消化しきれない悲しさを抱えていても…
――では、本作の津村記久子先生の原作は読みましたか。
佐久間 出演のお話しをいただいたときに読みましたが、もっと早く出会いたい作品だと思いました。日常生活で経験はしていますが、言葉にできない感情や、見過ごしていた自分のモヤモヤした感情が散りばめられている、素晴らしい作品でした。すごく読みやすい文体でページをめくる指が止まらないのですが、気づいたらとんでもないところに連れて行かれてしまっていた、という読後感なんです。鋭い視点で日常を捉えていて、鳥肌が立つ瞬間がたくさんありました。
奈緒 私も出演のお話しをいただいたときに読みました。私が演じたイノギさん(猪乃木楠子)は過去に痛々しい経験をしています。由衣ちゃんが演じたホリガイさん(堀貝佐世)は自分自身に何かがあったわけではないですが、あるニュースを目にしてから、取り憑かれたように他者の痛みを自分ごととして抱えていきます。そして自分に自信がなく、何もできない自分を肯定できないんです。
さまざまな物語で登場人物の過去にスポットライトを当てるケースはあると思いますが、実は周囲には大きな声では言えないけれど、自分の中で消化しきれていない悲しさを抱えている人はたくさんいるのでは、と原作を読んで感じました。ホリガイさんのような人はきっと、気づかなくても世の中に潜んでいるのではないかと。だから、ホリガイさんやイノギさんのような人たちに、「この“夜”を超えてほしい」という、強いメッセージを受け取った気がします。
佐久間 寝る前に気分が落ち込んだときにこの小説を思い出すと、一度寝て、明日、朝日を浴びてから考え直そうと思えるというか。そうしたら、まだ自分が出会っていない“夜”を一緒に越えてくれる人と出会えるかもしれないと、明日への力を奮い立たせてくれる原作なんです。
スタントなしで挑んだ体当たりシーン
――作中では佐久間さん演じるホリガイが、体を張ってベランダ越しに下階に移動するシーンが印象的でした。あれは、スタントマンさんが?
佐久間 いいえ。私自身が演じています。もちろんワイヤーをつけて安全第一で撮影しましたが、私は、高いところが大好きなので怖くなかったです。シリアスなシーンなので楽しかったというと語弊がありますが、集中力を発揮できました。
――奈緒さんはイノギを演じる際、ご自身が特技とするイラストを描くシーンがありますよね。
奈緒 あれはもともと下絵があって、それを見ながら描きました。実際に色を塗りながら撮影したのですが、楽しくて没頭してしまいました。
学食でサバの味噌煮定食を…
――作品にちなんだ質問を。演じたホリガイとイノギは女子大生ですが、お2人は大学生活を経験していませんよね。大学生を体験できるならしてみてかったことは。
佐久間 学食でのランチです。ずっと興味があって撮影中、お邪魔させていただきました。たしか食べたのはサバの味噌煮定食で、奈緒ちゃんに、「ホリガイみたいだよね」とメッセージと写真を送ったんです。夢が1つ叶いました。
奈緒 サバの味噌煮定食って渋いですよね(笑)。私は大学生活に憧れて、高校を卒業してからよく、友達が通う大学へ遊びに行っていました。仲良しの友達が入っているサークルにも参加したことがあったので、イノギさんを演じたときは当時の記憶がよみがえりました。
後編では、お2人のさらなるプライベートも深堀りします。
※『君は永遠にそいつらより若い』(吉野竜平監督)9月17日(金)より全国ロードショー。
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