【モンテ・クリスト伯】少年時代の興奮が蘇る復讐劇の大作

更新日:2025-11-08 17:03
投稿日:2025-11-08 17:00

【孤独のキネマ】

 モンテ・クリスト伯

  ◇  ◇  ◇

 子供のころ学校の図書館で「巌窟王」を読み、胸をわくわくさせた人は少なくないだろう。もともとはアレクサンドル・デュマの長編小説「モンテ・クリスト伯」。これを黒岩涙香(1862~1920年)が少年少女向けに翻案したのが「巌窟王」である。本作「モンテ・クリスト伯」はこのデュマの小説を2時間58分にまとめたフランス映画の大作だ。

 将来を約束された若き航海士ダンテス(ピエール・ニネ)は友人フェルナン(バスティアン・ブイヨン)らの策略によって恋人を奪われ、マルセイユ沖のイフ島に築かれた城塞に投獄される。無実の罪で終身刑を宣告された不運に、生きる気力を失うダンテス。だが絶望の中、脱獄を企てている老司祭との出会いによって、彼は希望を取り戻していく。

 ダンテスは獄中で司祭から学問と語学などの教養を授かり、さらにテンプル騎士団が隠した秘密の財宝の存在を知らされる。囚われの身となって14年後、奇跡的に脱獄を果たしたダンテスは、司祭が話してくれた莫大な財宝を手に入れ、謎に包まれた大富豪「モンテ・クリスト伯」としてパリ社交界に姿を現す。こうして自らの人生を奪った3人の男たちに巧妙に近づいていくのだった……。

 この物語の魅力のひとつは獄につながれたダンテスが老司祭と出会い、司祭が持っている知識を存分に吸収し、一流の教養人として成長していくことだ。「巌窟王」を読みふけった少年たちはダンテスに自己を投影して憧れを抱いただろう。

 もうひとつは言うまでもなく復讐をテーマにしていること。前途洋々の若者が罠に落ち、美しき恋人メルセデス(アナイス・ドゥムースティエ)を含め、すべてを失う。しかも孤島の牢獄に繋がれてしまう。脱出できる可能性はゼロ。座して死を待つしかないのだ。

 だが彼は機転を利かせて牢獄の島を脱出。司祭がもたらした情報によって巨万の富を手にし、フランスの社交界に颯爽とデビューする。獄中でボロボロの囚人服を着ていたダンテスが一転、貴族の姿に変身するのだから痛快である。

全編が見せ場の連続

 かくしてダンテスは自分を罠にはめた卑怯者たちに次々と復讐する。夜道で人を襲うような原始的な方法は使わない。合法的な手段で相手を滅ぼしてゆくのだ。この過程で司祭から受け継いだ教養と知識が役に立つ。つまり登場人物の役割が見事に一体化しているのだ。

 本作について言えば、ダンテスはフェルナンら裏切り者の動きを予測していく。自分が打った布石で相手が何を考え、どう動くかを的確に予測。裏切り者たちを真綿で首を絞めるが如くじわじわと追い詰めてゆく。言うなれば“復讐のプロジェクトX”だ。

 これに加えてダイナミックに動くカメラワークが素晴らしい。大型スクリーンの中をレンズが軽やかに飛翔、滑るように地平を駆けめぐって観客にスリリングな陶酔を与える。そのため約3時間の長尺にもかかわらず、一向に退屈せず最後まで楽しむことができる。全編が見せ場の連続で、気がついたら終わっていた。そんな満足度の高い作品だ。

 個人的な趣味を言わせてもらえば、謎の女エデを演じたアナマリア・ヴァルトロメイが美しい。「あのこと」(2021年)で妊娠中絶の不条理に立ち向かい、昨年は「タンゴの後で」で映画「ラストタンゴ・イン・パリ」に出演したマリア・シュナイダーの苦悩を熱演した。まだ26歳。さらに花開くだろう。

 ちなみに黒岩涙香は明治から大正にかけて活躍したジャーナリスト。権力に立ち向かう反骨精神は今も高く評価されている。主人公のダンテスと同様に黒岩涙香も逆境に屈しない硬骨漢なのである。(TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー中/配給:ツイン)

(文=森田健司)

エンタメ 新着一覧


しれっと復帰した中丸雄一、良い人キャラの「アパ不倫」はダサすぎない? 共感性羞恥を煽るエピソードの数々
 昨年8月のアパホテル不倫スキャンダルで謹慎していましたが、約5カ月の活動休止期間を経て活動再開することを、1月3日に発...
堺屋大地 2025-01-28 06:00 エンタメ
【おむすびにモヤっと】結ちゃん不在2週目。米田家、居候たちの部屋割りはどうなっているのか?
 結(橋本環奈)は、歩(仲里依紗)やチャンミカ(松井玲奈)がやっている古着ショップに泥棒が入ったことを翔也(佐野勇斗)に...
桧山珠美 2025-01-31 16:57 エンタメ
2025年冬ドラマ「火曜放送枠」はイケメンが大量発生!最大の楽しみは…
 冬ドラマがスタートしています。皆さまもうお気づきでしょうか。火曜が凄いことになっていることを。ゴールデンから深夜まで、...
キンプリ永瀬廉が菊池風磨超え!? 主演ドラマ「御曹司に恋はムズすぎる」ポンコツナルシストのギャップが圧巻
 2025年冬期ドラマが順次スタートした。King & Prince・永瀬廉(26)が主演を務める「御曹司に恋はムズすぎ...
こじらぶ 2025-01-25 06:00 エンタメ
【おむすびにモヤっと】歩の音痴設定が消えたご都合主義。未視聴でも困らない1週間だった
 ひみこ(池畑慎之介)が米田家の面々を一斉に呼び出し、チャンミカ(松井玲奈)の店を襲った強盗犯は歩(仲里依紗)だと言う。...
桧山珠美 2025-01-25 06:00 エンタメ
『東京サラダボウル』松田龍平の発音に異議あり!中国関係者のリアルな声
 1月よりスタートしたドラマ「東京サラダボウル」(NHK)。「クロサギ」の黒丸による同名漫画を原作とした本作は、外国人犯...
THE RAMPAGE藤原樹、日本酒擬人化ドラマで「違いの分かる大人になりたい」メンバーへのクレームも告白!?
 THE RAMPAGEの藤原樹さん(27)が連続ドラマ初主演を務める『あらばしり』(木曜24時59分~、読売テレビほか...
望月ふみ 2025-01-23 06:00 エンタメ
【おむすびにモヤっと】ヒロイン不在中にやりたい放題? スピンドラマでも歩の言動に高低差ありすぎ
 ルーリー(みりちゃむ)は、歩(仲里依紗)が東日本大震災で被災した人たちに何ができるか今も悩んでいることを愛子(麻生久美...
桧山珠美 2025-01-22 17:30 エンタメ
“国内唯一”弁護士芸人・こたけ正義感に刮目! 話題沸騰ライブ『弁論』は「袴田事件」ネタで度肝を抜かれた
 弁護士芸人・こたけ正義感(38)の単独ライブ「弁論」が話題となっている。かつて年間100本以上のライブに出演し、自身も...
帽子田 2025-01-22 06:00 エンタメ
あのちゃん、もうコミュ障じゃないでしょ。特番で見せた「普通の芸能人」への進化にガッカリ
 ブッ飛んだ不思議ちゃんキャラで人気を博しているアーティスト・タレントの「あの」ちゃん。  2021年、『水曜日の...
堺屋大地 2025-01-21 06:00 エンタメ
【おむすびにモヤっと】管理栄養士勉強中のテイで撮影抜け→既報の下関デートに繋がった放送回
 結(橋本環奈)の家に福岡でギャル仲間だったルーリー(みりちゃむ)が、突然訪ねてくる。  話を聞くと、勤めていた福...
桧山珠美 2025-01-20 17:30 エンタメ
イケメンな「NEXT中居正広」は誰? 即戦力、対抗馬、野球枠…余人をもって代え難しは幻なり
 あの中居正広(52)がこんなことになるなんて、誰が予想できたでしょうか。  昨年12月にソニー生命保険が発表した...
【おむすびにモヤっと】すべては結のおかげ、動かずして感謝されるヒロインの今後は?
 2012年1月17日。結(橋本環奈)は神戸で両親や商店街の人たちと17年前の阪神・淡路大震災の犠牲者を追悼して黙とうす...
桧山珠美 2025-01-31 16:57 エンタメ
【おむすびにモヤっと】結の出産も大震災直後の描き方もショートカットが凄まじい…米田家の呪いはどうした?
 テレビを見て、東日本大震災が発生したことを知る結(橋本環奈)たち。歩(仲里依紗)は被災の映像を見て呼吸が荒くなり、そば...
桧山珠美 2025-01-15 18:30 エンタメ
冬ドラマを調査!炎上騒動『べらぼう』への評価は? 『ホットスポット』や『御上先生』への期待も聞いた
 2025年冬ドラマが続々とスタートしました。まだ初回放送前の作品もあるなか、それでも今期のドラマに期待している人は多い...
【おむすびにモヤっと】“不揃い”な春キャベでロールキャベツ? 平成のバカップルにこうのとりが…
 2010年春、結(橋本環奈)と翔也(佐野勇斗)は大阪のアパートで新婚生活を始める。家事を分担しながら共働きをして公私と...
桧山珠美 2025-01-13 18:30 エンタメ