「オレ、米しか食べないんだよね」って、えぇ?
日曜のランチ。場所は都内のおしゃれなビストロ。私は白のブラウスにベージュのワイドパンツ、軽く巻いた髪と控えめな香水。待ち合わせに現れた彼は、写真そのまま…というより、少し痩せて疲れて見えた。
「やっと会えたね」
そう言った彼は、まるでスクリプトを読み上げているかのようなテンションで、目もほとんど合わせてこない。
店に入っても、その違和感は強まるばかりだった。彼は渡されたメニューに一瞥をくれると、すぐにスマホを取り出してカタカタとタイピングを始めた。
仕事かな? と思って黙っていたけれど、その手は一向に止まらない。「何にする?」と聞いても、目を合わせず「なんでもいいよ」。
いや、“なんでもいいよ”って、選ぶ気ゼロすぎない? 仕方なく私が先にパスタを注文してメニューを閉じると、ようやく彼が顔を上げて言った。
「てかさ、オレ、米しか食べないんだよね」
……ん? 今なんて?
「基本、白米じゃないと無理で。小麦系、あんま得意じゃなくて」
ここ、パスタとピザしかないんですけど。彼は「まあ、じゃあサラダでいいや」と言い、またスマホに視線を戻した。
LINEでの彼はどこへ行ったの?
そこからの1時間、私はほぼ独り言だった。
話を振っても「ふーん」「そうなんだ」のワンパターン。おまけに、私の話の途中でスマホをいじる始末。店の雰囲気や料理に何の感想も言わず、目の前のレタスをひたすらつついていた。あんなにLINEでは饒舌で、テンポも良くて、優しい言葉をたくさんくれたのに。リアルな彼は、言葉も視線も、まるで別人のようだった。
食後、お店を出た瞬間、彼がぼそっと言った。
「うーん、やっぱちょっと…気が合わないかも」
──いや、それはこっちのセリフでしょ。
その後、彼からの連絡はなく、私も送らなかった。LINEは未読のまま、静かに消えた。
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