「ライオン」と呼ばれた吉本興業元会長の林正之助さんと初めて話した時のこと

更新日:2025-09-27 17:03
投稿日:2025-09-27 17:00

【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#259

 林正之助さん

  ◇  ◇  ◇

 吉本興業の元会長で「ライオン」と呼ばれていた林正之助さん。伝説の名物会長と「一度は話をしてみたい」とずっと思っていましたが、そんな機会はなかなか訪れませんでした。

 それが現実のものになったのは1987年11月に「なんばグランド花月」がオープンしてほどない頃でした。会社の玄関入り口にあるエレベーターに乗り込まれた林会長を目にした私はとっさに「今や!」と思い、閉まりかけのエレベーターに飛び乗り楽屋のある3階のボタンを押しました。そして初めて気づいたように「おはようございます」と挨拶をすると、杖を私の方に突き出し鋭い視線で睨みつけ、明らかに怒気のこもった口調で「君はウチ(吉本)の社員か?」と聞かれたのです。心臓が口から飛び出しそうなぐらいドキドキしながら「いえ、阪神巨人さんやいくよくるよさんのネタを書かせていただいている本多と申します」と答えると、鋭かった視線がやさしいものに変わり、杖を下ろして「ウチの芸人がお世話になっております。おもろいもんを書いてやってください」と深々と頭を下げられたのです。

 思いもよらない言葉にどう返事をしたのかも覚えていませんが、エレベーターを3階で降りた私は「失礼します!」と扉が閉まるまで頭を下げていました。

 今考えても、よくあんな大胆な行動がとれたなと当時の緊張と共に、頭を下げられた姿とかけてくださった言葉がそのまま蘇ってきます。わずか10秒たらずの時間でしたが、「剛腕」「ワンマン」「ライオン」と恐れられていた会長の笑いに対する真摯な姿勢が見られたことにうれしさを感じています。

 後年、NSCの講師になった当時の担当者が若かりし林元会長の“番頭”さんだった方で、

「おやっさん(林元会長)はそらええ度胸してたで。他の興行師からいつ襲われるかわからへんから、外へ出るときはさらしに濡らした紙を巻き込んで腹に巻いて、いつ刺されても大ケガをせんようにしてピリピリしながら出て行ったはったで。わし(担当者)ら怖いさかいビクビクしとったけど、悠然と構えてな。それこそ毎日が命がけやがな。それで今の吉本があるんやさかい。大したもんやで」

 と教えていただき、エレベーターでの話をすると、

「よぅそんな怖いことするわ! アンタ見た目と違ごて度胸ありまんねんな!」

 とあきれられました。私としてはわずかな時間でもそんな元会長とやりとりができて良かった、と改めて思ったものです。

(本多正識/漫才作家)

エンタメ 新着一覧


「あんぱん」健ちゃん=高橋文哉が“変な髪型”だった謎が解けた。ヤムおんちゃんの過去も気になる…
 ある日、嵩(北村匠海)は銀座のパン屋で草吉(阿部サダヲ)らしき人が写る写真を見つける。朝田家では、豪(細田佳央太)の壮...
桧山珠美 2025-05-07 17:00 エンタメ
「アンパンマン」から山ちゃん降臨! あの挨拶が聞けたのは“子どもの日”のサプライズですか?
 東京高等芸術学校に入学した嵩(北村匠海)は、受験の際に出会った健太郎(高橋文哉)と再会する。担任の座間(山寺宏一)から...
桧山珠美 2025-05-05 12:06 エンタメ
「あんぱん」一瞬のヤムおんちゃんに嵩は気づいたか? 寛の名言が“友蔵の俳句”並みに楽しみな件
 東京高等芸術学校合格発表の日。嵩(北村匠海)は結果を見る勇気が出ず、ひとり座っていた。そこに寛(竹野内豊)が現れる。嵩...
桧山珠美 2025-05-03 16:00 エンタメ
田中圭の不倫疑惑にちょっと待った!「令和の価値観」で永野芽郁との騒動を見てみると…
「週刊文春」のスクープで永野芽郁との不倫疑惑が報じられた妻子持ちの田中圭。  恋愛コラムニストであり、恋愛カウンセ...
堺屋大地 2025-07-03 12:04 エンタメ
永野芽郁が「清純派」って誰が言った? 批判するのはお門違いなワケ。江頭2:50への“涙”も大正解!
 日曜劇場『キャスター』(TBS系)で共演中の韓国人俳優であるキム・ムジュンを自宅に連れ込みお泊りし、なんとその翌日に妻...
堺屋大地 2025-05-02 06:00 エンタメ
「あんぱん」蘭子と豪の秘めたる恋に“過去の名作”を思い出す。河合優実は百恵ちゃんによく似ている
 縁談の返事をしに出掛けた蘭子(河合優実)を連れ戻したのぶ(今田美桜)に、蘭子は本心を明かす。季節は巡って秋になり、うさ...
桧山珠美 2025-05-01 19:16 エンタメ
なにわ男子・道枝駿佑は“肉食女子”から守られたのか?「キャスター」男性俳優陣が気になるよ
 芸能界広しといえども清純派と呼べるのは芦田愛菜だけ。長年、そう訴えてきましたが、今回の一件が図らずともそれを証明したの...
共亜事件は「虎に翼」のオマージュか。あんぱん、ブギウギの3人が同時代を生きている
 昭和11年、家族や嵩(北村匠海)に見送られ、のぶ(今田美桜)は女子師範学校の寮に入る。軍国主義の担任・黒井雪子(瀧内公...
桧山珠美 2025-04-28 18:40 エンタメ
「あんぱん」最後まで毒親だった登美子(松嶋菜々子)。去っていく彼女に問うてみたいこと
 受験したのぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の明暗が分かれる。静まり返った柳井家で、寛(竹野内豊)たちに頭を下げる嵩。そこ...
桧山珠美 2025-04-26 12:50 エンタメ
春ドラマの評判を調査!『最後から二番目の恋』は令和の鬼渡?『あんぱん』『対岸の家事』の感想は
 2025年4月期も話題のドラマが続々スタート! 多すぎてどれを見るのか迷ってしまう…。そんな人のために忖度なしでドラマ...
「あんぱん」千尋(中沢元紀)は本当に良い子…史実どおりの展開なのか。しょくぱんまんのようなイケメンだ
 けんかした嵩(北村匠海)と千尋(中沢元紀)に、寛(竹野内豊)は改めて後継ぎはいらないと告げる。そして、何をしながら生き...
桧山珠美 2025-04-23 17:51 エンタメ
こうでなくちゃ! 志尊淳の正解を「恋は闇」で見た。いい人よりも“妖しい姿”に妄想が駆り立てられる
 新ドラマ「恋は闇」(日本テレビ系)の志尊淳が良きです。  前クールの「日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった...
「あんぱん」なんて贅沢!今が旬、河合優実の“目で語る”表現力と色気に驚く。俳優・ソニンのEE JUMP感を消した演技も見事
 なりたい夢を見つけたのぶ(今田美桜)は、女子師範学校合格に向けて猛勉強をし始めるが、成績が思わしくなく頭を抱える。同じ...
桧山珠美 2025-04-21 14:23 エンタメ
怪演・市原隼人に「ヤバい超大物」2人が熱烈ラブコール。迫真すぎる“ガンギマリ”の演技がモテる理由か
 大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)にて、盲目の大富豪にしてゾクッとする異様な雰囲気を放つ鳥山検校を怪演...
堺屋大地 2025-04-21 06:00 エンタメ
ラランド・サーヤは「名誉男性」なのか? お笑い界の“女すぎる”という悪口に思うこと
 ラランド・サーヤが参加するバンド「礼賛」が大阪で行ったライブで、痴漢行為が発生。被害女性がSNSで被害を訴えたことで発...
帽子田 2025-04-20 06:00 エンタメ