あご勇さんが今のエンタメ界を憂う「“体を張れない”芸人も地上波バラエティーも遅かれ早かれ消えていく」
【注目の人 直撃インタビュー】
あご勇(タレント)
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長い顔につながる立派なアゴを武器にザ・ハンダースで活躍。その結成から50年を迎えた。桜金造(68)と結成した「あご&きんぞう」(旧アゴ&キンゾー)では、自分のアゴで凝った肩をたたくギャグや、クリクリの目を生かしたエマニエル坊やのモノマネで大人気に。昭和から令和を生き抜いたベテランに芸能界の光と影、そして今のエンタメ界についての率直な思いを聞いた。
──1975年に結成されたザ・ハンダースは当時“帝国”と呼ばれた渡辺プロダクションの所属。78年にはモノマネメドレーで歌う「ハンダースの想い出の渚」も大ヒット。さぞかし楽しい思いをしたのでは?
とんでもない。ハンダースはザ・ドリフターズやキャンディーズ、沢田研二さんら“ナベプロ本流”ではなかったこともあり、ピークでさえ給料は20万円でした。サラリーマンの大卒初任給(※当時は9万円程度)の倍以上もらっていた計算になるけど、芸能人としてはちょっとね。しかも男だらけのメンバー6人が一軒家で合宿生活していました。ケンカした清水アキラさん(70)が金造サンの布団の上で大便したり、メチャクチャでした。いきなり汚い話ですみません。
──解散後に「にぎりっ屁」などの一発ギャグで知られるその桜金造とコンビを組んでさらにブレークしました。
たしかにアゴ&キンゾー時代は羽振りが良かったですよ。レギュラーは12本、年収3000万円の売れっ子でした。ただ、体を張っていましたから、仕事はかなりきつかった。テレビにコンプライアンスなんて一切ない時代で、ワニ園で“ターザンの格好をしてあのワニにワニ革のベルトしてきて”だの“ハブとマングースが闘っている箱に顔を突っ込んで”といったハチャメチャな企画ばかり。これは局のせいじゃないけど、日本テレビ系「たけしのお笑いウルトラクイズ」で鉄はしごを金造サンとよじ登っている時に上からニョロニョロと何かがこぼれてきて……。金造サンのオシッコ! あの味は一生忘れられません。
52歳で一度タレントに見切りをつけて営業マンとして働きました
──83年、26歳の時にコンビが解散状態になると徐々に下り坂を迎える。
実際にはアゴキンは今も解散していません。ただ、ギャラの配分や金造サンのムチャぶりに疲れ果てて、彼としばらく距離を置くことを決めました。芸人のダメなところだと思いますが、たくさん稼いでも、翌年に確定申告する税金とか一切考えないんですよね。しかも20代半ばでしょ?財布に100万円入れて、毎晩のように六本木や新宿で後輩と飲み歩いた。で、金造サンと仕事をしなくなってからは、千葉の実家に戻って、焼き鳥店やプールバーを経営していました。でも、ド素人ですから儲かるワケがない。結局、赤字続きで店は3年で閉めました。
──34歳の時に清水アキラと偶然再会し、清水エージェンシーと契約。月給50万円をもらい、披露宴費用200万円も貸してもらい、当時アパレル勤務をしていた妻の聖子さんと立派な結婚式を挙げることができたという。
アキラさんの事務所には8年間所属し、お世話になりました。91年にフリーになって、2002年に膝前十字靱帯再建という大きな手術をしてから仕事が減り始めたんですが、なかなか生活水準を落とすことができず、方々からお金を借りていたら46歳の時に借金が1000万円の大台に乗っちゃったんです。それで52歳で一度タレントに見切りをつけて、アトム電器という全国に加盟店がある関東支部のマエダデンキさんで歩合の営業マンとして働きました。最初は芸能人が訪問販売なんて、という妙なプライドがあって、本名の「鵜沢勇」で営業していましたが、玄関をピンポ~ンとやったら、“アレあごさん?”と雑談してくれる人もいましてね。やはり、このアゴには感謝しています。
──08年にはアゴキンを「あご&きんぞう」に改名して復活。
25年ぶりの復活で少し注目してもらいましたけど、東京・浅草の寄席に立ってもギャラは2人で6000円くらい。折半して、酒飲んだらもう赤字ですよ。金造サンが脳出血で手術したこともあって、静かに出番が減っていきました。
芸人の年金は?
──ところで、高齢者の年金が問題になっていますが、あごさん世代の芸人の年金は?
大変に申し訳ありません!少なくともボクは無年金。実にどうも情けない……。このままだと生活が立ち行かなくなると思って、12年前に家賃18万円の部屋から7万8000円の郊外の3DKのアパートに引っ越しました。借金もいくらか残っているので、とにかく働き続けるが今の生きがいというか目標です。
──さらに還暦になって思わぬ転機が訪れたそうですね。
これまた清水さんのツテで、観光バス会社の社長に声をかけてもらい、17年に国内旅行に添乗できる「国内旅程管理主任者」の資格を取って、バス添乗員に挑戦することになったんです。
──4月22日放送の「ありえへん∞世界」(テレビ東京系)では、添乗員をしている様子が映し出されました。ド派手なメガネと麦わら帽子で自ら引率する「アゴーハツアー」が人気だとか。
コロナ前は月10回から、多い時は16回くらい“出動”しました。千葉の外房、内房、静岡の三島スカイウォーク、山梨、群馬、茨城、埼玉と関東近郊の日帰りツアーがメインですが、これがなかなかやりがいがあって。テレビのバラエティーの出演者って稼働時間は1時間とか、芝居でも大体2時間くらい。だけどバス添乗員は10時間くらいザラ。時間管理とか芸能マネジャーがやるような業務が多いんですが、ボクは細かいことが好きというか、意外と添乗員に向いていることに気が付いたんです。
──畑違いの“転職”ですが戸惑うことはありませんでしたか。
バスツアーは集合時間が朝早いですからね。毎朝4時に起きるようになりました。ツアー前日は禁酒で夜9時には寝ます。おかげさまですっかり健康になりました。
■永野芽郁を泣かした江頭2:50は悪いのか?
──適度に芸能界から距離を置いたからこそ見えてきたものもあるとか。今年3月29日に生放送された「オールスター感謝祭25春」(TBS系)で、お笑いタレント・江頭2:50(59)が永野芽郁(25)を追い回し、永野が涙を浮かべたことで江頭が謝罪し、TBSは反省のコメントを出しました。その後の永野の不倫報道はさておき、今のバラエティーはどう映りますか?
江頭さんは“出演するからには何かしなければ”と使命感を持って出てきたわけだから彼を責めるのはお門違い。TBSはYouTube再生回数の多いスターを出演させて視聴率を上げようとしたけど、安易なキャスティングが空回りしてしまった。演出側の責任ですよ。こんなこと言うとネットで叩かれちゃうかもしれないけど、本来、芸人は命懸けの仕事。そのために穴に落ちて大けがしたり、足を骨折する仲間をたくさん見てきました。“芸人を痛めつけるのがありき”の番組は論外ですが、最近の芸人はお客さまを笑わせるために自分の体をほぼ張らない。“コンプライアンス”の名の下にサラリーマン化したテレビ局も事故やトラブルを避けようとして、体を張ることを許さない。まあ、ボクがそれをどうこう言って嘆いたところで、この流れは絶対に戻ることはないでしょう。残念ながら、地上波のバラエティーも芸人も遅かれ早かれ消えていく運命にあると思います。
──フジテレビのテレビマンは、経費で高級ホテルのスイートルームを借り切って、芸人とドンチャン騒ぎを繰り広げる痴態が第三者委員会の報告書でさらけ出されました。
会社の経費でスイートルームってやっぱりサラリーマンだよね。どこの局とか事務所とか言えませんけど、事務所幹部に小遣いをせびりに来るテレビマンはボクの時代からいた。サラリーマン根性は昔から。そうした不適切な関係が先輩から後輩へ脈々と伝えられ、気が付けばテレビ局が事務所や有力タレントの言いなりに何でもやってしまうようになってしまったわけです。今回、中居正広さんが引退して、フジテレビは役員人事刷新して“ハイおしまい”みたいな流れになっているけど、そんなものでたまりにたまった膿を出しきれるわけがない。癒着構造が続く限り、他局も含めて同じような問題が繰り返されていくと思います。
(聞き手=岩瀬耕太郎/日刊ゲンダイ)
▽あご勇(あご・いさむ)1957年8月14日生まれ。67歳。千葉県出身。74年に「ぎんざNOW!」の「素人コメディアン道場」で7代目チャンピオン。「ザ・ハンダース」「アゴ&キンゾー」を経て、2017年に旅程管理主任者の資格を取得。芸能活動と並行してバスツアー添乗員をしている。
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