ご都合主義!もどきの社会派や復讐劇はうんざり…本物のヒューマンドラマが見たい
【桧山珠美 あれもこれも言わせて】
猛暑で脳みそが溶けてしまいそうだ。こういう時は何も考えず、ぼーっと楽しめるドラマが理想だが、近頃その手はめっきり少なくなった。
今夏はやたらと「ヒューマンドラマ」を謳うものが目につくが、フタを開ければ、無理くり感動させようという作為が見え、登場人物をあえて逆境に身を置かせるなどご都合主義な展開ばかりであきれる。社会派ドラマも復讐ドラマも伏線回収も、もううんざりだ。
そもそもヒューマンドラマとは文字通り人を描いたドラマのはずで、日常の中で登場人物の内面や心の葛藤などを丁寧に描いてこそ。なのに「心の自然な流れ」や「日常に潜むリアリティー」は置き去りにされている。内面よりも設定重視。日常よりもイベント重視で共感などできやしない。
現在、フジテレビでは「北の国から」を再放送している。44年も前のドラマだが、今見てもまったく古びていない。何度も見たが、そのたびに新鮮な感動を覚えるのは富良野の雄大な自然とそこで暮らす黒板五郎(田中邦衛)と子供たちの生活、周りの人たちとの関係性がきちんと描かれているから。まさに、これこそがヒューマンだ。
「北の国から」や「浅草ラスボスおばあちゃん」を見よ
人間をどう描くか。奇跡や事件よりもそこに暮らす人々のリアルな息遣いが見たい。とはいっても、テレビがオワコン呼ばわりされている時代に、あの壮大なスケールのドラマを作るのは予算的に不可能。でも、だからといってヒューマンもどきを量産するより、まったく違うアプローチで私たちを驚かせて欲しい。
11、18日の2週にわたって放送されたテレビ東京系の「架空名作劇場」はその好例。存在しない名作ドラマを勝手に作って届けるもので、その第1弾は「人情刑事 呉村安太郎」。タイトルからもわかるように、藤田まこと主演、懐かしの「はぐれ刑事純情派」のようなオープニングのタイトルバックや劇伴、1993年を舞台に当時のドラマのような加工が施された映像はノスタルジックだ。主人公をアルコ&ピースの平子、小料理屋のおかみが友近で、全力で悪ふざけしているところがいい。
異端なのは梅沢富美男主演「浅草ラスボスおばあちゃん」(東海テレビ、フジテレビ系)だ。梅沢が松子というおばあさんに扮している時点でもう面白い。青島幸男主演「いじわるばあさん」を思い出した。75歳で職を失い、自分で便利屋「ラスボスおばあちゃん」を起業。高齢者の孤独死などの社会問題なども描きつつ、おせっかい松子が奮闘する。松子の友人役は浅丘ルリ子と研ナオコ。日活の大スターとコメディエンヌの共演も感慨深い。舞台は浅草。街ロケが多いのも楽しい。吉本新喜劇のような昔からの人情ドラマだが、こういう、笑いあり涙ありのドラマが一番。寅さんが永遠なように。
(桧山珠美/コラムニスト)
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