鈴木おさむ氏の小説で描かれる「公開処刑」の“リアル”描写
その、鷲津が時折見せるやや常軌を逸脱した思考回路や行為、怒りを押し殺し座り切った眼差し。それは我々が本来、草彅に対して抱いてきた朗らかな“いいひと”とは違う。
それを彼の部下である蛯沢眞人(杉野遥亮・27)も「鷲津さん、時々急に表情変わりますよね。優しい人なのか怖い人なのか……」と表現している。
草彅は97年、彼自身の素をあぶりだしたようなドラマ「いいひと。」(カンテレ・フジ)で、俳優としてブレーク。以来、彼の“いいひと”のイメージはこの26年、そのまま変わっていない。
それどころか、昨年12月9日発売の「文藝春秋」2023年1月号(文藝春秋)および「文藝春秋 電子版」(同8日公開)に掲載された鈴木おさむ氏著の「小説『20160118』」では、彼の底抜けの“いいひと”ぶりがあらためて、明らかになった。
「スマスマ」の放送作家を務めていた鈴木氏の「小説」によると、15年末にSMAPの解散騒動が出たのち、一度はSMAPは解散しないことを決め、それを「スマスマ」の生放送で謝罪した。スーツ姿のSMAP5人のその姿は「公開処刑」とも呼ばれることになる。
「謝る機会を木村君が作ってくれて…」
草彅はその中で、「今回、ジャニーさんに謝る機会を木村君が作ってくれて、今、僕らはここに立ててます」という言葉を自らの口でファンに、視聴者に伝えた。
ほぼノンフィクションと思われるこの小説によると、鈴木氏はもっとマイルドに円満に生放送を収めようとしたが、“ジャニーズの女帝”によって台本は書き換えられ、前述のセリフが加えられたという。
最も酷なセリフを草彅が発言したワケ
SMAPが4対1の構図であることも、どちらが上の立場にあることも分かってしまう最も酷なこのセリフを、4人のうちなぜ草彅に言わせることになったかについて、鈴木氏は「彼の優しさに甘えるしかないと思った」と表現している。
かのセリフを口にするのは、草彅にとって屈辱的なことだったに違いないが、番組に関わる多くの人々が事務所の思惑に振り回される中、無事その日を終えるために、悔しさを噛み殺し、嫌な役割を引き受けたのだろう。
「罠の戦争」第1話で復讐を心に決めた鷲津は、
「力のあるやつはどんな要求でも通るのか。弱いやつはどんなことでも飲み込めっていうのか。ふざけるな!」
勧善懲悪ドラマを超越したカタルシス
と鬼気迫る表情で、体を震わせ、りんごを握りつぶし怒りを露わにした。このセリフと、ここからはじまる復讐劇は、2016年以来、草彅が味わってきたであろう屈辱と、そこからの復活劇と重なって見えて、ただの勧善懲悪ドラマを超越したカタルシスへと昇華するのではないか。ともかく、「罠の戦争」の鷲津が見せる「“いいひと”とは真逆の顔」は、草彅の役者としての力量を存分に示している。
「辞めジャニ」の希望の光に…
こうした草彅を筆頭とした「辞めジャニ」である新しい地図の躍進は、昨今増えている、彼らに続いた「辞めジャニ」にも希望の光となっているのではないだろうか。
たとえば、元NEWSで20年にジャニーズ事務所を退所した山下智久(37)は、目指すところが海外進出という違いはあれど、草彅らと同様にその人気・実力にはそぐわない干され方をした1人だ。ただ、ハリウッド映画や、Netflix配信ドラマなどでの功績を着実に残してきた。
21年放送の「ドラゴン桜」(TBS系)続編では、05年放送の前作の主な生徒役が続々と出演する中で、山下だけが声のみの出演にとどまった。しかし、草彅同様、地上波の中でもまずはNHKで、主演ドラマ「正直不動産」を大成功に導く。
NHKはファンや視聴者の圧倒的な反響に答え、2度も同作放送期間内に再放送を組んだ。ここまでくれば、山下が草彅のように民放ドラマに復活できる日も遠くないと感じられる。
キンプリの平野、岸、神宮寺も…
こうした一連の業界での動きが、今年5月22日にKing & Princeを脱退し、「辞めジャニ」になることが現状確定している平野紫耀(25、1月29日で26歳に)、岸優太(27)、神宮寺勇太(25)の退所後の露出についても、徐々に緩和に向かわせるのではないだろうか。
まだまだ多くのしがらみはあるだろうが、草彅が新たな道を切り開いていることは間違いない。
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