「そんな若じゃき、ワシは愛したじゃが」竹雄の言葉に蘇る2人の歴史…

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2023-09-16 16:20
投稿日:2023-09-16 16:20

NHK朝ドラ「らんまん」~第24週「ツチトリモチ」#120

 逸馬(宮野真守)が連れてきた資産家の永守(中川大志)は、万太郎(神木隆之介)の図鑑の出版や標本の保存に投資をしたいと申し出る。

 そして、季節は夏から秋へ――。竹雄(志尊淳)、綾(佐久間由衣)は沼津の酒蔵を買い取り、藤丸(前原瑞樹)とともに沼津へと移り住むことに。万太郎もある決意を固める。

【本日のツボ】

「そんな若じゃき、ワシは愛したがじゃ」(竹雄の台詞)

 物語も終わりが近づき、この半年間、馴染んできた登場人物たちとの別れのシーンにはグッとくるものがあります。

 振り返ると「らんまん」は、幼い頃から真っ直ぐに「植物」の道を歩んできた万太郎と、彼に出会って影響を受けた人たちの人生の物語でもあったのではないか、と。

 良くも悪くも、周りに影響を与える万太郎。長男の百喜(松岡広大)が役所勤めというのも納得。槙野家にはとにかく安定収入が必要ですから。父の夢を叶えるために、とお役人になった気がしてなりません。

 長女の千歳(遠藤さくら)も家事全般、および兄弟の世話を任されているようで、なんと親孝行な子どもたちでしょう。

 それはともかく、この日、印象に残ったのは竹雄との別れでした。かつて2人で住んでいた十徳長屋を久々に訪れた竹雄。窓から溢れるほどの標本だらけの部屋を見ながら「ここまでよう歩いてきたのう」と万太郎に声をかけました。

「うん。足跡がまた増えたがじゃ」

 万太郎は竹雄に、和歌山で採取したツチトリモチを見せます。「ツチトリモチ言うがじゃ。それは珍しい貴重な子ぉじゃ」と。

「和歌山にある神社の森で見つけたがじゃ」と万太郎。「年が明けたらその森はこの子は木に寄生して生きる。木を伐ってしもたら枯れてしまう。この子が森の小さな守り神じゃ」と続けます。

「森が伐られたら、この神様も消えるがか?」と竹雄に聞かれ、「木が倒され、陽が差し込み、この子たちは枯れてしまう。ワシは神社の森の植物はひとつ残らず書き留めていきたい。それを大学に提出する」と自分の決意を伝えます。

また「若」呼び

 さすが、1番助手の竹雄、何を指しているのか悟ったようで、「お前、平気かえ。国の旗振りの神社合祀令じゃろう。そんなことしたら」と万太郎を諭そうとしますが、その表情から強い意思が伝わったのか、少し笑って「あ~。勝手に大学に押しかけて。『通わせてください』言うて、今度は自分で『出ていきます』言うがか。……ワガママが過ぎるじゃろう。天下の東京帝國大学相手に」と。

「いくつになっても子どもっぽうて。そんでも金色の道を貫くためながじゃろ。小さい神さんが消えていくゆうがを見過ごすより、手を差し伸べるおまんがえい。峰屋の若旦那は駄目若じゃったけど、いつじゃち、強さと優しさが本気じゃった。そんな若じゃき、ワシは愛したじゃが」

 竹雄の言葉に2人の歴史が蘇ります。そして、「万太郎」呼びしていた竹雄が最後にまた「若」呼びしたのが、ツボでした。

「ここにあるすべてが証じゃ」

 間もなく、関東大震災。万太郎の「証」はどうなってしまうのでしょう。

【おまけのツボ】

うさぎの巾着(波多野のお手製)

 綾と竹雄とともに、沼津へ行くことになった藤丸(前原瑞樹)。波多野(前原滉)との別れのシーンもグッときました。

「波多野、お別れだな。おれが遠くに行っても平気か?」

「そっちこそ。文献読めるの? どうせすぐ助けて波多野って呼びつけるんでしょ」

「呼び受けるかもしれないけどさ。頑張るよ。自分で考えて、試し続ける。波多野がそうしてきたみたいに」

 相棒の門出を祝し、波多野は藤丸の大好きなうさぎ(雪丸? おもち?)が描かれた巾着を手渡します。

「下手だなあ」と言いながら、涙ぐむ藤丸。彼のために不器用ながら一所懸命縫う波多野の姿が目に浮かぶようです。

 スピンオフで「藤丸&波多野 友情物語」をぜひ!

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

エンタメ 新着一覧


荒牧慶彦&植田圭輔、気心の知れた相手だから、自然でいられる。W主演で見えた“素のふたり”の関係性
 舞台『刀剣乱舞』シリーズなどで知られる荒牧慶彦さんと植田圭輔さんがW主演を務めた映画『プロジェクト・カグヤ』が公開中で...
望月ふみ 2025-11-09 11:45 エンタメ
「ばけばけ」“女中”が意味するのはどっち? おトキ(髙石あかり)のうらめしい世の中は続く…
 ヘブン(トミー・バストウ)は錦織(吉沢亮)と一緒に借家へ引っ越しをしていた。新居に満足気なヘブンだったが、いまだ女中が...
桧山珠美 2025-11-08 12:45 エンタメ
“松本人志ファン”として言わせてください。『DOWNTOWN+』は天才的だった。だが「松本、動きました」はダサかった
 2024年1月から芸能活動を休止していたお笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志(62歳)が、約1年10カ月ぶりに活動再開...
堺屋大地 2025-11-08 11:45 エンタメ
『ラブ トランジット』3、ついに決断の瞬間! 永遠のテーマ「良い人だけど付き合えるか」問題がリアルすぎ【8話レビュー】
『ラブ トランジット』シーズン3(Prime Video)、最終話が配信されました! 『ラブ トランジット』(以下ラブト...
中村未来 2025-11-07 11:45 エンタメ
『ラブ トランジット』3、恋愛って“物わかりの良い女”より“ゴリ押し”が勝ったりするよね【7話レビュー】
『ラブ トランジット』シーズン3(Prime Video)が7話目までが配信されました! 『ラブ トランジット』(以下ラ...
中村未来 2025-11-06 11:45 エンタメ
「ばけばけ」ラスト、タエ(北川景子)の姿に衝撃…!一方、錦織(吉沢亮)はいつ“相棒”になれるのか
 平太(生瀬勝久)とのケンカから、旅館を出て家を借りて暮らしたいヘブン(トミー・バストウ)。その世話をする女中探しを任さ...
桧山珠美 2025-11-05 17:25 エンタメ
近年の『M-1グランプリ』は優勝より過程が面白い?『タイプロ』のような“熱狂”が生まれる理由
 年末の風物詩『M-1グランプリ』(ABC・テレビ朝日系)。8月から1回戦が開始し、現在早くも3回戦の真っただ中です。 ...
「ばけばけ」錦織(吉沢亮)、バカ正直にもほどがあるぞ。“どっちもできる女中”ゲスい要望がやりきれない
 トキ(髙石あかり)はフミ(池脇千鶴)と花田旅館にしじみを売りに来たところ、ヘブン(トミー・バストウ)と平太(生瀬勝久)...
桧山珠美 2025-11-04 18:15 エンタメ
オダギリジョー「納得した仕事しか受けない」というこだわり。芸術家から犬の役まで!? “個性爆発”する作品5選
 2021年にNHKで放送が始まったテレビドラマ『オリバーな犬、(GOSH!!)このヤロウ』が、現在、映画版となって絶賛...
zash 2025-11-05 14:37 エンタメ
窪塚洋介「すべて変わっても、直感だけは変わらない」俳優30年、次元を超えてもブレない“自分軸”
 1995年に俳優デビューし、今年は活動30周年を迎えた窪塚洋介さん(46歳)。現在、松田龍平さんとW主演を務める映画『...
望月ふみ 2025-11-02 11:45 エンタメ
「ばけばけ」トキ(髙石あかり)の“違和感”、その正体が判明。運命の鐘ではなかったけれど
 ヘブン(トミー・バストウ)の初登校前日。いまだヘブンとコミュニケーションがとれず焦る錦織(吉沢亮)は、知事(佐野史郎)...
桧山珠美 2025-11-01 12:45 エンタメ
「ばけばけ」振り回されっぱなしの錦織(吉沢亮)が気の毒…ふたりの会話は聞き捨てならない
 しじみ売りに花田旅館を訪れたトキ(髙石あかり)は、主人の平太(生瀬勝久)やツル(池谷のぶえ)、ウメ(野内まる)と共に、...
桧山珠美 2025-10-30 18:05 エンタメ
復縁って本当にアリ?『ラブ トランジット』3、女性メンバーが思う“ヨリを戻す”前の恋愛ルール
 10月16日(木)よりスタートした『ラブ トランジット』シーズン3( Prime Video)は、元カップル5組10名...
中村未来 2025-10-30 12:00 エンタメ
『ラブ トランジット』3、全てがひっくり返る展開に衝撃! 人の心って本当に読めないなぁ【4話~6話レビュー】
『ラブ トランジット』シーズン3(Prime Video)、3〜6話目までが配信されました! ラブ トランジット(以下ラ...
中村未来 2025-11-05 11:10 エンタメ
元カレと再会したら心は動く?『ラブ トランジット』3、女性メンバー3人が感じた“過去の恋”と向き合う勇気
 10月16日(木)よりスタートした『ラブ トランジット』シーズン3(Prime Video)。本作は、元カップル5組1...
中村未来 2025-10-29 12:00 エンタメ
【芸能クイズ】全員元モデルだが? “女性向けファッション誌”出身の俳優は誰でしょう
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...