保育園で暴言を繰り返す 5歳の男の子にとるべき行動とは?

小阪有花 子どもの心スペシャリスト
更新日:2019-05-29 16:57
投稿日:2019-05-29 06:00
 こんにちは、チャイルドカウンセラーの小阪有花です。今回は、私が保育園に勤めていた時に出会った、“暴言”を繰り返す5歳の男の子のお話をします。この子は最終的に素直に気持ちを話してくれるようになりました。どうして変わったと思いますか?

「みんな死ね!」を連発する男の子

 ある時、保育園に5歳の男の子が入園してきました。その子はお世辞にも口が良いとは言えず、それどころか、思い通りにならないと「ぶっ殺してやる!」「みんな死ね!」などの罵詈雑言を平気で口にする子でした。

 初めて聞いた時は衝撃で、まさか5歳の子からそんな言葉が……と驚いたものです。周りの保育士さんたちは「そんな言葉を使わないの!」と注意しますが、一向に聞いてくれる気配はありませんでした。

 私はこの子を何とかしたいと思い、「私に任せてほしい」と他の先生たちにお願いしました。これが、その子とのコミュニケーションの始まりでした。

よく観察することから始めた

 当初、男の子は悪口を言い続けていました。でも、私は最初から注意はしませんでした。そのかわりに「なぜ怒ってるの?」と聞いてみると、「むかつくから!」の一点張りです。

「どうして?」と聞いても梨のつぶて。「むかつくから!」と言うばかりで、男の子は自分のいらだちの理由を語ろうとも、考えようともしませんでした。

 私は「そっか、〇〇くんは今は怒りんぼの時なんだね」と言って、その場は会話を終わらせました。

 まずは男の子の観察を続けることにしたのです。

2人の時間を共有することで…

 後日、保育園に必要なものを買い出しに行く際、男の子に「一緒にいく?」と声をかけると、「うん、一緒に行く」とついてきました。

 手をつないで近くのスーパーに行くだけでしたが、2人だけの時間をもらえたのがうれしかったのか、いつもより表情は明るくなっていました。

 他愛もない会話を楽しみつつ、帰り道に「ねぇねぇ、〇〇くんはよく『ぶっ殺してやる!』とか言うけど、怒るのが好きなのかな?」と、試しに聞いてみました。

 男の子は案の定、「好きじゃない……」と答えます。

 そうして、理解の姿勢を示しながら、次のような提案をしてみたのです。

「やっぱりそうだったんだね。〇〇くんは怒ってる時よりも、今みたいにお話ししてる時の方が楽しそうだから、おかしいと思ってたんだ!

 先生は、怒らないでとは言わないけど、でも、怒ってるところをたくさん見ると、怒りたいのかな~?って勘違いしちゃうんだ。それって、〇〇くんからしたら、うれしくないよね?

 だからこれからは、嫌にならない方法や楽しくなる方法を一緒に考えようよ」

 男の子はまた「わかったよ……」とだけ答えました。本当に理解してもらえたのかどうかはわかりませんが、その場はそれ以上、深追いはしませんでした。

グッと堪えて…注意する前にすべきこと

 それ以来、男の子が暴言を吐くたびに「どうしたの?怒りたいの?」と聞くことにしました。

 すると「違うよ!」と言うようになったので、「じゃあ、何か嫌なことあった?」と聞くと、男の子は「△△くんがボクの使いたかったおもちゃを先に使った!」などと理由を言ってくれるようになりました。

 そこで、解決策を提示した後に「先生は、〇〇くんのお話をちゃんと聞きたいから、怒る前に何が嫌だったかをちゃんと伝えてね。そうしたら、すぐ一緒に考えられるからね」

 男の子は「わかったよ!」と納得し、再び機嫌よく遊び始めました。

1カ月もしないうちに起きた変化

 私がこの間にやったことは、子どもが暴言を吐いても否定せず、気持ちを理解しようとする姿勢を崩さなかったこと。そして、こういう時どうしたらいいかを提案し続けたことです。

 そうしているうちに、いつしか男の子から悪い言葉は出てこなくなりました。そのかわり、人一倍、甘えん坊の男の子になったのです。

 なにか嫌なことがあっても、すぐに「ぶっ殺す!」ではなく、「先生、◇◇くんがボクのおもちゃを取るから嫌だよー!」と、素直に気持ちを伝えられるようになったんです。

 男の子はそれから、自分で考える力も身につけていきました。

 保育園に入ってきた時は、驚くほど暴言を吐く子でしたが、変化の早さに私の方も驚きました。こちらが本気で向きあおうとすると、子どもはキャッチしてくれる。子どもは本当に素直です。

そもそも、なぜ暴言を吐くように?

 後日わかった話ですが、男の子の家庭環境は少し複雑で、普段はおばあちゃんに預けられ、両親とは会いたくてもなかなか会えない環境に置かれていました。

 両親に会えない寂しさをどう発散させて良いのかわからず、言葉が荒くなっていたのだと思います。

 子どもの世話をしていると、時に耳をふさぎたくなるほどの暴言を吐かれ、叱りたくなってしまうこともあります。

 でも、子どもが暴言を吐いてしまう背景には、寂しさや孤独感が隠れていたりするのです。それは、子どものなりのSOSなんです。

もし、暴言をやめない子どもに悩んでいるなら、注意や叱責をする前に一度立ち止まり、その子の背景を気にしてあげてください。

 もっと僕をみてほしい!かまってほしい!――。寂しい時こそ、強がってしまうのは大人も同じ。子どもの心の叫びに、どうか耳を傾けてあげてください。

小阪有花
記事一覧
子どもの心スペシャリスト
保育コンサルタント。アイドル時代の旧芸名は小阪由佳。「ミスマガジン2004」グランプリで芸能界デビュー。09年に引退後、保育園の先生を経て現職に。チャイルドカウンセラー、幼児食インストラクター、ベビーシッター、家族療法カウンセラーなどの資格を持つ。
XInstagram

ライフスタイル 新着一覧


#2「普通の女」に負けた美人は怨念まみれのSNSがバズり快感を覚える
【#1のあらすじ】  阿佐ヶ谷のスナックに勤務している紘子は、役者を目指しながらもくすぶっている日々。そんな彼女の...
「鉛筆なめなめ」「セクハラはやめて」悲しきおじさんビジネス用語3選
 会社に勤めている人なら、50代以上のおじさんたちが「おじさんビジネス用語」を使っているのを聞いたことがあるかもしれませ...
経験は「ナマモノ」…感情も感度も“錆びた大人”になっていませんか
 人生において経験は重要ですよね。これから先の未来や、あるいは後輩たちを助けられるかもしれません。  だけど昔の経験に...
あなたにとっての「過去」はいつ? 過去を閉じ込めた空間で
 過去という言葉の意味が広すぎて、思い浮かべるイメージがまったく違うと気づいた。  ある人は自分が小さかった頃を、...
奢り奢られ問題…リュウジ氏にもう港区くるなよ?の反論、私達が学ぶこと
 ネットを大いに騒がせた「奢り奢られ問題」。料理研究家のリュウジ氏のSNS投稿が火種となり、多くの意見が寄せられました。...
15キロ太ったからつまんないの? “サイズ44”に教えられた自分の本音
 2度の出産と加齢と腰のヘルニアを経て、5年をかけて15キロ太りました。実はそれについては人が思うほどは気にしていない…...
5年に1度の逸材にゃ!ノーブルすぎる“たまたま”に思わず合掌
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「出世したくない人」激増のナゼ 共通する特徴と4つの理由に妙に納得…
 令和の今、社会人の中でも「出世したくない」と考える人が非常に増えているようです。少し前まではどうにかして出世してやろう...
ハロウィンの新顔!小粒な「ソラナムパンプキン」は枝にぶら~んぶら~ん
 まもなくハロウィン。猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋さんに、今年も大きなパンプキンが店頭を占拠する季節がやってま...
26歳ギャラ飲み女子の貯金額は3000万円!昼はOL、非港区系の堅実生活
 経営者や著名人、人気のインフルエンサーも利用する「ギャラ飲み」なるサービスって知っていますか? 東京都内のみならず、全...
いくつになっても、誰かに褒められるのはやっぱりうれしい
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
出産を機に中途半端なキャリアに…今にマッチした働き方は?
 先日X(旧Twitter)で、米ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏がノーベル経済学賞を受賞したニュースを...
シンデレラ城より“我が城”が好き!LINEが示すめんどくさがりやの実態
 めんどくさがりやの人は、できるだけ身動きしないで済むように、いろいろな方法を駆使し、少しでも楽な生活を追求していますよ...
水しぶきの向こうに見えた太陽 長く暑かった季節を偲んで
 次の季節に向かうとき、少し寂しくなるのはなぜだろう。  高3の夏の終わりに自分の手でプールのカギを閉めたときとは...
パーフェクト“たまたま”の精悍&クールな眼差しに痺れちゃう
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
発達障害グレーゾーンの長男が憎い…ある一言で私の何かがプツンと切れた
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...