#3 大切なのはいかに互いの性を理解し肯定しようとするか

うかみ綾乃 小説家
更新日:2019-06-14 06:00
投稿日:2019-06-14 06:00

互いの本音を伝え合った上で一度だけ

素直に相手を求めることができた(写真:iStock)
素直に相手を求めることができた (写真:iStock)

 交際当時、週に二回はセックスしていた彼が、別れて10年近く経ってから言ったのは、

「実は俺、セックスってそう好きじゃないんだ。でもそれじゃおまえに悪いから、頑張りすぎてたんだよ」 

 私は呆気に取られ、笑いました。

「実は私も。自分で勝手に頑張ってたくせに、『セックスを付き合ってあげている』っていう、妙な上から目線と被害者意識があった。そのストレスのせいで互いに喧嘩が多くて、最後まで本音を言えないまま別れたんだね」

 おかしな話ですが、彼とはその夜、一度だけのやり直しセックスをしました。

 すると、互いの本音を伝え合った上でのセックスは、想像以上に幸福感を覚えるものでした。

 衣服は中途半端に着けたまま。でもそのうち、自然と全裸で抱き合いたくなります。フェラチオはしなくて済むなら済ませたいけれど、相手が悦んでくれるのなら、むしろ愛しいものとして口をつけたくなる。

 自分が舐められるのも、気を遣って感じてみせる必要もなく、相手もやめたいときにやめてくれる安心がある中では、こちらも存分に集中できる

 素直に相手を求め、振る舞え、享楽的になれたひとときでした。

私がいちばん嬉しかった言葉は…

正直な気持ちを伝えられたことが嬉しい(写真:iStock)
正直な気持ちを伝えられたことが嬉しい (写真:iStock)

 その後、付き合う人には、前回書いたジョギング云々の例を出すなど、自分の気持ちを伝える努力をしはじめました。

「あなたへの愛情はある。セックス嫌いの自分に悩んでもいない。私が辛いのは、あなたを傷つけることであり、自分に嘘をつくことなんだ。どうしてもあなたがしたいときは、私が光熱費感覚で半額を出すから、ほかの女性としてほしい。それはしたくないと言うのなら、私も歩み寄るが、確実な約束はできない。本当に嫌なときに嘘をついて脚を開くことは、心を刮げる行為なんだ」

 伝えた相手の中には、そのときは理解しようと努力してくれるものの、後々、無理が出る人もいます。

 または「いままでいいセックスを知らないだけだよ」「俺がおまえにセックスの良さを教えてやる」という方向にいってしまい、付き合うに至らずに終わった人もいます。

 私がいちばん嬉しかったのは、次の言葉でした。

「俺には《したくない》っていう気持ちがさっぱりわからない。だからしたいときは、したいって言う。おまえもしたくないときは、したくないって言って。絶対に言って。その場凌ぎで俺を、女に嘘をつかせる男にするな」

 言葉って出してみるもんだなと思いました。

 私の本音に対して、否定するのでも折れるのでもなく、正直な気持ちを伝えられたことが、なによりも嬉しく感じました。

自分の正直な気持ちを伝え合って

気持ちを伝え合うことで自由になれる(写真:iStock)
気持ちを伝え合うことで自由になれる (写真:iStock)

 他人のわからないものを、まずはわからないものとして納得して受け止める。

 そんな余裕を、ふだんの人間関係では持てる人でも、こと性の分野では情緒が強く働き、プライドやコンプレックスを刺激されてしまいます。そして自己完結によって孤独な納得を得てしまう。

 けれどセックスレスが問題になる背景にはたいてい、コミュニケーション不足の問題が大きく横たわっています。

 他人は、こちらが想像できない悩みを抱えています。同時にこちらには出せない考えを提示してくれもします。もちろんいくら向き合っても噛み合わず、付き合うべきでない人もいますが、それらはまず対話しなければわかりません。

 大切なのは、欲望の釣り合わない、それでも好きな他者と、いかに互いの性を理解し、肯定しようとするか。

 私自身はいまは現役から遠ざかりつつある自分を楽に感じていますが、もう少し楽に生きる道もあったのではとの反省があります。

 セックスをしたい人も、したくない人も、回り道をして疲れる前に、自分の正直な気持ちを伝え合っていただきたいと思っています。

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