嵐山光三郎さんを悼む…命の恩人であり混浴仲間でもあった

更新日:2025-12-07 17:03
投稿日:2025-12-07 17:00

【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】

 嵐山光三郎さんが亡くなってしまった。本名・祐乗坊英昭、享年83。

 彼は“人生の達人”だった。平凡社の雑誌「太陽」の最年少編集長。その後、フリーになって“男の本音誌”月刊「DoLiVe」を創刊して大成功。

「昭和軽薄体」といわれた「たのCのでR」というABC文体を駆使して軽妙なエッセーを次々に発表。フジテレビの「笑っていいとも!増刊号」編集長として軽妙洒脱な話術で茶の間の人気者になった。

 旅、温泉、食に通じ、「素人庖丁記」で講談社エッセイ賞。食を通して文学の本質に迫った「文人悪食」(マガジンハウス)。週刊新潮で長年、俳句欄を担当。芭蕉の研究者。「悪党芭蕉」(新潮社)で泉鏡花文学賞と読売文学賞をダブル受賞。“ヘタウマ”な絵も魅力的だった。

 彼の生き方の原点は、大学時代に将来実現したいことを100項目ノートに書きだし、それを達成していったことにあるのではないか。「キリマンジャロに行きたい(登りたいではない)」「テレビに出てみたい」「ローカル線で温泉へ行きたい」「職人的な編集者になりたい」「いい女と付き合いたい」などなど。嵐山さんはそのすべてを40歳になった時に達成してしまった。するとさらなる“具体的な目標”100を書きだし、一つ一つ実現していった。

 私は嵐山さんの3歳下である。知り合ったきっかけは、私が講談社の「月刊現代」編集部にいたとき、彼に「ホームレス体験記」を書いてくれないかと頼みに行ったことだったと記憶している。

「笑っていいとも!」を辞めてしばらく経っていたが、面が割れているので断られると思った。だが、「面白い、やろう」といってくれた。新宿の路上でホームレス仲間と酒を酌み交わしている姿が、夕日が沈む町に溶け込んでいた。男の哀愁を感じさせた。

 ウマが合ったのだろう、以来、酒を飲み、カラオケを歌い、各地の温泉に入り、オーロラを見るため3泊5日の弾丸旅行で、アラスカ・フェアバンクスのチェナ温泉へ。“ニューヨークのため息”といわれたヘレン・メリルを聴きに「ブルーノート」へも行った。嵐山さん、あの時2人で、山のように買い集めたポルノビデオはどこへ行ったんでしょうね?

 句会にも参加し、俳画を描かされ、銀座の画廊で俳画展。そういえば、版画家の山本容子さんと嵐山さんと3人で混浴風呂へ入って、合唱したことも懐かしい思い出です。

 嵐山さんは私の命の恩人でもある。あるとき、「定期健診」があるので付き合ってくれないかといわれた。行ったのは“現代の赤ひげ”といわれていた庭瀬康二医師のところだった。私が40代初めの頃。寺山修司をみとったことでも知られる庭瀬医師から「君も診てやろう。まず血圧から」と看護婦のところへ連れていかれた。血圧を測り始めた彼女が悲鳴を上げた。「先生、220もあります」。庭瀬医師も飛んできた。嵐山さんは放っておかれ、私は検査漬けになった。

 あの時一緒に行かなければ、そう遠くないうちに脳出血で倒れていたことは間違いない。

 私がコロナ禍になる直前に出した自伝風の「野垂れ死に」(現代書館)を送ると、すぐに嵐山さんから電話があった。「おもしれえな~この本。大丈夫なのか、こんなことまで書いて」と、心配しながら喜んでくれた。

 嵐山さんは先輩や友人の作家が亡くなると「葬儀の日には故人の著書を読んで過ごすようになった」と「追悼の達人」(中公文庫)に書いている。

 私も嵐山さんの訃報を聞いた日から、彼の本を本棚から取り出して読んでいる。命日には、嵐山さんが“末期の献立”と決めていた「レンコンのテンプラ」を食べて偲びたいと思っている。

 嵐山光三郎さん、生前のご厚情ありがとうございました。浄土でまた会いましょう。死ぬ楽しみができました。

(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)

エンタメ 新着一覧


放送40周年『アッコにおまかせ』が終了しますが、長寿番組の止め時はどうやって判断していますか?
【テレビ局に代わり勝手に「情報開示」】  そうなんですよね…「いよいよ」って感じですよね。これは以前にも別のところに書...
2025-11-14 17:03 エンタメ
昭和100年という節目に終焉した仲代達矢の軌跡 「影武者」代役出演時の勝新太郎との確執
 11月8日、俳優の仲代達矢が肺炎のため、92歳で亡くなった。これで第2次世界大戦後、日本映画に黄金時代を築いた三船敏郎...
2025-11-14 17:03 エンタメ
「DOWNTOWN+」50万人登録は個人視聴率0.43%に相当 新プラットフォームの今後を占う
 11月1日にスタートした、有料動画配信サービス「DOWNTOWN+」(ダウンタウンプラス)の加入者が50万人を突破した...
2025-11-14 17:03 エンタメ
森七菜の出演作にハズレなし! 岡山天音「ひらやすみ」で《ダサめの美大生》好演&評価爆上がり
 森七菜(24=写真)、完全に追い風に乗ったようだ。現在は岡山天音(31)主演のNHK夜ドラ「ひらやすみ」(月~木曜夜1...
2025-11-13 17:03 エンタメ
Perfumeあ~ちゃんの結婚発表とこれまで封印してきた3人のマル秘私生活…残る2人も続いてゴールイン?
 3人組テクノポップユニット「Perfume(パフューム)」のあ~ちゃん(36)が11月11日に自身のインスタグラムで一...
2025-11-13 17:03 エンタメ
FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?
 フジテレビは、嵐の相葉雅紀(42)が司会を務める音楽の祭典「2025 FNS歌謡祭」を、12月3日と10日の2週連続で...
2025-11-13 17:03 エンタメ
福山雅治の「不適切会合問題」で紅白に地殻変動が? “やらかし”がPerfume「トリor大トリ」誘発の可能性アリ
 今年も残すところ2カ月弱。ぼちぼち「紅白内定!」なんてニュースが出始めているが、例年通りの「当確」に注目が集まった人物...
2025-11-13 17:03 エンタメ
「抱きたいでしょ!」名場面が誕生!? これぞ『ばけばけ』、シリアスとコミカルの絶妙な塩梅が最高
 物乞いとなったタエ(北川景子)の前に記者の梶谷(岩崎う大)が取材をしたいと現れる。三之丞(板垣李光人)はタエを守るため...
桧山珠美 2025-11-13 13:05 エンタメ
Number_iとキンプリ、年末特番での共演はあるか? 山下智久&赤西仁に見る“脱退グループ”との関係性
 2025年も年末が近づき、音楽特番への出演者発表でそれぞれのアーティストのファンが盛り上がりを見せている。そんな中、注...
こじらぶ 2025-11-13 11:45 エンタメ
畑芽育には12歳にして風格が…その予感通りに親しみやすい「国民のいとこ」のような女優になった
【2025秋ドラマ 注目美女の魅力と素顔】#4  畑芽郁  (終活シェアハウス/NHK BS)   ◇  ◇  ◇ ...
2025-11-12 17:03 エンタメ
「ばけばけ」苦戦は佐藤浩市の息子で3世俳優・寛一郎のパンチ力不足が一因
 NHK連続テレビ小説「ばけばけ」が、9月29日の放送開始から第7週に突入した。第6週の週間平均視聴率(世帯)は14.9...
2025-11-12 17:03 エンタメ
N党・立花孝志容疑者逮捕で芸能界も激震…あの羽賀研二を映画化めぐる“名誉毀損”で激怒させていた
 ことし1月に亡くなった元兵庫県議に関する虚偽の情報を発信したとして、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容...
2025-11-12 17:03 エンタメ
日テレ菅谷大介アナの急逝に悲しみ広がる…人望厚く後輩思いの“アナウンス部の神”だった
 消化管からの出血のため8日に急逝した日本テレビの菅谷大介アナウンサー(享年53)の突然の訃報に悲しみが広がっている。 ...
2025-11-12 17:03 エンタメ
高市首相に上がり始めた「午前3時のヒロイン」の呼び名 総裁選当選直後から「福田麻貴に似ている」の指摘
 世間をアッと驚かせた高市早苗首相(64)の「午前3時の勉強会」。衆院予算委員会の答弁に臨むためだったとの説明だったが、...
2025-11-12 17:03 エンタメ
【芸能クイズ】難易度高い!? 藤岡弘、の「直筆メッセージ入りマグカップ」に書かれている四字熟語は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
女子プロレス転向フワちゃんいきなり正念場か…関係者が懸念するタレント時代からの“負の行状”
 2024年8月からの芸能活動休止を経て、女子プロレスでの活動復帰を宣言したフワちゃん(31)に賛否両論が出ている。 ...
2025-11-11 17:03 エンタメ