ホームページから消えた彼の名前
――おつらかったですね。
「はい、つらかったです。今もどこかでタクミ君と触れ合っているお客がいるかもしれない。いや、プライベートでは恋人がいて当たり前……セックスもしているんだろうなと思うとノイローゼになりそうで……あの時は一気に3キロは痩せたと思います。
でも、時間の経過というのは不思議ですね。日に日に元気を取り戻していきました。
またタクミ君を指名しようか、いや、今度は別なホストがいいかしらと、HPを見る元気が出てきたんです。
そんなタイミングで世の中が一変しました。
コロナ騒動が始まったんです。
コンビニやドラッグストアからは消毒薬やマスクが消え、三密禁止、外出自粛が始まり、リモートワーク中心の生活となりました。
生活は一変しましたが、幸いにも私はWEB関係の仕事でしたし、夫や娘もリモートで乗り切りましたね。
不便さはありましたが、我が家は各自の部屋があるせいか、苛立ちをぶつけ合うような大きな影響はなかったです。
タクミ君が所属する出張ホストのHPも時々チェックしましたが、「現在、営業はしておりません」と表示されたまま。
だから、仕事の合間にネットで彼を探しました。
タクミと言う名前はおそらくホスト用の源氏名でしょうから、『劇団』『役者』『俳優』などにヒットするかなと思って、必死に……でも、見つけることはできません。
目をつむると、まぶたの裏に浮かんでくるのはタクミ君との熱い時間です。
初めて会った時のトキめき。クールな美青年なのに、子犬みたいに可愛らしく笑う表情。手つなぎデート。ラブホテルでのオイルマッサージ、キス、抱擁、クンニリングス、フェラチオ……」
――つらさもありましたが、美しい思い出ですものね。コロナが落ち着いた最近はいかがですか?
「かつての生活が戻りつつあります。
家族が皆、健康で過ごせたことに感謝していますし、仕事もなんとか頑張れています。
……で、出張ホストのHPにアクセスしたら、営業再開したものの、ホスト欄にタクミ君の名前はありません。
彼、辞めてしまったようなんです」
どん底を味わった女は強い
――えっ、そんな……。
「私は焦りました。
もう二度と逢えないの……?って。こんな中途半端に終わっちゃうのはひどすぎる。もう体の関係なんていらない……手つなぎデートだけで幸せだから、またあの笑顔に逢いたくて……」
――T子さんの目の端が涙に光った。
「出張ホストとはいえ、タクミ君に逢えたことは私への大きなギフトです。
枯れていた心と体をこんなにも潤わせてくれて……つらいときもあったけど、今は後悔していません。7万円と言う大金も、無駄じゃないと思いたいな。
またいつかどこかで再会できることを信じて、日々を懸命に生きるのみです。
一度どん底を味わった女は強いですよ!(笑)」
――目を細めてほほ笑む彼女は、希望やパワーに満ちあふれていた。
一度、どん底を味わった女は強い――筆者はその言葉に大きくうなずきながら、彼女の幸せを願った。
了
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