傷心のわたしは俳優Sのいる西麻布のSMバーへ
【vol.46】
信じていた男がいとも簡単に浮気をしたことが発覚したことで……しかも、飄々と嘘をつけるパーソナリティということにも悲しみが止まらず、嗚咽しながら指定された西麻布の「ブラックローズ」前でタクシーを降ります。
雑居ビルの6階へ着くと、その瞬間、むせるような甘い匂いと真っ赤な世界が広がります。
自暴自棄で、傷心で、四の五の言わずにめちゃくちゃになりたいときに、なんと御誂え向きのステージなんでしょう。
カウンターで何人かと飲んでいる俳優Sを見つけます。マネジャーさんとその他2人くらい、女子がいないことでなんとなくホッとします。
合流するときって、最初からいた女子の品定めの目が怖いんですよね。特にこういう風にわたしから「どこかで飲んでないですか~?」なんて聞いて、呼んでもらったときは十中八九、他の面々は初対面のことが多いわけです。なぜなら自分の知り合いを集めた飲み会でなく、とりあえず突然ジョインという立場だから。
しかも取り繕うことも、気も遣えないこの状況、ただ、異性とアホみたいに酔っ払ってグッチャグチャになりたいだけですからね。
そんなとき初対面の女子がいた場合、フレンドリーにこちらからどんどん話しかけて、相手のことは根掘り葉掘り聞かず、自分の出自を明らかにして、相手に敵ではないという関係性を築き心を開いてもらって、同席している男性も安心させて、ようやくはじめて、その場での仲間と認めてもらえるまで軽く1時間はかかります。
女子はそこらへん、本当に厳しいですから。でもそんな気分じゃないわけで、そういうとき、他に女子がいない男子だけの飲み会に合流するのは、最高に気が楽です。特にこんな精神状態のときは……。
突然のロウソクでタラリタラリと洗礼
「お~~! キタキタ!! こっちこっち」
Sは嬉しそうに手招きをしてくれます。見るからに酔っ払っていて、本当に“ちょうどいい”。こういうちょうどよさって、なかなかないんですよね、途中合流のとき。
しかも屈託のない心からの笑顔だっていうことが、すぐに、もう手に取るようにわかるトロけるような笑顔なので、わたしも笑顔で駆け寄り、
「突然なのに快く、ありがとうございます! とっても嬉しいです! もうわたし、奢っちゃいますから今日!!!」
その言葉に、ほかの男性陣も相好を崩します。カウンターでSの隣に座らされると、グラスにオーパスが注がれます。
「ちょっと腕出して」
と、カウンターの中のお姉さんに言われて腕をカウンターに差し出すと、手のひらをおさえられ、ぶっといロウソクが掲げられます。次の瞬間、ロウソクのロウが腕の内側にタラリタラリと降ってくるのです!
「きゃああああああああああああああああ」
その反応に、全員大爆笑で、とっても嬉しそう。でもこのSMバーは、ショーが主で、働いているお姉さんたちはみんなプロフェッショナルのダンサーさんたち。しかもここで使われているロウソクのロウは、ビジュアルで見ると死ぬほど熱そうなのですが、一切熱くないロウ。
気負ってきたけれど、一切背徳感なしのヘルシーSM。四つん這いでお尻を叩かれたり、牢屋に入れられたりしながらも、とりあえず浴びるようにワインを喰らいます。
やっぱり来た! ひろしからの鬼電&LINE
2時間くらいして、ひろしからの鬼電とLINEが怒涛のように入ってきました。ひろしの浮気相手との過激エロLINEをそのままにしてきたので、わたしが何をしたか、何を知ったか、どうしていないか、すべて分かっている。
「どこにいるのか」
「なにをしているのか」
「電話に出なさい」
「こんなに心配させて、わしを殺す気か」
という脅しLINEから、
「どうしたのですか」
「明日も早いのだから、とりあえず帰ってきなさい」
「週末には軽井沢に一緒に行こうと思っていますよ」
という境界性パーソナリティ障害に近いようなLINEが続々と入ってきます。
人前で携帯を見ないことを美徳としているわたしは、トイレにいくふりをしてトイレの中ですべてのメッセージを既読にし、携帯の電源を落とすと、扉を開けました。
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