【エディントンへようこそ】コロナ騒動で現代アメリカの病理を描いた問題作

更新日:2025-12-13 17:03
投稿日:2025-12-13 17:00

【孤独のキネマ】

 エディントンへようこそ

  ◇  ◇  ◇

 原題は「EDDINGTON」。日本の関係者は「エディントンへようこそ」という邦題を命名した。本作は新型コロナで右往左往する田舎町が舞台。ブラックジョークなストーリーゆえ「ようこそ」を追加したほうが分かりやすい。米国の病理体質を抉り出した問題作だ。監督は「ミッドサマー」(2019年)などのアリ・アスターである。

 2020年、ニューメキシコの小さな町エディントンはコロナ禍でロックダウン。息苦しい生活の中で住民の不満は爆発寸前だ。保安官のジョー(ホアキン・フェニックス)は、IT企業誘致で町を救おうとする市長テッド(ペドロ・パスカル)と「マスクをする、しない」の小競り合いで対立する。

 反対派の意見に耳を貸さないテッドをジョーは嫌っていた。また自分の愛妻ルイーズ(エマ・ストーン)がテッドの元恋人なのも気に食わない。ルイーズは心の病で引きこもり、カルト集団を率いるヴァーノン(オースティン・バトラー)の動画配信を見ては陰謀論にハマっている。

 仕事でも自宅でも居場所のないジョーはビジョンもないまま「俺が市長になる!」と市長選に立候補。人通りのない道で車を走らせながら上辺だけの演説を繰り返し、テッドとさらに対立する。両者の争いの火は周囲に広がり、SNSはフェイクニュースと憎悪で大炎上。猜疑心が浸透した町で分断と小競り合いが起きるのだった……。

 片やIT企業のデータセンター誘致に熱心な現役の市長。片や市長に敵意を抱いている現役の保安官。この2人が市長選挙で対立するのが物語の中心軸だ。アスター監督は「この映画を無理やりに要約するとしたら、小さな町にデータセンターが建設される物語だ」と述べているが、それほど単純ではない。現代社会への皮肉をこめた風刺と考えたほうがピンとくる。

 マスク嫌いのジョーはドナルド・トランプを想起させる。実際ジョーは劇中で「ディープステート」と口走っている。射撃が好きで、自宅で仮眠するときもピストルを腰から外さず、物音に反応して銃を構える。このあたりはトランプの登場によって活発化したミリシアをイメージさせる。

 一方、市長のテッドはIT企業に希望を見出だす。IT企業は鉄鋼などのラストベルトを支持層とするトランプの対極に位置する。つまり本作は「トランプ派vs反トランプ派」が暗喩されていると考えていい。

 ここに黒人の市民が警官に殺害されたジョージ・フロイド事件(20年5月)が加わり、若者たちがデモを実施。人々はウイルスの恐怖の中で「マスクをしろ」と同調圧力を強める。こうした動きが人心の分断となってついにはアンティファまでもが登場。意表を突いた銃撃戦になだれ込むのだ。

現代社会の縮図

 注目すべき点はいくつもあるが、ここではヴァーノンの存在を挙げておきたい。この男は陰謀論を世間に広め、ルイーズらを洗脳する。新型コロナという疫病から怪しげな男が飛び出して信者を獲得したわけだ。

 日本でも同様の事件が起きた。神真都Q(やまときゅー)という団体が「反ワクチン」を掲げて活動。22年4月、ワクチン接種会場にメンバー4人が侵入して逮捕された。この神真都Qのようなワクチン有害説を主張する連中がカルトな政治団体を作り、人々の不安をてこに大きく成長したことはご存知のとおりだ。

 人間は国家から何かを強制されたとき「背後に自分たちが知らされていない陰謀が渦巻いている」と考えたがるもの。コロナが終息した現代の日本でも「ワクチンによって多くの人が殺された」との言説を広める動きは続き、彼らを崇める信者は減らない。このヴァーノンの存在はコロナ騒動のいびつな面を端的に表現した。

 主演のホアキン・フェニックスはこう語っている。

「観客がこの映画を観て、今の世界を理解してくれることを願っている」

 エディントンという架空の町は現代社会の縮図なのである。

(配給:ハピネットファントム・スタジオ/TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中)

(文=森田健司)

エンタメ 新着一覧


由美かおるさんに「全編関西弁でいきません?」と提案すると頭を下げられて…
【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#270  由美かおるさん   ◇  ◇  ◇  元祖「美魔女」といえば由美かおる...
2025-12-13 17:03 エンタメ
手越祐也は小6で12時間の猛勉強の末に明大中野中学に合格 =大学は早大人間科学部eスクール
【続続・あの有名人の意外な学歴】#3  手越祐也   ◇  ◇  ◇ 「ヤンチャなイメージが先行している手越祐也(...
2025-12-13 17:03 エンタメ
国分太一の活動再開とTOKIO復活のための起死回生の一発
【城下尊之 芸能界ぶっちゃけトーク】  元TOKIOの国分太一(51)のコンプライアンス違反による日本テレビの番組降板...
2025-12-13 17:03 エンタメ
羽鳥慎一アナが「好きな男性アナランキング2025」首位陥落で3位に…1強時代からピークアウトの業界評
 オリコンニュースによる「好きな男性アナウンサーランキング2025」が12月12日発表され、1位になったTBSの南波雅俊...
2025-12-13 17:03 エンタメ
やす子の毒舌芸またもや炎上のナゼ…「だからデビューできない」執拗な“イジり”に猪狩蒼弥のファン激怒
 お笑い芸人やす子(27)の毒舌芸が、またもや物議を醸している。12月8日放送の「呼び出し先生タナカ」(フジテレビ系)で...
2025-12-13 17:03 エンタメ
横浜流星は自作の小説でプロデューサー業を宣言…佐藤健や岡田准一は? 俳優が続々と進出する“裏方業”の成否
 俳優の横浜流星(29)が12月11日に都内で行われた「2025 小学館DIMEトレンド大賞」に出席し、「20代も今年最...
2025-12-13 17:03 エンタメ
渡部建「多目的トイレ不倫」謝罪会見から5年でも続く「許してもらえないキャラ」…脱皮のタイミングは佐々木希が握る
 2025年も残すところあとわずか。そんな中、騒動から5年以上たっても“許してもらえない芸人”がいる。アンジャッシュの渡...
2025-12-13 17:03 エンタメ
「ばけばけ」吉沢亮、“国宝”俳優の本領発揮。錦織の“一瞬で見せる表情”が素晴らしかった
 リヨ(北香那)の恋が終わった。翌朝、出勤するトキ(髙石あかり)の前にリヨが今までの応援のお礼に現れる。お礼のついでに発...
桧山珠美 2025-12-13 11:09 エンタメ
永野芽郁と広瀬すずが広域通信制の知名度を押し上げた
【続続・あの有名人の意外な学歴】#2  永野芽郁&広瀬すず   ◇  ◇  ◇  文部科学省の調査によると現在、通...
2025-12-12 17:03 エンタメ
趣里の好感度にもいよいよ影響が…パスタ店開業の三山凌輝は「物言えば唇寒し」の悪循環
 その言動を《大丈夫かな?》と不安視する人が多いようだ。元BE:FIRSTの三山凌輝(26)の話。妻は女優の趣里(35=...
2025-12-12 17:03 エンタメ
2025年のヒロイン今田美桜&河合優実の「あんぱん」人気コンビに暗雲…来年の活躍危惧の見通しも
 2025年、日本中を沸かせたNHK朝ドラ「あんぱん」。ドラマを牽引した2人の若き女優に、相次いで暗雲が立ち込めている。...
2025-12-12 17:03 エンタメ
「ばけばけ」“ただの通りすがり”に落胆したのは錦織(吉沢亮)の方? 複雑な胸の内は
 ヘブン(トミー・バストウ)が自分の過去をリヨ(北香那)や錦織(吉沢亮)に語っていた頃、トキ(髙石あかり)は胸のモヤモヤ...
桧山珠美 2025-12-11 17:12 エンタメ
国分太一“コンプライアンス違反疑惑”で日テレが情報開示を拒むワケ…背景にある「ジャニオタ暴走」の恐怖
 日本テレビの対応に疑問を持つ人は、“ジャニオタの暴走”を忘れているのではないか。11月26日の記者会見で、元TOKIO...
2025-12-11 17:03 エンタメ
女優業邁進の田中みな実がバラエティー全降板のワケ…今も独身の理由とウワサの亀梨和也との関連
 元TBSアナウンサーのタレント田中みな実(39)が自らのキャリアについて語り、耳目を集めている。  田中は2014年...
2025-12-11 17:03 エンタメ
波瑠「フェイクマミー」で33歳俳優が魅せた“怪演” 評価爆上がりで《ジェネリック綾野剛》も返上
 12月12日に最終回を迎える、波瑠(34=写真)と川栄李奈(30)がダブル主演の連ドラ「フェイクマミー」(TBS系)。...
2025-12-11 17:03 エンタメ
松岡昌宏も日テレに"反撃"…すでに元TOKIO不在の『ザ!鉄腕!DASH!!』がそれでも番組を打ち切れなかった事情
 元TOKIOの国分太一(51)が、日本テレビからコンプライアンス違反を理由に看板番組「ザ!鉄腕!DASH‼」を突然降板...
2025-12-11 17:03 エンタメ