竹内まりやの「マンハッタン・キス」そのもの
「幸せでした。ずっと憧れていた部長に優しく抱かれ、唇を合わせ、幸せ過ぎて時が止まって欲しいと思ったほど。その日から、月に2回ほど秘密のデートがありました。場所は会社から遠いホテルだったり、私の自宅マンションだったり……。
ただ、幸せな反面、悲しみも大きかった。彼はどんなに遅くなっても必ず家族が待つ家へと帰っていく。ホテルに泊まった時も、『支払いは済ませておくから、ミクは朝まで寝てていいよ』って帰っていくんです。
とりわけ、私の自宅マンションではつらかったですね。彼のとなりで寝ていると、そっとベッドから起きて音を立てないように服を着て、静かに部屋をあとにする……。
竹内まりやの『マンハッタン・キス』っていう歌はご存じですか?
あの歌詞の、『何もかも まるでなかったように シャツを着る いとしい背中 眺めるの』の部分が、あまりにも現実と重なって……。寝たふりをして、玄関のドアが閉められた音を聞いて、思いっきり泣いたことが何度もありました」
沖縄旅行の提案
――マンハッタン・キスの歌詞は、同じ境遇の女性が聞いたら、本当に心に沁みますよね。
「そうなんです。彼には帰る場所がある。一方通行の恋なら、まだ遠くから見て心を弾ませているだけで済んだと思います。でも、私は彼の『刹那的かもしれない愛の味』を知ってしまった。だからこそ、幸せと苦しさの振り子が大きく揺れるようになったんですね。
時々悲しい表情をするのが伝わったのか、ある日、アツオ部長は旅行を提案してきたんです。
――ミク、2人で沖縄に行かないか? 以前から海に行きたいと言ってただろう?
部長は、北海道出身の私が、海が好きだという言葉を覚えてくれたんですね。
――嬉しい。沖縄ってまだ行ったことがないんです。ありがとうございます。
――2泊3日くらいで行こうか。
――はい……夢みたいです。
――同じ日に有休を取ると怪しまれるな。僕は前日から宿に入るから、ミクは翌日から5日間の有休を取ってくれ。
――わかりました。会社には、あえて北海道のお土産を買ってきますね。
エロコク 新着一覧