更新日:2023-06-30 06:00
投稿日:2023-06-30 06:00

今の私には「肋間」にしか聞こえない

「ロッカン! ロッカン!」という歌に合わせて、シャカリキに踊っている。その「ロッカン」とは「第六感」のことだ。

 第六感が冴え渡るハッピーハイテンションな歌なのだが、今の私には、ロッカンが肋間(ろっかん)にしか聞こえない。ローテンションでアンハッピー。肋間神経痛がしんどい。

 ロッカン! 痛ぇ……!

“片足上げ超絶ブリッジ”までの道のり

 そのストリップ演目は、洋邦楽を取り混ぜた5曲構成だ。件の歌は2曲目なので、まだ気力と体力で痛みをカバーできるが、5曲目バラードの終盤、つまり15分以上踊ったあと、もう精も根も尽き果てるタイミングで、大技を決める。

 ヒールブーツでブリッジをしたまま片足を天高く突き上げるのだ。グーッと上体を反らせた瞬間、思わず「ウーッ」とうめき声が漏れる。痛すぎだろ。肋骨が身体の外に飛び出そうだ。

 もうこれ以上、踊れない。意を決して近所の整形外科に駆け込み、肋骨が折れているかも知れない、と訴えた。

 冷静な医師が「痛かったら教えてください」と、上から順に骨を押していく。1本目、2本目、3本目……、アーッ! 黒ひげ危機一髪のごとく飛び上がった。

 幸いにも、人生で骨を折ったことは一度もないが、なるほど、これがそれなのか!

人体標本のようにきれいな肋骨

 しかしレントゲンを撮ったら、信じがたい結果。素人目にもわかるほど、人体標本のようにきれいな肋骨が映っている。骨に異常はない。ならこの痛みは何だ。

 年下の男友達の話を思い出す。ある日突然、足首が激しく痛み、絶対に骨折している! と整形外科に駆け込んだら、まさかの通風だった、というオチ。

好物はイクラ、明太子、あん肝、白子

 通風は骨折より痛いと聞くが、まさか……。好物は、イクラ、明太子、あん肝、白子。身に覚えがありすぎる。

 通風を覚悟して、医師の質問に答えていくと、骨折でも痛風でもなく、おそらく「肋間神経痛」だろう、という診断だった。ロッカンロッカン……。

 これといった治療法はなく、ただの神経痛なので、痛みが引くのを待つしかないようだ。

 処方された痛み止めを服用しているが、立ち上がっても、寝転んでも、鼻をかんでも痛い。

高級下着に“肌色腹巻き”は合わない

 丸椅子から立ち上がるだけでも大騒ぎする私に、医師はコルセットを勧めたが、ベージュ色のそれは分厚い腹巻きのようで、とてもじゃないが、サルート(ワコールの高級下着)には合わない。

 ステージの踊り子は、コルセットどころか、湿布1枚だって隠すことはできないのだ。

 過去に何度か、湿布を貼ったままステージに出てしまったことがあるが、そういう時、お客の記憶に残るのは、どんなに美しいドレスより、1枚の湿布なのである。

五十肩のシロさんと四十肩の踊り子

 これからきっと、いろんなところが痛んだり、動かなくなったりしていくのだろう。ずっと読み続けているコミック『きのう何食べた?』の最新刊では、主人公のシロさんが五十肩になって、ジャケットを羽織るのに難儀していた。

 ブリッジどころかブラジャーの着け外しすらできない、四十肩の踊り子なんて、残念すぎる。肉体に不調がない状態は、もう、当たり前ではないのだ。

 不調にならない身体作りに目覚めた私は、楽屋でのストレッチと筋トレに余念がない。

 最近のお気に入りは、こちらです。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


突然の御開帳! ありがたーい縞三毛猫君の激レア“たまたま”に歓喜
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
呼び声が届く距離感
 どこを見ているの?  私は、こっちだよ。
「病院まで車で送ろうか?」ご近所さんの親切が沁みる…。疲れた心に響く助け合いLINE3選
 人と人が助け合う場面を見ると、心がじんわりと温かくなりますよね。情報に溢れ、毎日バタバタと過ぎていく現代では、人間関係...
「妍を競う」は女同士のマウントとは限らない
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
「既読スルーは悲しい」と送ったら、LINEの返信を溜めてしまう人の意外な返事が…
 LINEを送っても未読のまま返信がないと「嫌われたのではないか?」と不安になりますが、LINEの返信を溜めてしまう人は...
マッサージありがとにゃん♡ 愛嬌たっぷりハチワレ君が“たまたま”をチラ見せ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
オラ東京さ行くだ! 住んでいる人しかわからない…田舎の嫌なところあるある6選
「都会暮らしはせわしなくて疲れた! 田舎に住みたい!」このように感じている都会住みの方々、多いのではないでしょうか。でも...
「SDGsな散歩」の楽しみ方。クリスマスリースや季節のスワッグ作りに役立つ“お宝”街路樹3種
 日中は暑くてエアコン、夜は軽く暖房をつける不思議な秋ですが、お散歩がグッと楽な気候になりました。今回は「お宝の横を素通...
「私は一応慶応卒」学歴マウント炸裂!ママ友から届いた地獄LINE6選
 子育て中の女性が避けて通れないのが「ママ友との付き合い」ですよね。中にはドン引きするようなマウント女や、辛辣な物言いを...
10年分のカネの流れが怪しい。会員数が集まり⼤喜びしたのもつかの間…
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
円満退職に必要な最低限のマナー6選、「立つ鳥跡を濁さず」は社会人として当たり前!
 終身雇用の時代は終わり、今では6割の社会人が転職経験ありだというデータも出ています。読者の皆さまのなかにも、「転職しよ...
更年期、それはある日突然に…45歳女の体が『倦怠感で満タン』になった
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まった老...
生理前を穏やかに過ごすご機嫌アロマ術【調香師が解説】タイプ別おすすめの香り・精油・香水は?
 女性の体は生理が近づくとホルモンのバランスが崩れ、精神的なイライラや落ち込みに加え、むくみや便秘、疲れやすさなど、PM...
兄弟姉妹なのになぜ不仲? 怒る前に知っておきたい原因5つと対応策3つ
 子育てをしていると、兄弟姉妹の不仲に悩む人が多いですよね。一体何が原因なのでしょうか? また、自身が親になっても兄弟姉...
思わず二度見!『バブ』新商品・MEGA級のボコボコ泡の実力は? 自宅の風呂がジャグジーになるのか
 話題のコスメや、広告でよく見かける化粧品や日用品。「webでよく見るあの商品、本当にイイの? 」「買ってみたいけれど、...
手のぬくもりとともに
 自然と手を合わせるときの気持ちって、  みんな、おんなじだよね。