脳内の自分と現実のギャップに衝撃
気持ちと現実のギャップ。
脳内で描く理想の自分の齟齬。まさに、目の前で突きつけられた気がした。
崇は気にしていないようだった。それでもいい。それが前向きな受け止め方。だけど私は、玉手箱を開けてしまったような感覚に陥った。
私は崇から身体を離す。彼は人目をはばからずノリノリだ。だけど、ライブも中盤に差し掛かった頃、途端に大人しくなった。息が荒くなっていた。
柱代わりに彼に身を寄せる。彼は私にキスをしたそうだったけど、恥ずかしいフリをして顔を逸らした。
汗と、年齢を重ねた男性の匂いを私はかみしめた。
――……いつまでもアラサー気分のままでいいの?……
一番楽しくて、夢中だったあのころに、自分は逃げようとしている。
いや、今までもそうだった。ずっと、輝いていた頃にしがみついて生きていた。これから先も、「あの頃はよかった」そんなことを言い続けながら、私は後ろ向きで歩き続けるのだろうか。
結局、崇は年を取った以外はなにも変わっていなかった。他人としては安心できる存在だけど、きっとまた同じことを繰り返す。後ろ向きのままで。
「この後、どこ行く?」
「疲れたから、帰るね」
「そうだね。2日連続は疲れるよね」
まるで何もなかったかのように、坂の途中で、私たちは次の約束をせずに別れた。
誘いがあれば、会ってもいいけど、少なくとも私は自分から誘う気力はない。それはくたびれた大人になってしまった証拠だ。
置いて行かれたんじゃない。進もうとしなかっただけ
――辞令、うけてみようかな……。
今を思い切り楽しんでいる世代の人波を逆走しながら、もうここは私の街でないことをはっきり理解した。
若者の町に、居心地が悪くなっていたことはわかっていた。
だけど、違うんだと言い聞かせて、必死に抗おうとしていた。時代に、年代に、乗り切れないことを、必死に言い訳して。
駅に向かおうとする足を止めて、タクシーを止める。
タクシー。それがいまの私に相応しい手段。もう若者ではない私は、受け入れるためにあえてそうしてみる。
乗り込むなり、自宅の場所を告げた。
流れてゆく街の景色はいつもの2倍速だ。優越感と町の彩りが目に優しかった。
「お姉さん、ごきげんだね」
運転手のおじさんに声をかけられる。知らぬ間に鼻歌をうたっていたみたいだ。オザケンのアルバム曲、どうやら同世代だそうだ。曲名を簡単に言い当てられた。こころなしか、会話がはずんだ。運転手さんは今、子どもの影響で、アイドルソングにハマっているらしい。
時代に置いて行かれたわけじゃない。進もうとしなかっただけ。まだまだ時代は続いていくのだから、今からでも乗り遅れずに歩むこともできるはず。
坂道を登りきると、そこにはどんな景色が広がっているだろう。
なぜだろう、心なしかワクワクが芽生えている自分に気づいた。
Fin
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