「時代に挑んだ男」加納典明(60)「一番使ったカメラは…。そのとき、『こいつ』と棚から掴んだものが一番なんだよ」
【増田俊也 口述クロニクル】
作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。第1弾は写真家の加納典明氏です。
◇ ◇ ◇
増田「じゃあ、例えば今、週刊プレイボーイやFRIDAYが毎週女性を撮るシリーズを典明さんのセレクトでと依頼があったらやりたいですか」
加納「やりたいね。ただの可愛い、ただの美しいというよりは、やはりなんか人として良くも悪くも生きることへの愛を持っているというか、そういう現実を持ってる子を撮ってみたい」
増田「つい最近、レースクイーンを撮影されたそうですね」
加納「湊川えりかね」
増田「彼女も問題を起こした子ですね」
加納「そうだね。撮影も面白かったよ」
増田「いまは電子カメラを使ってるんですか」
加納「そうですね。電子カメラに切り替え始めた頃まではいろいろ使ってましたよ。シノゴ(4×5)のフィルムカメラもあったし、そのたびごとにあらゆるカメラを使ったよ。ハッセルブラッド*。 キヤノン。 ニコン。ミノルタ。ライカ。ローライフレックス。コンタックス。あとジナーとかリンホフとか」
※ハッセルブラッド:スウェーデンの世界的高級カメラメーカー。携帯できる小型のレンズ交換式カメラの開発で有名。第2次世界大戦のときに撃墜したドイツ航空機にあったカメラを参考に製作したのが大きな転機となった。
増田「リンホフっていうのはどこのカメラですか?」
「スマホで撮った写真展は十分いける」
加納「ドイツ」
増田「ジナーはスイスでしたか」
加納「そう。スイス製。ジナーもリンホフも俺は好きだよ。世界中のあらゆるカメラが事務所にずらりと並んでたよ」
増田「それは壮観でしょうね。みんなが知りたいのは典明さんのようなトップ写真家が、どんなカメラを使っているかということだと思うんですよ」
加納「あらゆるカメラを使うね。そのたびごとに。いま考えてるのはスマホの写真展ってやってみたいなと」
増田「iPhoneとか?」
加納「そう。スマホだけで撮った写真展をやりたい」
増田「スマホで撮影した写真を見て、プロから見てもこれは使えるっていうレベルになってますか」
加納「もう十分いけますね」
増田「そうですか」
加納「スマホ特有の撮り方もあるだろうから。それを撮りながら見つけていきたい。近く挑戦してみたいね、どこかの雑誌での掲載も含めて」
増田「これまで一番仕事で使ったメインのカメラというと」
加納「ハッセルブラッドだね。スウェーデンの」
増田「ほとんどがハッセルブラッドですか」
加納「サイズが6×6(ロクロク)というやつ。フィルムでいう6センチ×6センチ。ただ、俺の場合、いろんなものを使い分けてる。頻度でいくとハッセルブラッド」
増田「その次は?」
加納「キヤノン、ライカの順だね。シルクロード行ったときはキヤノンだった」
増田「仏像とか撮ったときですね」
加納「そう。あのときはキヤノン」
増田「どうしてキヤノンだったんですか」
加納「あのときはフットワーク優先だった」
増田「選ぶ基準は?」
加納「その時の雰囲気とか動きが欲しいとか、そういうことによってカメラのチョイスが変わっていく。そのとき棚を見て『こいつを持っていこう』とつかんだものが一番なんだよ」
(第61回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。
(増田俊也/小説家)
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