元吉本興業会長・林正之助さん「伝説」の数々…なんばグランド花月では“会長警報”が
【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#260
林正之助さん
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林元会長には数々の「伝説」がありますが、そのひとつに「会長警報」がありました。NGK(なんばグランド花月)の4階にある会長室から客席へ視察に来るというもので、「会長が(客席へ)降りた!」と舞台袖に連絡が入るのです。
中でも一番の被害者がトミーズでした。トミーズには「ボクシング漫才」という「鉄板ネタ」がありました。元ボクサーの雅くんが相方の健ちゃんにボクシングを教えるというもので、スーツを脱いでトランクス一枚でグローブをはめてボケ倒すネタですが「おまえらは舞台ではそれだけやっとけ」というほど会長のお気に入りネタ。ですから、しゃべくり漫才をやっていても「会長警報」が届くと舞台監督が雅くんに見えるようにファイティングポーズのサインを飛ばします。すると、どんなネタをしていても突然「ボクシングしようか?」と袖に準備してあるグローブを取ってきて、トランクス一枚になり、ボクシングネタが始まる。
客席は唐突に始まったネタにポカーン。そうこうしているうちに会長が現れます。それも客席の後ろからではなく、中ほどにある出入り口を開けて堂々と入って来るのです。
当然、客席も気づいて「会長や、会長や!」とざわつき、舞台の雅くんから「いま林会長が来られました」と紹介を受けて、「みなさんありがとう!」と手を振り頭を下げると、客席も舞台を忘れて拍手喝采! 会長が姿を消すと雅くんが「急にボクシング始めてびっくりしたでしょう!? これせんと怒られますねん」と「会長警報」の話をして大爆笑に。
楽屋に来た会長から「メシ食わしたるけど、行くもんおらへんか?」と言われ、店でふだんは食べない高いメニューを頼み、いざお勘定になったら、みんなの「ご飯代」だけを払うので「会長おごってくれんのんちゃいますのん?」と驚いて聞くと「メシは食わしたる言うたけどオカズ食わしたるとは言うてへんがな」とサッサと帰られ「そんな殺生な……」と一同唖然。するとお店の方に「お勘定は先に頂いてますよ」と言われ、「ホッとしたけど、食べた気せえへんがな~」という話がありました。これが会長のドッキリだったという方と、そのまま払わされたという方と両方の話を聞いたことがあります。
またある芸人さんがNGKのことを「娯楽の殿堂」ではなく「道楽の殿堂」とチャカしたことが耳に入り「アイツはNGKには出さん!」と出禁に……。
オール阪神・巨人さんは、しゃべくり漫才の祖、横山エンタツ・花菱アチャコの2代目を継ぐように迫られ、仕方なく「わかりました。継ぎますのでギャラを2倍にしてください」と言うと「阪神・巨人で頑張れ」とアッサリ取り下げられたと聞いたこともあります。希代の興行師・林正之助元会長と話せたことは大切な思い出です。
(本多正識/漫才作家)
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