『あんぱん』嵩(北村匠海)に“たっすいがー”の面影はない。のぶへの言葉が胸を打つ「正しい戦争なんか、あるわけがないんだ」

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2025-07-01 17:39
投稿日:2025-06-25 18:01

第13週「サラバ 涙」#63

 空襲の焼け野原でひとり佇むのぶ(今田美桜)の前に、嵩(北村匠海)が現れて再会を果たす。釜次(吉田鋼太郎)から事情を聞いたという嵩に、のぶは教師を辞めたことを話し、子どもたちに取り返しのつかないことをしてしまったと後悔を口にする。

 自分は生きていていいのだろうかと涙を流すのぶに、死んでいい命なんてひとつも無いと、静かに語りかける嵩。

【こちらもどうぞ】「あんぱん」のぶ、“落とし前”の付け方はそれでいいのか。次郎役の中島歩はあまりにも素晴らしかった

【本日のツボ】

嵩、「たっすいがー」返上!? 

 ※※以下、ネタバレあります※※

 のぶと嵩、4年ぶりの再会だというのに、なんだかテンション低めののぶ。遡ること4年。嵩、出征の際、“愛国の鑑”という立場も忘れて、「嵩、必ずもんてきい! お母さんのために、生きてもんてきい! 死んだら承知せんき!」と絶叫していたにも関わらず、命からがら帰ってきたというのに、気のない感じで「嵩、生きちょったが」ですから。

 なんなんでしょう。このぱるるもびっくりの塩対応。ここは駆け寄って、生きて帰ってきたことを喜んでほしいところです。嵩もわざわざのぶに会いに来たのは、ちょっぴりそんな期待があったのでは、というのは下衆の勘ぐりでしょうか。

 もっとも、のぶは、子どもたちを誤った道に導いたと、絶賛、反省中なので、嵩どころではない、という体なのでは、という気も……。

 なんといっても、未亡人になったばかりですから、早くも嵩と急接近なんてことになれば、視聴者の反感を買いかねませんから。朝ドラのヒロインは好感度が一番というのは、「おむすび」の橋本環奈で実証されましたから。ここは適度な距離を保つのが賢明と判断したのでしょう(おそらく)。

 それにしても、あの「たっすいがー」の嵩がずいぶん強くなったように見えました。戦争という過酷な体験を経て、たくましくなったというか……。

「正しい戦争なんか、あるわけがないんだ」

「うち、生きちょってえいがやろうか」と涙するのぶに、「死んでいい命なんてひとつもない」と語りかける嵩。

「正しい戦争なんか、あるわけがないんだ」

「正義なんか信じちゃいけないんだ。そんなもの簡単にひっくり返るんだから。でも、もし……逆転しない正義があるとしたら、すべての人を喜ばせる正義。僕はそれを見つけたい。千尋のために、そうすることしか僕にはできないと思って。

 何年かかっても、何十年かかっても、みんなを喜ばせたいんだ。そう思ったら、生きる希望が湧いた。絶望なんかしてられないって。だから生きるんだ。千尋の分も、みんなの分も。のぶちゃんも、生きてくれ。次郎さんの分も、のぶちゃんが大好きな子どもたちのためにも」。

 熱く語る嵩に、もはや「たっすいがー」の面影はありませんでした。

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


15分の朝ドラで高揚感を得られるんだ! のぶ&嵩の“子役最終回”が見せた未来の夫婦関係
 久しぶりに登美子(松嶋菜々子)の顔を見て胸がいっぱいになる嵩(木村優来)だったが、登美子は困惑した表情を浮かべる。のぶ...
桧山珠美 2025-04-12 06:00 エンタメ
旧ジャニ会見から1年半、STARTO社の再興成否…CD売上と人権意識から考察、ファンは一体何を望む?
 2023年9月および10月、旧ジャニーズ事務所は創業者問題で2度記者会見を開いた。その後、同社所属タレントのテレビ・C...
こじらぶ 2025-04-12 06:00 エンタメ
「あんぱん」阿部サダヲの配合絶妙な演技。高知つながりで“しょくぱんまん”登場!
 元気のない家族のために力を貸してほしいというのぶ(永瀬ゆずな)の頼みに、草吉(阿部サダヲ)は1回きりの約束であんぱんを...
桧山珠美 2025-04-09 17:20 エンタメ
『あんぱん』RADWIMPSの主題歌は本当に「合っていない」のか? 正統派・朝ドラOPの真逆を貫いた意味
 2025年3月31日より、NHK連続テレビ小説『あんぱん』の放送が開始された。国民的キャラクター「アンパンマン」生みの...
「R-1」さや香・新山や吉住らベテラン勢はなぜ負けた? 売れっ子は予選で有利、決勝で不利な理由
 最もおもしろいピン芸人を決める「R-1グランプリ2025」(フジテレビ系)が3月8日に開催された。決勝常連組やベテラン...
帽子田 2025-04-09 09:48 エンタメ
ヤムおんちゃん草吉はあんぱん代をきっちり集金。ジャムおじさんとは違う“先導”に期待膨らむ
 草吉(阿部サダヲ)のあんぱんを食べて、生きる力をもらった朝田家。羽多子(江口のりこ)は内職の仕事を始め、釜次(吉田鋼太...
桧山珠美 2025-04-07 17:20 エンタメ
「あんぱん」ウラの見所~初週からブチかまし!細部に神経が行き届いた作品だと印象付けた中園脚本
 結太郎(加瀬亮)があの世に旅立ち、悲しみに暮れる朝田家。しかし、のぶ(永瀬ゆずな)は一粒の涙も流さなかった。そんなのぶ...
桧山珠美 2025-04-05 06:00 エンタメ
“百戦錬磨”香川照之ゆえの提案「全6話、スイッチを仕込んでいます」【主演ドラマ『災』インタビュー】
「連続ドラマW 災」(WOWOW、6日22時スタート)は、湿り気を帯びた陰鬱な雰囲気とぞわりとする劇伴が感情を揺さぶる不...
朝ドラ「あんぱん」の描写に25年前の“名台詞”が…CA役だった松嶋菜々子の変わらぬ美貌はさすが過ぎる
 ある日、のぶ(永瀬ゆずな)は千尋(平山正剛)とシーソーに乗る嵩(木村優来)を見かけるが、千尋が軽くて動かない。そこでの...
桧山珠美 2025-04-02 17:20 エンタメ
「あんぱん」ヒロインの着物がオレンジ色の納得。ドキンちゃんのモデルゆえの演出
 昭和初期、家族の愛情をたっぷり受けて育った少女が高知の町中を勢いよく駆けていく。「ハチキンおのぶ」こと朝田のぶ(永瀬ゆ...
桧山珠美 2025-03-31 17:20 エンタメ
朝ドラ「あんぱん」男性俳優陣がめちゃ豪華! 赤楚衛二路線で大ブレーク必須な最注目の若手は?
 31日(月)から新しい朝ドラが始まります。その名も連続テレビ小説「あんぱん」。あの「アンパンマン」の作者やなせたかしと...
【おむすびにモヤっと】伏線をまき散らして放送終了、そしてモヤモヤが残った。結はとんでもなくヤベ~やつ?
 歩(仲里依紗)から詩(大島美優)を引き取ろうとするのは甘かったかもしれないと聞いた結(橋本環奈)は、仮定の話を気にして...
桧山珠美 2025-03-29 06:00 エンタメ
【写真特集】倖田來未の美し過ぎるバスト♡ギリギリショット5連発
【この写真の本文に戻る⇒】40代の倖田來未が《全盛期と変わってない》と話題に…20年前と同系ファッションでも、なぜ痛くな...
2025年「冬ドラマ」を調査! 独走状態の『ホットスポット』、疲れた大人世代に『御上先生』は難しかったか
 2025年1月よりスタートした冬ドラマ。惜しまれつつ最終回を迎えたドラマがあった一方で、期待されていたものの視聴率が振...