女性初の競馬アナだった井口保子さん いまは小説執筆に没頭中
【あの人は今こうしている】
井口保子さん
(伝説の女子アナ)
◇ ◇ ◇
政界では女性初の総理が誕生し話題だが、競馬界では50年以上も前に女性の実況中継アナウンサーが誕生し、世間の注目を大いに集めたものだ。ラジオ関東のアナウンサーだった井口保子さん、今どうしているのか。
井口さんに会ったのは、都営三田線白金高輪駅から徒歩7分のビンテージマンションの一室。井口さんの個人事務所だ。
「50年以上前に、ローンを組んで購入しました。3回リフォームして、やっと私好みの部屋になりました」
部屋の壁は大理石で覆われ、天井には大きなシャンデリアが輝く。ゴージャスで、まるで西洋のお城のようだ。
「このマンション内に、もう一室持っています。そちらは自宅で、25、26年前に一括で購入しました。その自宅から、毎日この事務所に来て、日中はここで過ごしています。昼夜逆転の生活でして、起きるのは午前0時。何をしてるって? 小説を書くための勉強をしているんです」
小説? 競馬の世界を書いているのか。
「いえ、馬の世界のことは私には難しすぎて書けません(笑)。馬とは全然関係のない、現代社会に生きる人々の心の機微を書いています。もちろん、男女の恋愛を含めて……。70代から書き始め、今は小説家の先生に習いながら……。生きているかぎり、続けたいと思っています」
■競馬場には大きなGⅠレースのときは必ず行きます
ラブロマンスとは意外。井口さん自身は独身だ。
「残念ながら、この人の子どもを産みたい、という男性に巡り合うチャンスがありませんでした。でも、私はいつも夢を見ながら生きている“夢見る夢子”ですから、全然寂しくありません」
3歳下の妹や学生時代の友人がよく電話をかけてきて、1、2時間しゃべっているし、知人が突然訪ねてきたりもしますから。『今日はあまりしゃべってないわ』という日は、キーボードを叩きながら、中学生の頃に習っていた日本歌曲を大声で歌うと胸がすっきりします。ピアノや歌を、子どもの頃に習っていましたから。
食べることも楽しみだ。
「1日5回食事をとり、ブランデーを少し飲んでフワ~ッといい気持ちになって寝るという毎日です(笑)。食欲旺盛で、お酒のおつまみのようなおかずを、毎日5種類は作り、牛乳以外は何でもよく食べるので、太らないよう気をつけています(笑)。これまでのところ、大病はしていません。実はこの夏、突然胸に痛みがはしり乳腺外来を受診したら問題なしでした(笑)」
井口さんは体形が変わらないだけでなく、テンポよく話し、表情が生き生きしている。年齢知らずのようだ。
「現在は競馬専門テレビ局『グリーンチャンネル』で放送番組審議会委員を務めております。競馬場には大きなGⅠレースのときは必ず行きます。また、ラジオ日本退職後も、函館や札幌、九州の小倉競馬場にも行きたいと思って、退職金の一部でANAの株券も買いました。チケットが半額で買えると知って(笑)」
競馬場へ行く際には、猛勉強して馬券を買う。今秋の天皇賞では馬連と馬単を当て、ホクホクなんだそうだ。
■“2代目”女子アナから来年誕生?
さて、4、5歳ごろからアナウンサーに憧れていた井口さんは、東京学芸大在学中にラジオ関東(現・ラジオ日本)に入社。71年、女性初の競馬実況中継アナとなり20年以上も務めた。
「しゃべるのが好きだったから、休日は結婚式などの司会やナレーションなど、365日仕事をしていました。男女差別の激しい時代でしたが、私には毎週たくさんの男性の聴取者からおはがきが届きました。それらをすべて読んで、喜んだり、励まされたり、ときには落ち込むことも……。今思えば、本当に楽しい時代でした。私が競馬の実況中継を引退して、長い年月が流れましたが、いよいよ来年あたり、若い女性アナウンサーの実況が、ラジオから聞こえてくるようになりますよ。ただ、ラジオ局は私の古巣ではなく、ラジオNIKKEIです」
(取材・文=中野裕子)
▽井口保子(いぐち・やすこ)東京・葛飾区生まれ。東京学芸大学在学中の60年、ラジオ関東(現・ラジオ日本)入社。71~95年、「競馬実況中継」で競馬中継を担当。騎手らに取材する「調教だよりジョッキールポ」などのコーナーも好評を得て78年、日本女性放送者懇談会賞受賞。2024年、JRA理事長特別表彰を受けた。
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