映画プロデューサー高野ひろみさんが1枚の写真と共に語る「ジェーン・バーキンの魅力」
【私の秘蔵写真】
高野てるみさん(映画プロデューサー)
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日本におけるフランス映画の祭典「横浜フランス映画祭」が今年も開催された(3月)。この映画祭に関わり、日本でフランス映画の配給を手がけてきた映画プロデューサーの高野てるみさんは、これまで数々の有名監督、俳優のインタビューも手がけてきたが、その中でも最も記憶に残るのは、一昨年、76歳でこの世を去った女優で歌手のジェーン・バーキン。バーキンがバッグになったエルメスの「バーキン」(※)はあまりにも有名だが、彼女の魅力について語ってくれた。
美大を出て、新聞記者になり、フリーになって編集プロダクションを設立したのが1980年代のことです。当時は「an・an」などの女性誌などに関わり、有名人をたくさんインタビューする機会に恵まれました。そんな中でフランス映画を中心としてヨーロッパの映画も買い付けするようになり、「巴里映画」の代表として製作・配給を手がけてきました。
この写真は15年前の「フランス映画祭2010」にジェーン・バーキンが団長としてやってきた時のもの。バーキンは63歳。ご覧のようにこの時のバーキンはボーイッシュなショートへアもナチュラルなまま。前歯にちょっとスキ間があるのですが、フランスではそれがカッコいいって言われています。着ているのはTシャツで、彼女はスカートよりパンツ姿が多いですね。そして、私をハグし、肩を抱いてくれたのがこの写真です。
こういう場ではバッチリ、メークをしてドレスアップしてくるハリウッドの女優では考えられないことです。そこが唯一無二のカッコよさなんですよね。
旅行すると空港の税関で大騒ぎに
バーキンのことは三十数年前にも一度インタビューしています。ご存じのように彼女は事実婚を含め3回結婚しました。最初はイギリス人で「007」シリーズの作曲家ジョン・バリーと。この時は長女ケイトを産んでいます。その後すぐにフランス人の作曲家、歌手、俳優、映画監督のセルジュ・ゲンズブールと出会い、次女シャルロットが生まれました。次に映画監督ジャック・ドワイヨンと結婚して、三女ルーがいます。
インタビューしたのは1989年。三女のルーも連れて来日したバーキンが日本で初のコンサートを開きました。
バーキンが世界的にも大きな話題になったのは今の日本風にいえば、ちょいワル芸術家のセルジュ・ゲンズブールと付き合っていた時です。ゲンズブールがその前に付き合っていたブリジット・バルドー(BB=ベベ)のために「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」を作ったのですが、ベベとは破局し、ゲンズブールと、パートナーになったバーキンがデュエットして69年にリリースされました。2人がベッドでなまめかしく喘ぐような声で歌い、物議を醸したあの曲です。聴けば、誰でもすぐにわかると思います。
76年には同名のタイトルで映画化もされたのですが、ゲイの男と愛を交わすきわどいシーンがあるセンセーショナルなもので、時代のアイコンとなったのがバーキンです。
三十数年前、バーキンがやってきた時に印象に残っているのは娘たちの話です。旅行すると空港の税関で大騒ぎになるというのです。ドワイヨンには連れ子のローラもいて、ケイトはバリー姓、シャルロットはゲンズブール姓、ローラとルーはドワイヨン姓なので、係員に「どこが親子だ、嘘をつくな」と信じてもらえない。「子供たちに『早くママと呼びなさい』と叫んでいた」と語っていました。
この時のバーキンは猫っ毛のセミロングヘアをひっつめ、一つに束ねていました。しかも洗いざらしのUネックのセーターにコーデュロイのパンツ姿。ベルト代わりのスカーフでウエストを絞っていた。つまり10年の来日の時も21年前とまったく変わっていなかった。違っていたのは前よりもっとノーメークになっていたことです。
ステージに上がった時は、使い込んだ黒のバーキンを持っていました。バーキンは普段はバッグに大根を入れたりして、まったく飾らない人です。それは気取らず、反体制のスタンスを取って、アンチを標榜していた姿勢の表れでしょうか。バーキンは3.11の東日本大震災の時にも来日して被災地を訪れています。
ちなみに、私はバーキンのバッグを持っていません。とにかく重い。たくさん荷物を持って歩く方なのでバーキンは無理。持つのはアニエスベーですね(笑)。
ジュリエット・ビノシュの元夫で俳優のブノワ・マジメルとのツーショット
もう一枚は23年の東京国際映画祭で来日したジュリエット・ビノシュの元夫で俳優のブノワ・マジメルとのツーショットです。
この時は、ビノシュと共演した「ポトフ 美食家と料理人」も上映されました。ブノワにビノシュのことを聞いたのですが、向こうの人は別れた人のことを絶対に悪く言わないですね。「彼女は素晴らしい女性、偉大な女優です」とマジメな顔で語っていました。
彼のデビュー作を配給していたので、「あなたは日本のお母さんだよ」と言ってハグをしてくれたのですが、フランス人はハグがとっても上手。彼は胸板が厚くて、お腹がちょっと出てたような(笑)。
フランスの映画を題材に、これまで見てきた人たちの恋愛について書いた「フランスの男と女は、歳をとるほど恋をする」(有隣堂)を出しました。恋愛にはもう年だからというのはあり得ない。恋愛は自由。フランス映画はほぼほぼすべてが恋愛映画です。もっとフランス映画も見てほしいという思いも込めました。
(聞き手=峯田淳)
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