紙上再録「TAMORI80~勝手にタモリ80歳大生誕祭!!」(2)

更新日:2025-12-29 10:58
投稿日:2025-12-29 10:55

「タモリ発見」は作り上げられた伝説なのか

 間もなく「戦後80年」が暮れようとしている。「終戦の日」からちょうど1週間後、1945年8月22日にタモリ(本名:森田一義)が生を受けてから今年で80年。その記念すべき誕生日の前夜に東京・南青山「BAROOM」で「スージー鈴木のレコード研究室 特別編」として、「TAMORI80~勝手にタモリ80歳大生誕祭!!」(日刊ゲンダイ後援)が開催された。

「戦後民主主義の申し子」が桑田佳祐なら、タモリは「日本の戦後そのもの」だ──。

 そう言い切る音楽評論家・スージー鈴木氏(59)の呼びかけの下、「タモリ論」の著者で作家の樋口毅宏氏(54)、「タモリ学」の著者でライターの戸部田誠氏(てれびのスキマ=47)という当代きってのタモリ論客が集結。日刊ゲンダイの奇人・今ラチ夫(51)も加わり、タモリの大きな功績を語り合った伝説のトークショーを紙上再録する。

 第2回は「私たちのいちばん好きなタモリ・イヤー」の続きから(全3回の中編/前編後編

  ◇  ◇  ◇

■1994年の「タモリ面白くない」論

スージー鈴木(以下=ス)そして、今ラチオさんは、なんと1994年。

今ラチ夫(同=今)「タモリ年表」の中でもトピックが少ない。

戸部田誠(同=戸)放送が続いていた番組が多い。新しく始めた番組がないんですよ。
今)僕ね、大学1年生の年で。「笑っていいとも!」(フジテレビ系)を昼間、ゆっくり見れる感じだったんですよ。

樋口毅宏(同=樋)重要ですよ。社会人になったら、全く見れない。

今)前年は予備校に通っていて全然、見れなかったのが、平日の昼に「こんなゆっくり見ていていいのかな?」っていうぐらい見ていました。

ス)今、おっしゃるように、サラリーマンになると「いいとも!」が見れないっていうね。

今)見れなくなってしまう。今、思えばですよね。しかも94年っていうのが、翌年、95年にオウム真理教事件とか阪神大震災があって、よく世間で言う「失われた30年」の起点になるような年だったんですけど。93年(の日本)は長期安定期だったんですよ。タモリ自身が割とこのぐらいの時期って、マンネリ化していて面白くないとか、そういう評価をされていましたよね。

樋)そう。タモリ面白くない論。

今)僕も面白くないと思っていたら、ちょうど、この年から(いいとも!で)SMAPの2人と絡むようになる。あと、ナインティナインの2人と絡むようになる。ちょうど、タモリさんが僕たち世代に降りてきたっていう感じがして。中居(正広)くんとか。ナイナイもそうですけど、なんかエライ高みにいたところから、降りてきたなあ、っていうのが、このくらいの時期です。でも、タモリさんが長期安定を自ら崩したことによって、この年から、なんか日本もちょっと崩れていったという。

ス)タモリと一緒に。

今)タモリと一緒にって、ちょっと思ってるんですよね。

ス)僕の世代は昭和41年(生まれ)なんで、1966年なんで、この90年代後半ぐらいから、ナンシー関が「リスペクト・フォー・タモリブーム」って言い出して。僕ね、ちょっと嫌やったんです。「いいとも!」で若手芸人とかが「タモさん、タモさん」とか言って、タモリを慕っているムードがね。

今)昔はね。「タモさん」って言ったのは、山瀬まみぐらいだったんですよ。

ス)じゃあ、出川(哲郎)は?

今)出川がリスペクトし出した最初ぐらいじゃないですか。

(なぜか全員で、出川哲郎の「タモさん、タモさん」のモノマネを繰り広げる)

樋)でもね、本当に90年代前半の頃って。初期のタモリは「イコール=アナーキスト」だったんですが、90年代前半って、もう本当にタモリと「いいとも!」が退屈の象徴だったんですよ。

今)くたびれたサラリーマン感があるというか。

樋)そう、本当に。だから僕は、もう大学4年生で、電気グループの「オールナイトニッポン」第2部を聴いてるぐらいの時なんですよ。石野卓球が、もう、タモリをからかう、からかう。「『タ」』と『モ』と『リ』」とか言って、「いいとも!」がどれだけつまらないものか、もう象徴する存在だったんですよ。

ス)SMAPとかと出会って、蘇生したんだ。逆に。

今)上から降りてきた感じがしたんですよね。なんだかね。

■2014年「いいとも!」最終回の思い出

ス)そんな「いいとも!」が2014年に終わると、スキマさんが一番好きなのが2014年。好きなポイントはどうでしょうか?

戸)「いいとも!」が終わって、その時の打ち上げで、タモリさんが言ったのが「日本のバラエティーに乾杯」。そう言って乾杯の音頭を取ったらしいんですけど。

ス)あー、いい話だなあ。

戸)その年に始めたのが「ヨルタモリ」(フジテレビ系)なんですね。ヨルタモリって、全部タモリさん自身はキャラになりきってトークをするっていう。「本物はビールだけ」っていうコンセプトの番組なんですけど。タモリさんって、基本的に企画に口を出さないことで有名じゃないですか。でも、「ヨルタモリ」だけは、基本から全部タモリさんが作った。

ス)どういう心境の変化なんでしょうね?

戸)そう。その心境の変化がすごく興味深くて。しかも、テレビのバラエティーは、こういう風になったらいいなっていう気持ちを込めて作ったって、おっしゃっていて。結構、アナーキーなこともコントでやったりとかして。多分、タモリさんが「いいとも!」終わった後って、色んな企画が持ち込まれて、恐らくは楽な企画が多かったと思うんですよ。タモリさんを接待するような。そういう企画を選ばずに、自分でストイックにやるっていうのを選んだっていう。

ス)2014年、そんな年だったんだ。3月末が「いいともの!」の最終回か。最終回はご覧になっています、皆さん? 記憶にあることとか、今さん、どうですか?

今)リアルタイムで、ちゃんと見たんですよ。会社をサボった気がする。

ス)なんか、見なきゃいけない感じがありましたよね。

今)今日は弊社の社長が会場に来ているのに、何を言ってしまったんだろう。でも、きっちり見た記憶があります。

ス)田中康夫がパーンって、太田光にひっくり返されたんですよね。

戸)あれね。ビートたけしさんが昔やったことのパロディです(註:83年2月、たけしが「いいとも!」の生放送中に乱入し、当時レギュラーだった田中康夫を引き倒した)。それを知らない人たちから、すごい太田さんが責められるという。

ス)樋口さん、最終回は覚えていますか?

樋)覚えていますよ。昭和テレビの最終回みたいな。

ス)嗚呼、そんな感じだなあ。

「認められたい」という野心は絶対にあった

戸)皆さん、ご存知だと思うんですけど。タモリ発見のエピソード。(ジャズピアニストの)山下洋輔の泊まっていたホテルに乱入して、才能が見染められるっていう。

ス)まだ、アマチュアのタモリが、ライブツアーで福岡に来ていた山下洋輔一行が、ホテルの部屋で乱痴気騒ぎ。デタラメ歌舞伎をやっていたり。

戸)その場に入っていって、そのままデタラメ歌舞伎を演じるっていう。ですけど、結構、諸説いろいろあって。誰かが乱痴気騒ぎしている中に入っていったって言うんですけど、きっと知ってますよね、山下洋輔グループが、そのホテルに居たっていうことは。

ス)タモリがね。

戸)そもそも、そのホテルにタモリがいたのは、(サックス奏者の)渡辺貞男のマネージャーとタモリが友人で、一緒に飲んでいたんです。山下洋輔と渡辺貞男のコンサートに行っていたから、山下洋輔がいることは知っていたはず。きっとですね。そこからデビューしようっていうほどの気持ちがあったかは分かんないけど、ある程度、認められようみたいな。そういう野心は、絶対あったと思うんですよ。

ス)あったでしょうね。

戸)諸説の中では、事前に挨拶もしていたっていう説もあったり。「森田です」と言い残して、すぐ帰ったみたいなことになっていますけど、実は翌日に福岡を案内してるとか、そういう話もあったり。それらを総合して考えると、恐らく突然入っていったのは事実だと思うんですけど、ジャズ界隈の人たちが、タモリというものを、みんなで作り上げたんだろうなと。そういう伝説を作ったんだろうと思うんですよね。それって、すごく「THE芸能」って感じがして。結構、そことは縁遠いイメージのあるタモリさんですけど、実は「THE芸能」的な生まれ方をしてるんだっていう。

樋)大丈夫、大丈夫。それぐらいの曲解というか、色付けはOK。だって、(映画の)「ボヘミアンラプソディ」だって、フレディ・マーキュリーが、それまで全然クイーンを知らなかったのに、いきなり自分から売り込んで、ある日突然メンバーに入ったみたいな描かれ方をしているじゃないですか。実は、その前からメンバーとは顔なじみだったのに、いつの間にか、それが伝説になっている。全然OKです。

戸)それが、すごくいいなと思うんですよね。

ス)自分から売り込んだって話だったかもしれないけども、自然に入ってきて、自然にセッションしたっていう方が、タモリっぽいじゃないですか。

戸)そういうイメージをうまく作り上げたっていうのが、すごくいいし、それに応える才能もあったっていうことだと思います。

ス)いやースキマさんの素晴らしい話。拍手をお願いします。

(会場、拍手)

■「タモリと知性」という問題

ス)「新しい戦前」という発言も、あれアドリブですかねえ。

今)アドリブでしょうねえ。もっともらしいことを言って。でも、1992年の「講演大王」(日本テレビ系)で、単にアドリブで話していたこと(註:排他主義が横行するメカニズムの説明)が、30数年後の日本には現実に起こってしまう。タモリさんはなんかこう、預言者っていうか、神がかっているところがありますね。

樋)本当に。いつもどれだけ本を読んでいるのかなと思いますよね。「いいとも!」の楽屋でも、本がいっぱい積んであるみたいな。タモリさんでも、たけしさんでも、ちゃんと勉強してるのが、すごい重要。芸人になったら勉強をやめちゃう奴。女と酒に向かっていくような奴って、全く尊敬しないんだよなぁ。

ス)どっかから変わりましたよね。勉強してるとか、頭がいいとか、モノを知ってることは絶対カッコいいはずなのに、それが平成のどの時点からか、カッコ悪くなっていって。バカはバカのままでいい。頭のいい人も、バカのフリをするようになっていったじゃないですか。特にテレビのバラエティーが。嫌だったんですよね。

今)でも、最初に知性を否定しにかかったのも、タモリさんなんですね。70年代後半とかね。

ス)ですよねえ。なんでしょう、これは? 「タモリと知性」。

樋)世代もあると思いますよ。だって、たけしさんもよく言っていましたけど、(映画監督の)ゴダールとか、フェリーニとかの作品を見ていないといけない。教養、素養として。

ス)団塊の世代の一つ上ですもんね。

樋)「難しければ難しいほどいい」っていう世代が、ある時期まであって。ところが、80年代ぐらいから、今度は分かりやすければ、分かりやすいほどいいっていう風に反転していく。これはね、致し方ないことかもしれないなとは思いますけどね。

ス)そういう時代の中で、馬鹿の方が、軽薄の方がカッコイイってなったけれども、でも、結論として、やっぱり、たけしもタモリもすごい勉強している。

後編につづく)

エンタメ 新着一覧


【2024年人気記事】松本人志はいまや「憧れの芸人」ではない。若手芸人が話す3つの理由
 あけましておめでとうございます。2024年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...
帽子田 2025-01-02 06:00 エンタメ
【2024年人気記事】なぜ塚地武雅、藤井隆はドラマ出演が続く? 不人気芸人との決定的な違い
 2024年も「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記事を再掲載します。こちらの記事初...
【2024年人気記事】『新宿野戦病院』小池栄子の英語、海外はどう思う?「下手というより…」
 2024年も「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記事を再掲載します。こちらの記事初...
映画「聖☆おにいさん」全力でおバカを演じる松ケン&染谷将太たち。評価は真っ二つだけど…
「M-1グランプリ2024」の準優勝バッテリィズに元気をいただきました。エースでしたっけ。やはり“おバカ”は最強です。優...
ラウール、高橋文哉…2024年「国宝級に検索されたイケメン大賞」TOP5の最も検索された日は…?
 2024年もあとわずか。今回は今年1年を通じて活躍したイケメンが、いかに世間の人々の注目を集めたかを調べてみたいと思い...
こじらぶ 2024-12-28 06:00 エンタメ
【最新回のおむすびにモヤっと】「豚肉と玉ねぎのニンニク炒め」はサラダの後に作ったほうが…
 スナック「ひみこ」で、佳代(宮崎美子)と話す結(橋本環奈)。永吉(松平健)とただいるだけで幸せだと言う佳代の言葉を聞い...
桧山珠美 2024-12-27 19:30 エンタメ
「M-1」令和ロマンが主人公なら、エバースは裏主人公。泥臭い秀才コンビを応援したくなるのが人のサガだ
 今年も最高の盛り上がりを見せた「M-1グランプリ」(ABC・テレビ朝日系)。令和ロマンが史上初の2連覇を果たしたものの...
帽子田 2024-12-27 06:00 エンタメ
面白かった「秋ドラマ」を調査!『海に眠るダイヤモンド』を抜いた1位は?期待外れに“あの作品”がまた…
 続々とクライマックスを迎えている2024年秋ドラマ。今期は見ごたえたっぷりの作品が揃い、ドラマに夢中になっていた人も多...
【今日のおむすびにモヤっと】別人と化したナベベ(緒形直人)、ギャルに救われた話は見せ場になったはず
 翔也(佐野勇斗)と別れた結(橋本環奈)は、合コンの場で栄養士になる意味がないのではと言われ、帰り道に考え込んでしまう。...
桧山珠美 2024-12-25 16:30 エンタメ
「M-1」2位! バッテリィズ・エースの愛され力。“アホ”が殺伐とした現代に必要とされるワケ
 もはや年末の風物詩となった『M-1グランプリ』(ABC・テレビ朝日系/以下M-1)が今年も12月22日に開催され、チャ...
【今日のおむすびにモヤっと】翔也は金髪ギャル男というよりディランに見える!?
 野球ができなくなった翔也(佐野勇斗)は、総務課でフルタイムで働くことになるが、パソコンを使えないため先輩からお荷物扱い...
桧山珠美 2024-12-24 17:19 エンタメ
紅白司会の橋本環奈、NHKは「パワハラ疑惑」を完全スルー! ジャニーズ問題への提言はなんだったのか
 地方アイドルグループに所属していた中3当時、ライブ中に撮られた奇跡の一枚によって、「千年に一人の逸材」と騒がれた橋本環...
堺屋大地 2024-12-24 10:11 エンタメ
ぐるナイゴチ、高橋文哉残留を願うのみ。大晦日は“結婚間近”報道後もヤキモキする佐藤健に懸ける!
 毎年この時期になると、どうしても気になってしまうのが「ぐるナイ」(日本テレビ系)の“ゴチになります”で誰がクビになるの...
【最新回のおむすびにモヤっと】“秒”で作ったHPでもう繁盛店?「初回半額」特典でも付けたのか
 愛子(麻生久美子)が家出をしたために結(橋本環奈)がヘアサロンヨネダで働いていると、店のホームページを見て来たという客...
桧山珠美 2024-12-21 06:00 エンタメ
【今日のおむすびにモヤっと】当日いきなりスコッチエッグの無謀。鶏ひき肉と卵、大量に仕入れていた?
 愛子(麻生久美子)が置き手紙をして家出したため、ヘアサロンヨネダでは聖人(北村有起哉)がてんてこまいに。一方、社員食堂...
桧山珠美 2024-12-19 17:48 エンタメ
パワハラ系上司役・三宅弘城の演技が達者すぎる? 右肩異変の翔也は病院に行くべし!
 結(橋本環奈)が立川(三宅弘城)に食堂のメニューの見直しを提言。すると、立川は小娘の言うことを聞くぐらいなら辞めると言...
桧山珠美 2024-12-17 16:30 エンタメ