彼のことを周囲は親しみとリスペクトの意を込めて、「すいかばか」と呼んでいる。
【午前5時】収穫作業
午前5時。ねじりハチマキで気合いを入れ、朝日が斜めに差す畑に向かう。
13年かけて作った土の効果が表れ、今年の畑はこれまでとは比べものにならないほど、蔦が伸び葉が生い茂っている。例年より大きな実も目立つ。
冷たかった空気が徐々に温まり、気が付けば汗をかいている。すいかに触れることで何かを感じ、考えているのだろう。難しい顔で黙々と繁った畑の中に鼻先まで埋め、収穫していく。
キャタピラ付きの運搬車で2往復、満載したすいかを運ぶ。
北杜市のふるさと納税の返礼品にも選ばれ、その出荷と常連からの依頼の発送に追われる。店で販売する分は、毎日朝採りが基本だ。
【午前10時】開店
午前10時の開店に合わせ、数組のお客がやって来る。東京や神奈川、埼玉方面のナンバーが目立つが静岡や岐阜などもちらほら。
「俺のすいかは、時間で食べる種類が決まってるんですよ!」
「はい! どうぞ、食べて!!」
試食コーナーのテーブルにお客が座ると、すいかばかの“エンジン”始動だ。
「ハイ、起きて歯を磨く前には、まず『夜明けのセレブ』を食べて。あっ! ちょっと待って! この音楽を聴きながら食べて欲しいから、始まってからね」
スピーカーから大音量で、由紀さおりの「夜明けのスキャット」が流れる。
「はい! どうぞ、食べて!!」
人は好き、すいかが死ぬほど好き
一体ここはどこなのかと思ってしまうが、8種類ものすいかの試食を終えたお客は販売コーナーでも、皆楽しげな顔だ。
価格は各種1kg550~600円。選んだすいかを秤にのせて決まる。たくさんのすいかが並ぶ前で、一組ずつ丁寧に会話し、好みのものを納得して買ってもらうのが基本方針だという。
会話を止めることなく、手は忙しく動き、選ばれたすいかに一玉ずつ自分のブランドのシールを貼り、手提げの紐をかける。
ほとんどのお客が「また来るね」と笑顔で帰っていく。無駄に時間をかけ過ぎる接客と言えなくもないが、それが「人は好き、すいかが死ぬほど好き」なすいかばかのやり方であり、目指すところだ。
客足が途切れる合間を見計らって、出荷する分を箱詰めする。やっぱり、自分でやらないと気が済まない。まさしくバカみたいに丁寧にシールを貼り、クッションを敷いた箱にそっと詰め込む。
へとへとになりながら一日中働き続ける。あきれるほどに時間と手間をかけることをいとわない。
【午後5時】再び畑に
午後5時閉店。再び畑に出ると「玉回し」という生(な)っているすいかにまんべんなく日に当たるよう、ひっくり返す作業を繰り返す。
「ちょっとここらで軽くひと雨欲しいなぁ。でも降りそうもないから水を撒くか」
軽トラに積んだ300リットルのタンクに水を溜めて畑に向かう。
「産地の大手農園のなかは土の中にパイプを埋設させてあって、バルブをひねれば、水が染みていくところもあるんですよ。でも自分は、水は葉っぱから吸わないと味が甘くならないと思うんですよ」
ホースで水を撒き、畑の中を歩き続ける。日が暮れても作業は続いていた。
「すいかばか」と検索するだけで…
ポータルサイトのマップやカーナビで「すいかばか」と検索するだけで、寿風土ファームの所在地が出てくる。本人にも理由はわからない。
白州の標高は東京スカイツリーの634mと同じ。夏も本番、同地へ足を向けてみてはどうだろう。
スカイツリーの高さで育まれた絶品すいかとバカな男に会いに。
「寿風土ファーム」
address:山梨県北杜市白州町台ヶ原615
営10時~17時
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