私は「ある下心」から養成所に入った
ママ友間でよくある、夫や子供をダシにしながら、決定権をキャッチボールして結局立ち消えるような、ゆるふわなラリーに慣れてしまっていたせいで、この独身2人の前のめりでテキパキとした反応が逆に怖かった。
――まぁ、翠は、当時からそういうところあったか。
早稲田卒の翠は、飲み会の幹事からライブハウスの予約、日程調整などを率先して請け負ってくれる、まさに仕事の出来る女って感じだった。
mixiプロフィールには「某丸の内商社勤務」となっていたが、それも納得だ。そんな彼女が芸人の専門学校の同期だったなんて。というか、当時からなぜそこにいるのか謎だった。
すみれはなんとなくわかる。センスがあって、純朴なお笑い好きが溢れていたから。
…私? 私の理由は簡単。出待ちをするほどの芸人マニアだった。あわよくば彼らの彼女になれるかもという下心で入った。結局、狙っていた芸人さんには会うこともできなかったけど。
「意地悪な幸せ」を噛みしめる理由は…
世界に足を踏み入れて分かったのは、芸人の男の子は、芸人の女の子を恋愛の視界に入れていないということ。戦友や飲み友から交際に至った芸人カップルはいれど、芸人の男の子と芸人の女の子同士の合コンなんてなかった。
同期の友人に合コンを頼んでも、その芸人の地元の同級生やバイトの友人とばかり合コンをさせられた。
…ただ、そのうちの1つで出会ったのが1歳年下の今の夫なのだけれど。
『了解。ひさびさに会えるのたのしみ』
スマホを手にしてニヤニヤしていると、夫が私の顔を訝しげ見ていることに気づいた。愛が溢れる不安げなその視線――大丈夫、そんなんじゃないから。
子どもたちの笑い声の中で、私は意地悪な幸せを嚙みしめた。
【#2へつづく:早稲田卒、商社OLの私は「貧乏な夢追い人」とは違うの。誰よりも高い“現在地”は私だよね?】
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