気まずい食事会でふと浮かんだ笑顔
美奈ママには12歳の娘がいた。「今度、娘に会って」と言われ、自宅マンションで三人で食事をすることになった。
「娘さんは、最初から僕を警戒していました。目も合わせないし、質問しても短い返事だけ。美奈もスナックで見せる笑顔とは別人で、必要以上に『ちゃんと挨拶しなさい』『失礼でしょ』と娘を叱る。
その様子が、妙に芝居がかって見えたんです」
和文さんは、母娘の空気に神経をすり減らしたという。娘は終始無表情で、美奈ママは「この人はいい人でしょ」と言わんばかりに視線を送ってくる。
「まるで、僕が値踏みされているような気がして…食事の味も分かりませんでした。そのとき、ふと麗子の笑顔が浮かんだんです」
久しぶりに訪れた銀座で、麗子さんは以前にも増して輝いて見えた。
高級シャンパンを入れ、勢いで余計なひとことを口にしてしまった。
「『地元のスナックのママを落とした。あいつは俺に惚れてる』って自慢したんです。麗子に嫉妬させたかった…すると、一瞬だけ真顔になって、『あら、よかったですね。おめでとうございます』と静かに言いました。その瞬間、まだ麗子が好きだと確信しました」
「娘を好きにしていい」信じられない噂
しかしその後、地元で思いがけない噂を耳にする。
美奈ママが複数の男性客に結婚を迫っているというのだ。
「『結婚してくれたら、娘を好きにしていいから』と言われた、という話まで出てきて…真実かどうかは分かりません。ただ、その噂を聞いた瞬間、一気に冷めました」
麗子さんに打ち明けると、「災難でしたね。今の奥さまを大事にしてください」と静かに言われたという。
「事実だとすれば、美奈はシングルマザーでの子育てが相当きつくなっていたんでしょう。
だから、母娘を養ってくれる金のある男を必死で探していた。でも、『娘を好きにしていいから』なんて、母親が本当に言うでしょうか。どうか、それだけは嘘であってほしい」
現在、和文さんは長年支えてくれた妻・由紀子さんを大切にし、医師としての仕事にまい進している。
――人の数だけ恋愛の形がある。だが、欲に溺れた先に待つのは、必ずしも幸福ではない。和文さんは、遠回りの末にそれを学んだのだった。
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