“天然夫”万太郎のピンチを救おうとする“デキた妻”寿恵子!

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2023-07-31 15:38
投稿日:2023-07-31 15:00

NHK朝ドラ「らんまん」~第18週「ヒメスミレ」#86

 万太郎(神木隆之介)が書いたムジナモの論文を自分との共著にしなかったことに激怒し、大学への出入りを禁じた田邊(要潤)。万太郎は論文を書き直すと謝り、波多野(前原混)や藤丸(前原瑞樹)もこれまでの万太郎の植物学教室への貢献をあげて許しを乞うが、田邊はまったく取り合わず。

 それどころか、自分が「植物学研究の礎のため」に集めた資料を勝手に使い、本まで出した万太郎を「土足で入ってきた泥棒」呼ばわり。さらに万太郎が土佐から持ってきた「『土佐植物目録』と標本500点を大学に寄贈するように」と追い打ちをかける。

【本日のツボ】

「論文が気に食わなかったみたいじゃ」(万太郎の台詞)

 ※※以下、ネタバレあります※※

 わかっていたとはいえ、月曜からのこの重苦しい展開、万太郎でなくとも気が滅入ります。

「土足で入って来た泥棒」「傲慢に不遜、手柄ばかりを主張する」と万太郎に罵声を浴びせる田邊。常に冷静沈着でインテリの見本のようだった田邊が、ここまで怒りを爆発させ、学生たちの前で醜態を晒すのは意外でした。

 逆に田邊をそこまで逆上させた万太郎は相当なものです。見方によっては、ただの嫉妬のようにも見え、田邊の器の小ささを露呈する結果に。

 今後、陰で学生たちに“おちょこ”教授呼ばわりされるのではないか、と田邊の威厳が無くなってしまったのでは、と逆に心配になります。

 田邊の剣幕にフリーズした万太郎。ようやく絞り出した蚊の鳴くような声で、「教授はワシのこと憎んでおられるがですか?」と聞きますが、「ハハハ。うぬぼれるな。憎む価値もない」と一笑に付されてしまいます。

「失礼はすべてお詫びいたします。けんど、出入りを禁じられたら、研究を続けることができません。ほんまに、ほんまに申しわけございません」と懇願するも、「もういい。終わったんだよ。君には何度も忠告してきた。聞かなかったのは君なんだ。私の人生で、君に関わる時間は終わった」と最後通牒。

 さらに、「ああ、そうだ。ミスター槙野、忘れるなよ。君の『土佐植物目録』と標本500点を大学に寄贈しなさい。もともと四国の標本がなかったから、出入りを許しただけだろう。君はこの教室のものを使って本まで出したんだから。清算しなければ」ととどめを刺します。

 その後の、田邊が演奏するバイオリンのもの悲しく憂いのある音色に、田邊の逡巡を感じました。

「わからん、わからん」

 失意の万太郎。家に帰ると寿恵子(浜辺美波)に「雑誌どうでした? ムジナモちゃん。教授、喜んでくださったでしょう」と聞かれ、「いや、教授は大学への出入りを禁じると。そして、『土佐の植物目録』と標本500点、寄贈しろ、いうて」と力なく伝えました。そして、その理由を「論文が気に食わなかったみたいじゃ」と。

 あとは「わからん、わからん」の万太郎。いまふうにいえば“天然”の万太郎。もしや、田邊の怒りの本当の理由に気付いていないのではないでしょうか。

 それにしても、夫のピンチをなんとかすべく、田邊に直談判しようとする寿恵子の頼もしさ。妻の鑑です。

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。読売新聞「アンテナ」、放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


優三も草葉の陰で苦笑い? 前代未聞な別れの“懺悔”は直言らしい名場面に
 直言(岡部たかし)は栄養失調と肺炎でもう長くはないと診断される。直言が大事なことを隠していたと知った寅子(伊藤沙莉)の...
桧山珠美 2024-05-30 18:50 エンタメ
「見るんじゃない」と直言。ダチョウ倶楽部の“押すなよ、押すなよ”を彷彿
 直言(岡部たかし)の体調が優れない。寅子(伊藤沙莉)と直明(三山凌輝)はマッチ製造の仕事を紹介してもらい、はる(石田ゆ...
桧山珠美 2024-05-28 15:30 エンタメ
視聴率苦戦だから失敗に物申す!山下智久と錦戸亮、5年ぶり民放作の意義
 山下智久(39)が主演を務める「ブルーモーメント」(フジテレビ系)、錦戸亮(39)がキーマンとして出演する「Re:リベ...
こじらぶ 2024-05-25 06:00 エンタメ
「おいしいものは一緒に」出征前の河原デート。はて?初回を思い出すと…
 寅子(伊藤沙莉)は訪ねてきた後輩の小泉(福室莉音)から、女子部が閉鎖されることになったと知らされる。  今年は高...
桧山珠美 2024-05-24 15:30 エンタメ
優三の優しさシャワー全開!寅子のゴロゴロ床入り作戦も大成功だった神回
 昭和17年3月。直言(岡部たかし)の工場は軍からの注文が途切れず、順調に稼働を続けていた。戦時下で食べ物が貴重になる中...
桧山珠美 2024-05-21 15:30 エンタメ
朝ドラヒロインは「大日本国防婦人会」と揉めるのがお約束
 結婚した寅子(伊藤沙莉)は弁護の依頼も来るようになり順調な日々を送る。  ある日、手伝いとして働くよね(土居志央...
桧山珠美 2024-05-20 15:30 エンタメ
角界一の美容力士・翔猿らが明かした脱毛&モテ事情、全力で推したいのは
 圧倒的な強さと精神力、鍛え抜かれた筋肉美、昭和の名横綱“ウルフ”千代の富士、整った顔立ちと沸き立つ色気がたまらない“各...
「僕じゃ駄目かな」あすなろ白書のキムタクを想起、優三渾身のプロポーズ
 寅子(伊藤沙莉)は、弁護士として社会的な信用を得るためにお見合いをさせて欲しいと直言(岡部たかし)とはる(石田ゆり子)...
桧山珠美 2024-05-20 15:02 エンタメ
事件はいつも「あの階段」で起こる! 岩ちゃん演じる花岡もう婚約
 晴れて弁護士になったが、女性であることを理由になかなか依頼をしてもらえない寅子(伊藤沙莉)。「女の幸せより大事なものか...
桧山珠美 2024-05-20 15:02 エンタメ
炎上芸人・粗品は松本人志にビビってない!キンプリへの暴言も計算済み?
 2018年にコンビとして『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)のチャンピオンとなり、2019年にピン芸人として『R-1ぐ...
堺屋大地 2024-05-15 06:00 エンタメ
「握手」の演出に伏線?寅子と花岡は友情の証、優三のそれとは真逆だった
 寅子(伊藤沙莉)の1年先を行く花岡(岩田剛典)は司法修習後の試験に合格。どうしても早く伝えたいと寅子に電話をしてきたの...
桧山珠美 2024-05-14 16:00 エンタメ
あぶ刑事ヒットならドラマ化も?柴田恭兵の“枯れた老人”は世を忍ぶ仮の姿
 先月までNHK-BSで放送していた「舟を編む~私、辞書つくります~」はなかなか素敵なドラマでした。  三浦しをん...
映画『広末涼子』(仮)の鳥羽氏は中盤キャラ?スキャンダル史まだ続く説
 昨年6月、人気シェフ・鳥羽周作氏とのダブル不倫が報じられ、無期限の謹慎処分を受けていた広末涼子。その後、夫だったキャン...
堺屋大地 2024-05-11 06:00 エンタメ
花岡(岩ちゃん)、寅子に匂わせプロポーズ!?でも黄色いバラの花言葉は…
 とうとう合格した寅子(伊藤沙莉)、先輩の久保田(小林涼子)、中山(安藤輪子)。そして寅子と合格者が3人も出たことで、廃...
桧山珠美 2024-05-10 15:30 エンタメ
生田斗真“無痛おねだり”大炎上の後始末 羊水発言は“謹慎4カ月”だったが…
 俳優の生田斗真(39)が大炎上している。生田はインスタグラムのストーリーズで、ファンから質問に回答する企画で「今日で妊...
優三のいい人キャラさく裂!予告でヒヤリとした梅子の断崖絶壁シーンも〇
 涼子(桜井ユキ)と香淑(ハ・ヨンス)の思いを背負って、寅子(伊藤沙莉)たちは再び高等試験に挑むが、今度は梅子(平岩紙)...
桧山珠美 2024-05-09 16:30 エンタメ