悲劇はもう二度と…園児の外遊びの大切さと保育士さんの努力

小阪有花 子どもの心スペシャリスト
更新日:2019-05-23 15:41
投稿日:2019-05-18 06:00
 保育園の子どもたちや働く保育士さんにとって、あまりに悲しい出来事が続いています。園児2人が亡くなった大津市の事故のショックも冷めやらぬうちに、今度は千葉県市原市の公園で遊ぶ園児に車が突っ込み、かばった保育士さんが骨折するという痛ましい事故が起きました。
 今回は、私の保育園での勤務経験から、子供たちにとってお散歩や外遊びがどれほど楽しく大切な体験で、そのために保育士さんがどれほど気を配り、努力しているかをお話させていただきます。

子どもたちが外遊びで学べるたくさんのこと

 元気いっぱいでかわいい子どもたち。朝、保育園に姿を現すやいなや「お外にアリさんいるかな?」「今日は〇〇公園がいい!」と、早くも外遊びを楽しみにしている園児ばかりです。

 公園での外遊びで子どもたちが体験する多くのことは、知育遊びだけでは決して得られるものではありません。遊具一つ一つにも、とても大切な「学び」があるんです。

 すべり台ですべって遊ぶためには頂上まで頑張って上らなくてはなりませんし、ジャングルジムはどうやったら上まで行けるかを考える必要があります。

 ブランコは自分の力で動かすことでより高く舞い上がることを知り、シーソーは相手とのタイミングを考えながら遊ぶことで調和を学びます。

 砂場では自分の考え次第でどんな形にも変わっていく、思考は現実化することを体感することができます。

 もちろん、子どもたちはただ遊びたいものを見つけて遊んでいるだけですが、こうして楽しく全身を使って遊ぶことで人生を学んでいくことにもなるのです。

保育士さんは子どものために試行錯誤

 保育園の外遊びは基本的には午前中に行うものですが、それによって、子どもたちの1日のリズムが決まるといっても過言ではありません。

 というのも、子どもの体力はそれこそ“ブラックホール並み”に無尽蔵。なので、午前中に思いっきり遊べないと体力があり余って、お昼寝の時間になかなか寝つけない子どもも出てきます。

 そのまま眠れないでいると体内リズムが乱れ、午後の活動時間に眠気が襲ってきてしまいます。子どもは眠くなると情緒が不安定になり、怒りっぽくなってしまう場合も多いです。

 保育園は集団生活ですから、子どもたちが時間差で寝ることで保育士さんを取られてしまうと、園が回らなくなってしまうという事情もあります。けれど何より、子どもの体内リズムが乱れてしまうことが一番の問題です。

 お昼寝は心身ともに子どもたちにとって大切な時間。そうしたこともあり、保育士さんたちは子どもたちに少しでも長く外遊びを楽しんでもらうよう、“今日はどうしよう? 来週はどうしよう?”と、日々、試行錯誤を繰り返しているんです。

保育園でお散歩時に気をつけていること

 これは都心に限った話になってしまうかもしれませんが、狭い保育園には園庭がないところも少なくありません。園庭がなければ公園に行くしかなく、頻繁にお散歩が必要になります。

保育園には“お散歩マップ”といって、園外にある公園の地図が貼ってあり、子どもたちが普段、どの公園に行っているのか、保護者が把握できるようしてあります。

 外に出る際は、出発時間、帰りの時間、行き先、どの保育者が同行しているかを記入する帳簿もあります。保育士さんたちはそこに記入した通りに行動し、変更があった場合はその都度、園に報告します。

 公園に向かう際、子どもたちは手をつないで行きますが、手のつなぎ方やどの子とどの子をつながせるのが一番安全かなど、それだけのテーマで何日もかけて話し合うことも多々あります。

 子どもたちには、安心安全に目いっぱい外遊びを楽しんでもらいたい。この気持ちは、保育士さんすべてに共通してる思いだと思います。

子どもの好奇心に付き合いながら細心の注意

 お散歩の際は、担任が先頭を務めます。外は車や自転車が走っていて危ないので、だいたい2組4人の子どもに1人の保育士さんがつくことが多いです。もちろん、車道側を保育士さんが歩くのは絶対で、手をつないだ2組の子どもの手を先生が車道側から両手でつなぐ感じです。道が変わるたびに先生は車道側に移動しています。

 また、歩くスピードが速い子を前にして全体的にペースが乱れないようにしているほか、園児と園児の間隔があまりタテに広がらないよう、後ろの先生は常に配慮します。

 お散歩の最中、気になる物があると列から外れてしまう子どもや、そのまましゃがみ込んでしまう子もいます。歩くことに疲れたり飽きたりしてしまう子もいるので、頑張って歩いてもらうためにお歌を歌ったり、「今日の給食は何かな?」「もうすぐだから頑張ろう」と常に声掛けを行っています。

 子どもたちの好奇心に付き合いながらも、集団の輪を乱さずに時間内に保育園に帰ることも、当たり前のことではありますが、保育士さんの努力と技術が要求されるんです。

バギーを使った移動にも保育士さんの努力

 保育園で外遊びに向かうお散歩の際、四角い箱に子どもたちが何人か入って先生が押しているところを見かけませんか?あれは、バギーという乗り物で、かわいくて癒される光景ですが、あのバギー、実はとても重いのです。

 仮に、子ども6~8人用のバギーだとしたら、重さはだいたい20~30キロ。1才児1人当たり9~13キロの子どもを6人乗せるとすると、その重さは、大人2人分とまではいかないかもしれませんが、簡単に動かせる重さではありません。

 保育士さんは、安心安全を考えながら毎日、この重い乗り物に子どもたちを乗せて公園へと連れて行きます。私もバギーを押した経験は何度もありますが、そのおかげか、当時は子ども2人を両手で抱っこできるくらいの筋力は鍛えられました。

 一見、かわいくて癒されるバギーに裏には、安全に公園に連れて行ってあげたい、という保育士さんたちの毎日の努力があるのです。

もう二度とこのような悲劇が起きないように…

 今回、とても痛ましい事故が相次ぎ、大勢の人が悲しまれたことと思います。私自身、教え子がこのような事故に巻き込まれてしまったらと思うと、想像しただけで胸が張り裂けそうになりました。

 保育士さんたちも一生懸命にやっています。当初こそ会見で保育園や保育士さんに無慈悲な質問が飛びましたが、その後は「#保育士さんありがとう」というハッシュタグも広がっています。

 もう二度とこのような悲劇が起こらないよう、車を運転する人には十分すぎるほど注意をしていただきたいし、全国の保育園でも安全面や予防策を再度考えていく必要があると思います。

 助かった子どもたちの回復を祈り、保育士さんのことを思い、亡くなってしまった子どもたちのご冥福をお祈りします。事故に巻き込まれてしまったすべての方々の幸せを願います。

小阪有花
記事一覧
子どもの心スペシャリスト
保育コンサルタント。アイドル時代の旧芸名は小阪由佳。「ミスマガジン2004」グランプリで芸能界デビュー。09年に引退後、保育園の先生を経て現職に。チャイルドカウンセラー、幼児食インストラクター、ベビーシッター、家族療法カウンセラーなどの資格を持つ。
XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


離婚で「実母と義母」のバトル勃発! 嫁を“敵認定”した義母が放つ衝撃的な一言【身内のありえない発言】
 嫁と姑の付き合い方が見直され、昔ほどフィーチャーされにくくなった「嫁姑問題」。ですが、実際はトラブルが発生しているもの...
「ミスっても死なない!」優柔不断とおさらばする“前向きマインド”5つ
「優柔不断な性格を直したい…」「いつもクヨクヨ悩んでしまう」こんな悩みを抱えている優柔不断な方、集合! 優柔不断を改善す...
“神たま”のそば、羨ましいでしょ? 進むたび揺れる「にゃんたま」をソッと撮るお仕事です
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
わかるけど…LINEの「疲れた」アピールにウンザリ。愚痴って対応に困るんです!
 何気なくする“疲れたアピール”は、ときに人を困らせてしまうもの。相手に遠慮や我慢をさせてしまったり、無理させたりする場...
仕事一筋の私が『対岸の家事』詩穂に共感した理由。くだらない「専業主婦vsワーママ」対立してる場合じゃない
 多部未華子さん主演のドラマ『対岸の家事』が6月3日に最終回を迎えた。毎回放送されるたびに話題になり、SNSを中心に視聴...
ストゼロでも消えない死への恐怖。介護に離婚…友人それぞれが歩む人生に救われた夜。人が最後に行きつく先は
 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らし...
48歳、乳がん検診の「要精密検査」に衝撃。独居暮らし男の孤独死に重なる…誰にも看取られない恐怖
 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らし...
40代は“知人の訃報”がくる年齢だ。憎んだ男の「死亡通知書」で20年ぶりに集う同級生、独身の私はどう映る?
 板チョコのような重い扉を百恵が開けると、真っ赤な口紅を施したママさんがいつものように明るく出迎えてくれた。 「い...
「20年モノのフライパン」がかっこいい? 貧乏戦線に異状あり!
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
お酒の席の“あのルール”に物申したい! グラスに注ぐベストタイミングは…
 働く側としても、お客さんとしても大好きなスナック。今後も良いところをどんどん書いていければと思っているのですが、今回は...
若者が『めおと日和』の“昭和な恋愛”に胸キュンするのは何故? タイパ重視じゃないもどかしさ
 アラフィフ独女ライターのmirae.です。前回のコラムでは、「50代の恋愛にときめきは必要なのか?」というテーマについ...
婚活に介護…もう頑張れない。アラフォー女性が抱えがちな問題、6つのケースを聞いた
 今回ご紹介するのは、アラフォー女性の悲鳴。「もう頑張れない」と思っていることを教えてもらいました。同じ悩みを抱えている...
怒った中年の顔は「ブス」だと知った。更年期世代がイラついた時にするべき大事なアレ
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
ゴロンする一瞬♡ 奇跡のモフモフ“にゃんたま”とプニプニ頬っぺが尊すぎる
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「現金がよかった」ってそりゃないよ~!『母の日』のガッカリエピソード
 日頃の感謝を伝えるために贈った母の日のプレゼント。なのに微妙〜な反応をされたら悲しいですよね。今回はそんな“母の日のガ...
女性の「理想の顔」ランキングが発表。石原さとみや新垣結衣を抜いた第1位は、上品なイメージのあの女優!
 もしも憧れの芸能人の顔に近づけるとしたら……あなたは誰を「理想」だと感じますか?