ワーナー・ブラザース ジャパンの劇場配給年内終了にみる視聴システムの変化
ワーナー・ブラザース ジャパンが、日本国内での映画の劇場配給業務を2025年12月31日で終了する。2026年からは東和ピクチャーズが洋画作品の配給を担当するので、日本でワーナー・ブラザースの映画が見られなくなるわけではないのだが、大手洋画会社の配給業務終了は余波を生みそうな気配がある。
2010年ごろからワーナー・ブラザース ジャパンは本格的に邦画の製作へ参入し、「最後の忠臣蔵」(2010年)を皮切りに、「るろうに剣心」シリーズや実写版の「銀魂」2部作、「東京リベンジャーズ」3部作、「はたらく細胞」など、大ヒット作を発表してきた。25年にもホラー映画「近畿地方のある場所について」、現在も公開中の「爆弾」といった話題作を世に送り出している。26年にも、小川哲の小説を「沈黙の艦隊」シリーズの吉野耕平が監督する「君のクイズ」「近畿地方のある場所について」と同じく背筋の原作を、清水崇監督が板垣李光人や綱啓永など注目の若手俳優を配して描くホラー「口に関するアンケート」の公開が控えている。しかしこれらの新作は配給先を失い、新たな配給先を探すことになる。
他にもアニメーション作品では、1月9日公開の「ALL YOU NEED IS KILL」にはプロデュースで、2月公開の「新劇場版 銀魂─吉原大炎上」には配給でワーナー・ブラザース ジャパンが関わっていて、これらはすでに劇場がブッキングされているので、ワーナーが配給の業務を行うだろう。
洋画系の配給、映画製作会社にはソニー・ピクチャーズエンタテインメント ジャパンもあり、こちらは25年に「父と僕の終わらない歌」「雪風YUKIKAZE」「宝島」「盤上の向日葵」「果てしなきスカーレット」などに出資していて、必ずしも好結果を残せなかった作品があったが、来年には『キングダム』シリーズの新作や山下智久主演の「映画 正直不動産」といった注目作品が控えている。
洋画系の会社が製作・配給に参入したことで、日本映画の作品群は企画が多様化し、また海外へ発信する機会も増えてきていただけに、ワーナー・ブラザース ジャパンの配給業務終了は残念な気がしてならない。ただ作品の企画製作は継続すると宣言しているので、どんな体制で作品を配給していくのか、その動向が注目される。また配給業務の終了は“映画は劇場で観るもの”という基本的な視聴システムに対する考え方の変化なのかもしれない。
アメリカに目を移せば、親元の会社ワーナー・ブラザース・ディスカバリーが現在、買収問題に揺れている。2025年12月の初めにNetflixがワーナー・ブラザース・ディスカバリーの映画スタジオ事業と動画配信の権利を、720億ドルで取得することが発表されたが、パラマウント・スカイダンスがこの買収計画に対抗。1080億ドルでワーナーを買収する案を持ち掛け、このふたつの会社のどちらに買収されるか、決着がついていない。ワーナーが持つ膨大な映像コンテンツの行方は、今後の動きを見ないとわからないが、「ハリー・ポッター」シリーズなどの世界的ヒット作を出してきた会社が買収先を探す現状を思うと、映画産業は大きな岐路に立っているのがわかる。Netflixがワーナーを買収すれば、映画は劇場で見るものではなく、配信メディアのソフトとして、捉えられる日が来るかもしれないのだ。
(金澤誠/映画ライター)
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