【サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行】泥棒親子が障害者のキャンプに逃げ込んで良心に目覚める

更新日:2025-12-27 17:03
投稿日:2025-12-27 17:00

【孤独のキネマ】

 映画「サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行」

  ◇  ◇  ◇

 この映画を見て菊池寛の小説「恩讐の彼方に」を思い出した。主殺しと辻斬りを犯した主人公が田舎の村に逃げ込み、善行に目覚める物語。洋の東西は違うが、その精神は本作に通じるものがある。本作はユーモアあふれるハートフルコメディだ。

 宝石店に泥棒に入ったパウロ(アルテュス)とその父親(クロヴィス・コルニアック)。警察の追跡から逃げるふたりは、ふとした偶然で障害者とその介助者に間違われ、知的障害のある若者たちのサマーキャンプに身を隠すことになる。色とりどりの個性を持つ彼らとの笑顔にあふれた賑やかな日々は、いつしか2人の心を解きほぐしていく。

 だが、そんな愉快な逃避行も長くは続かず、司直の追跡を受けるのだ。彼らが見つけた本当の宝物とは何なのか……。
パウロを演じたアルテュス監督はこう語っている。

「私はずっと、知的障害のある人たちがどんなことができるのかを描きたいと思っていました。彼らは、他ではなかなか出会えないような素晴らしい想像力や、魔法のような魅力、時に突拍子もない一面を持っています。私は彼ら“と” 映画を作りたかったのであって、彼らに“ついて”の映画を作りたかったわけではありません」

 鑑賞後、資料を読んでびっくりさせられた。役者たちはいずれも芸達者。そのため容姿が障害者に似た役者を選んだのだろうと思ったら、実は本当に障害を抱えた人たちを出演させたという。彼らの演技力に舌を巻き、自分の浅はかな思い込みに苦笑してしまった。

 宝石店を襲った2人組が親子というのがこの脚本のミソだ。通常の泥棒は悪党の友人同士がつるんで行うものだが、本作は親子がグルになって犯行に及ぶ設定。考えてみると、我々の社会には「親がワルなら、子もワルだ」という悪行の遺伝的連鎖が存在する。筆者も昔の村社会でそうした悲劇的現実を目撃したことがある。

 DNAによる犯罪の継承はどこか暗いイメージがあるものだ。本作はその血縁的なタブーにスポットを当て、親子2代の悪党がピュアな心の障害者たちとの交流で変化して行くさまを描いている。救いようのない悪徳DNAコンビの良心の覚醒がテーマだ。
彼らはパウロが障害者でないことを見抜くが、仲間として受け入れ、そのことを口外しない。つまり障害者が健常者を快く受け入れるわけだ。そうしたこともあってパウロは心に刺激を受ける。彼がこのグループで暮らす日々に楽しみを見出すようになる過程が見どころだ。

 アルテュス監督はパウロの心の変化を自然に映し出してゆく。フランスで大ヒットした理由はこの無理のない描写にあるのだろう。筆者は泣かせる映画は好きではないが、ラストの落ちについホロリとさせられた。

 本作を見て思うのは悪人であっても、その心の内には善行への憧れが潜んでいるということ。そういえばこんな言葉がある。

「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」(『歎異抄』)

 意味合いは少し違うが、本稿を書きながら声に出して唱えてしまった。

(TOHOシネマズシャンテほか全国公開中/配給:東和ピクチャーズ)

(文=森田健司)

エンタメ 新着一覧


【芸能クイズ】え、他にもいたの? かつて「小雪」の芸名で活動して女優は誰でしょう
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
「ばけばけ」今日もボケ&ツッコミが絶好調! 錦織(吉沢亮)の“お宝スキップ”にギャップ萌え
 なんとかヘブン(トミー・バストウ)が求める「ビア」を手に入れ、女中クビの危機を乗り越えたトキ(髙石あかり)。ヘブンに習...
桧山珠美 2025-11-19 15:45 エンタメ
フワちゃんの「禊」はなぜ長引いた? 復帰騒動に見る“大手事務所とフリー芸人”の格差
 SNS上での暴言により活動休止中だったフワちゃんが芸能界復帰を宣言。活動の場を女子プロレスに移し、再起を誓っている。 ...
帽子田 2025-11-19 15:17 エンタメ
「ばけばけ」新婚カップルの“時間差共演”にネットがザワッ。おトキたちの距離も縮まった?
 ヘブン(トミー・バストウ)の“女中クビ”を回避するため奮闘するトキ(髙石あかり)だったが、空回りが続いていた。ヘブンが...
桧山珠美 2025-11-18 18:23 エンタメ
“熊本の彼氏”杉本琢弥×諸星翔希(7ORDER)、共演で深まった二人の友情。互いへのリスペクトが生む化学反応
”熊本の彼氏”の名でTikTokフォロワー数115万人を突破、SNSの総フォロワー数は180万人を超えるなど、2018年...
望月ふみ 2025-11-18 11:45 エンタメ
『ばけばけ』髙石あかりと池脇千鶴の熱演に唸った。「体を売ってもいいと」に込めた複雑な感情
 家族にヘブン(トミー・バストウ)の女中であることが知られてしまったトキ(髙石あかり)。さらに司之介(岡部たかし)、フミ...
桧山珠美 2025-11-15 10:00 エンタメ
「抱きたいでしょ!」名場面が誕生!? これぞ『ばけばけ』、シリアスとコミカルの絶妙な塩梅が最高
 物乞いとなったタエ(北川景子)の前に記者の梶谷(岩崎う大)が取材をしたいと現れる。三之丞(板垣李光人)はタエを守るため...
桧山珠美 2025-11-13 13:05 エンタメ
Number_iとキンプリ、年末特番での共演はあるか? 山下智久&赤西仁に見る“脱退グループ”との関係性
 2025年も年末が近づき、音楽特番への出演者発表でそれぞれのアーティストのファンが盛り上がりを見せている。そんな中、注...
こじらぶ 2025-11-13 11:45 エンタメ
【芸能クイズ】難易度高い!? 藤岡弘、の「直筆メッセージ入りマグカップ」に書かれている四字熟語は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
坂口健太郎の“二股報道”に僕が驚かなかった理由。炎上覚悟で女性に伝えたい2つのこと
 9月に「週刊文春」で、俳優・永野芽郁と年上ヘアメイク恋人の二股スキャンダルを報じられた坂口健太郎(34歳)。坂口には“...
堺屋大地 2025-11-11 11:45 エンタメ
「ばけばけ」トキ(髙石あかり)の“腕が太い”は伏線があったのか! 以前の台詞が活きていた
 ヘブン(トミー・バストウ)の女中になる決意をした、トキ(髙石あかり)。錦織(吉沢亮)の立ち会いのもと、トキはヘブンに女...
桧山珠美 2025-11-10 17:19 エンタメ
ああ、日曜は悩ましい。神尾楓珠の胸キュンか、及川光博のほっこりか…どっちのドラマをリアタイすべき?
 日曜の夜が悩まし過ぎて困っています。  というのも、「すべての恋が終わるとしても」(テレビ朝日系)と「ぼくたちん...
荒牧慶彦&植田圭輔、気心の知れた相手だから、自然でいられる。W主演で見えた“素のふたり”の関係性
 舞台『刀剣乱舞』シリーズなどで知られる荒牧慶彦さんと植田圭輔さんがW主演を務めた映画『プロジェクト・カグヤ』が公開中で...
望月ふみ 2025-11-09 11:45 エンタメ
「ばけばけ」“女中”が意味するのはどっち? おトキ(髙石あかり)のうらめしい世の中は続く…
 ヘブン(トミー・バストウ)は錦織(吉沢亮)と一緒に借家へ引っ越しをしていた。新居に満足気なヘブンだったが、いまだ女中が...
桧山珠美 2025-11-08 12:45 エンタメ
“松本人志ファン”として言わせてください。『DOWNTOWN+』は天才的だった。だが「松本、動きました」はダサかった
 2024年1月から芸能活動を休止していたお笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志(62歳)が、約1年10カ月ぶりに活動再開...
堺屋大地 2025-11-08 11:45 エンタメ
『ラブ トランジット』3、ついに決断の瞬間! 永遠のテーマ「良い人だけど付き合えるか」問題がリアルすぎ【8話レビュー】
『ラブ トランジット』シーズン3(Prime Video)、最終話が配信されました! 『ラブ トランジット』(以下ラブト...
中村未来 2025-11-07 11:45 エンタメ