委ねられていた。そのため一役を演じる作品の6倍かそれ以上に、役者冥利な瞬間を味わったかもしれない。

【こちらもどうぞ】草地稜之は「推し活」未経験者に伝えたい。応援することに年齢も容姿も関係ない【NEXTブレイクイケメン】

監督2人に持ち掛けた「トリガーを引く瞬間のスイッチ」

 5月組への参加は、主演映画「宮松と山下」(2022年公開、ビターズ・エンド配給)以来、2作目。信頼関係が構築されているからこそ、その思いに応えるかのように、香川は監督2人にひとつのアイデアを持ち掛けたという。

「“ある男”がトリガーを引く瞬間のスイッチをつくりませんかと提案させていただきました。この作品は犯行の決定的なシーンが描かれず、犯人はおろか殺意も不明瞭で、各回にゲスト出演する役者さんも異なる現場で出演した。そこで、ひとつのスイッチを設けることで、各回を橋渡しする役目にもなるのではないかと考えたんです。この案は採用いただき、全6話に同じスイッチを仕込んでいますが、顕在化させたわけではないので、見ていても気が付かないかもしれないし、2話目、3話目あたりから変な違和感を抱いていただけるかもしれません」

誰もが直面する災いの“根源”は

 タイトルにもあるように、テーマのひとつは人間の身に降りかかる災いだ。大なり小なり誰もが直面する『災』については、どう捉えたのだろうか。

「人は一生の最大の悲劇である死に至るまでの間に祝福や幸せ、安らぎを感じ、またそのカウンター(反対)として病気や災いといったものも経験します。それらのすべては、僕は何億光年先の惑星が色濃く影響した宇宙によって針一本の誤りもなく、綿密につくられたその支配を否応なく受けていると思っています。

 2人の監督は、その目に見えない領域のひとつとして、“ある男”というものを描いたのではないでしょうか。でもそれって、とんでもなく難解な話ですよね(苦笑)。なので、シンプルに、災いひとつとっても偶然ではなく必然であり、そういうものを受け入れていかなければいけないということがテーマなのだと受け止めました」

「学校で学んだことはあくまで学問」

 大学では社会心理学を学び、そこで得た知見が、役作りをする上でどのように役立っているのかを尋ねてみると、「なんにもないですよ。学校で学んだことはあくまで学問。主体的に学んだ人は大学で吸収した知識や経験が生きているとは思いますが、僕は人間の心理や描写が好きだったので心理学を専攻しただけ」と謙遜する。

 だが今作には、人間観察が好きな香川らしさが出ているようだ。演じた6役にはモデルがいるという。なかには香川にしか分からない人物も含まれているというから面白い。「台詞を覚えながら口調を考えるうち、『あ、あの人のしゃべり方がぴったりだな』と顔がパッと思い浮かんで物まねをした」と明かす。

 不可解な事件を締めくくる最終話の「ある男」は自分自身がモデル。口調やトーンを“まねた”というから、どう演じているのか大いに注目したい。

(取材・文=小川泰加)

◇香川照之(かがわ・てるゆき)
 1965年、東京都出身。AB型。1989年のNHK大河ドラマ「春日局」でデビュー後は独特の存在感で頭角を現す。「剣岳 点の記」(2009年、木村大作監督)で第33回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞、TBS日曜劇場「半沢直樹」シリーズの大和田暁役、大河「龍馬伝」(2010年)の岩崎弥太郎、「坂の上の雲」(2009年)の正岡子規などで印象的な演技で魅了する。

WOWOW「連続ドラマW 災」

 4月6日22時スタート(全6話)、毎週日曜22時~、第1話無料放送
https://www.wowow.co.jp/drama/original/sai

YouTube・WOWOWオフィシャルチャンネルにて、第1話先行無料配信中

コクハク編集部
記事一覧
コクハクの記事を日々更新するアラサー&アラフォー男女。XInstagram のフォローよろしくお願いします!

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


「あんぱん」ヤムおんちゃん登場! “じいさん”呼ばわりがちょっと切ない…。のぶや嵩とはどう再会する?
 ラジオドラマ「やさしいライオン」は、たくさんの人の耳に届いていた。しかし、登美子(松嶋菜々子)の反応が気になる嵩(北村...
桧山珠美 2025-09-01 17:08 エンタメ
【芸能クイズ】山下美月は一級船舶免許。意外と多い“資格取得者”を検索できる事務所は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
欅坂46から10年。平手友梨奈らの脱退・卒業、解散危機に改名…櫻坂46はいかに“最高地点”へ辿り着いたのか
 櫻坂46が8月24日、全国ツアー「5th TOUR 2025 “Addiction”」の千秋楽を終えた。愛知、福岡、広...
こじらぶ 2025-08-31 12:22 エンタメ
「あんぱん」羽多子の“夢”はヤムおんちゃんの影響ですか? 予告にチラリと映る姿にも歓喜!
 のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)は引っ越しをして羽多子(江口のりこ)と同居生活を始める。そんな中、電話に出た羽多子が、...
桧山珠美 2025-09-13 11:33 エンタメ
「あんぱん」脚本家が“1番書きたかったこと”に目からウロコ! すべては聡明なお子様のおかげ…
 ある日、嵩(北村匠海)にファンレターをくれた小学生の佳保が、祖父の砂男(浅野和之)と柳井家にやってくる。笑顔で迎えるの...
桧山珠美 2025-08-28 15:25 エンタメ
「あんぱん」八木(妻夫木聡)と蘭子(河合優実)カップル、オトナの視線の絡み合い…朝から見ていいんですか?
 八木(妻夫木聡)のひらめきで嵩(北村匠海)の詩とイラストが入った陶器のグッズは追加注文が来るほど売れていた。それでもも...
桧山珠美 2025-08-28 15:03 エンタメ
坂口健太郎に逆セクハラ騒動。永野芽郁にmiwaとも…BLACKPINK リサだけじゃない“女性に押される”男の特徴
 BLACKPINKのリサ(28)が国境を越えて、大炎上中だ。今年2月にリリースしたソロデビューアルバム『Alter E...
田中麗奈、45歳。心も体も変化するなか、ずっと変わらない“芝居”への気持ち
 多くの人の心をつかんだ「なっちゃん」のCMの初代キャラクターに始まり、映画『がんばっていきまっしょい』『はつ恋』、近年...
望月ふみ 2025-08-24 11:45 エンタメ
『あんぱん』のぶ、山に登って「ボケー!」は“征服欲”の成せる業か? アンパンマンの原型がついに爆誕
 のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の別居生活が続く中、登美子(松嶋菜々子)から嵩の名前の由来を聞いたのぶは、ひとり山へ向...
桧山珠美 2025-08-28 15:04 エンタメ
ラウール、22歳の色気が破壊級!「愛の、がっこう」は“代表作”になると断言してもいい
 夏ドラマも中盤にさしかかりました。そのなかでも回を重ねるごとに盛り上がっているのが、木曜劇場「愛の、がっこう」(フジテ...
【芸能クイズ】松本人志が福山雅治と「HEY!HEY!HEY!」で作った“オリジナル料理”の名前は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
「あんぱん」羽多子らの“あの言葉”にあんぐり…のぶも感動してる場合か。落語家の年齢も気になる
 嵩(北村匠海)は「まんが教室」という番組に出演してほしいという健太郎(高橋文哉)の頼みをしぶしぶ承諾する。そして第1回...
桧山珠美 2025-08-28 15:06 エンタメ
「あんぱん」のぶ、議員のコネ入社なのに“クビ”の謎。急成長したアキラ君と老けないオトナ達に酔いそう…
 嵩(北村匠海)が書いた詞にたくや(大森元貴)がメロディーをつけて生まれた「手のひらを太陽に」は、「みんなのうた」でも紹...
桧山珠美 2025-08-28 15:06 エンタメ
スキャンダル続出の花田優一、美女にモテまくるのは何故? 不誠実男に学ぶ「悪名は無名に勝る」メリット
 元横綱・貴乃花光司と元フジテレビアナ・花田景子を両親に持つ“親の十四光り”の花田優一。  現在、元テレビ東京アナ...
堺屋大地 2025-08-17 11:45 エンタメ
「あんぱん」八木(妻夫木聡)と蘭子(河合優実)、“何か”が始まっちゃう? 嵩は作詞能力をいつ見抜かれたのか
 舞台公演は成功裏に幕を閉じる。数日後、なぜかぼんやりした様子の嵩(北村匠海)。そこに、また一緒に楽しい仕事をしようとた...
桧山珠美 2025-09-04 12:26 エンタメ
カズレーザー、山里亮太…芸人はなぜモテる? 業界人が分析する「メロい」現象が起こりやすい納得の理由
 カズレーザーさんと女優の二階堂ふみさんが結婚した。週刊誌にも撮られなかったどころか、噂すらなかったので世間はびっくり&...
帽子田 2025-08-15 11:45 エンタメ