#3 立川の夫と恵比寿の彼、女の幸せはどちらに?元アイドルが選んだ道は

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2023-11-18 06:00
投稿日:2023-11-18 06:00

【立川の女・黒澤麻美30歳 #2】

#1#2のあらすじ】

 かつて2流アイドルグループの中堅メンバーだった麻美は、現在立川で専業主婦として平凡な毎日を送っている。彼女は現在、ひっそりとライブ配信者として活動しているが、昔のファンにその存在を知られ……。

  ◇  ◇  ◇

――誰かに見つけて欲しい……。

 昔から、目立ちたがり屋で、承認欲求はあったが、自分から表に出られない性格。

 だからこそ、グループ解散後もガツガツハイエナのように仕事を求めて活動する気持ちにはなれなかった。

 ライバーとして活動しだしても、過去の実績を隠していたのはそういうワケだ。なにより、「見つけられた」時の嬉しさは何事にも代えがたい。現に、麻美はその歓びにひたっていた。

『一生推しさんって、もしかしてタカミさんですか?』

 ある配信終了後、麻美は確信を持って、DMを送信した。タカミとは当時の自分のトップオタだった男性だ。

『やっぱりわかりました??(^^♪) また会えてうれしいです(^^♪)』

 タカミは、10年前に麻美がファンクラブ限定メールで使用していた絵文字を使い、古参の証拠をアピールしてきた。

 懐かしさに思わず麻美も笑みがこぼれる。

2歳年上の早大学生だった

 彼は確か自分の2歳年上で、あの頃はまだ早稲田の学生さんだったと思う。どこにでもいる、いたって普通の大学生だった。

 見た目は、がんばって雑誌や友人の影響でチャラくしているような……。イベントで対面した時の、「今日は頑張っておしゃれしてきた」という発言に、「自分はこういう男が好きだと思われているのだろうか」と疑問を持ったことを思いだす。

『いや、だってあの時、ゴールデンボンバーがキてる! って、限定メールで言っていたじゃないですか(^^♪)』

 当時の不満を告げると、彼は咄嗟に言い訳する。確かに麻美は駆け出しの頃の金爆にハマっていた時期があった。今は好きだったこと自体忘れているが。

 しかし、一気に感情がタイムスリップしたのは事実。

 あの頃とひとつだけ違うのは、タカミさんが多くのファンのうちのひとりから特別な存在感に変わっていることだった。彼が赤くなっている表情が文面から見てとれ、胸の奥を刺激するのだ。

そしてこぼれた想い

 いつの間にか配信後、タカミさんと個別チャットをするのが恒例になっていた。

 聞けば彼はグッズをいまだに捨てられずにいるのだという。

『家の近くにトランクルーム借りているほどでさ。恵比寿だから家賃も高くてもう、どうしたらいいかな』

 恵比寿に住んでいるんだ――麻美はそっちの方が気になってしまった。彼は何をしている人なんだろう、もっとお話ししたい……。

 くだけたやりとりを1カ月以上続けていたら、そんな気持ちが生まれてくるのは当然だった。

『それ、見せてもらえませんか?』

『え……マジっすか』

 ふいに、表面張力で耐えていたコップの水が限界を迎えたようにぽろりと想いがこぼれ出てしまう。

『タカミさんにも会いたいんです』

 それはアイドルでもライバーとしてでもなく、女としての麻美の言葉であった。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「私は親なんだから!」実母のワガママに限界…40代女性が心を守るために選んだ“思い切った決断”
 結婚をしてからも、実母との関係に悩む人は決して少なくないもの。「実の親子なのだから、分かり合えて当たり前」と思いがちで...
35歳すぎたら肌課金すべき? 美容部員が教える「正解スキンケア」。高級コスメとプチプラの“リアルな実力”
 35歳を過ぎてから、急激に容姿の衰えを感じるようになった筆者。SNSは数多のコスメ情報で溢れかえり、美容医療も治療法が...
ランチ6500円が普通だと…? 金銭感覚がおかしい衝撃LINE3選。240万稼いだってマジか
 あなたはどんな金銭感覚の持ち主に「おかしい」と感じるでしょうか? 金銭感覚の違いにより、相手との関係がこじれたり疎遠に...
「あの子、消されたらしいよ」“噂”が立った瞬間、表舞台には戻れない。芸能界に漂う“沈黙のルール”
 世間を揺るがす芸能界のさまざまな噂。ニュースとして報じられ、真実が明らかになることも増えました。  現在は清浄化...
仕事したくな~い! 連休明け、仕事中にこっそりやってる “現実逃避テク”7選。これでメンタル保ってます
 長い連休が終わった翌日の仕事…。朝からやる気が出ず、つい現実逃避したくなるものです。そんなとき、みんなはどんな方法で気...
もっと高く!ジャンピング“にゃんたま”を見よ。躍動感あふれる猫から目が離せない♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
親の介護、孤独死のニュースで実感…私が40代で「終活」を始めたリアルなきっかけ
「終活」というキーワードを聞いて、何歳から始めるものだと思いますか? 実は近年、特に健康に問題がなかったり、若年層であっ...
【動物&飼い主ほっこり漫画】第104回「夢でもいいからアエルトイイナ」
【連載第104回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽの...
【漢字探し】「梛(ナギ)」の中に隠れた一文字は?(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
誕生日にめちゃ嬉しい♡ 斬新な“たんおめLINE”3選。「宝探し開始!」お茶目な姉の仕込みにキュン
 大切な親友や気になっている人など、あなたにとって特別な相手へ“誕生日おめでとう=たんおめLINE”を送るときは一工夫す...
スマホ社会にゾゾッ…。65歳童貞、アナログ人間に世間は厳しい? 僕が“鉛筆”にこだわる壮大な理由
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(65)。多忙な現役時代を経て、56歳...
「息子の結婚相手はこんな人がいい!」8人の姑が“理想の嫁像”とリアルな本音をガチ告白
「息子の結婚相手はこんな人がいい」という理想の女性像を、姑の立場になる方たちに語ってもらいました。結婚を決めるのは本人た...
義母vs実母の“初孫”バトル勃発! マウント合戦に巻き込まれた新妻の叫び「私たちは代理戦争の駒じゃない」
 幸せなはずの新婚生活に影を落とす、姑との問題。令和の時代でも根強く残る嫁姑トラブルに直面したケースをご紹介します。
おやつにワクワク♡ 猫の尻尾がピン♪ “にゃんたま”の勝利ポーズが尊すぎる
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
子どもを思うほど胸が痛い…ひとり親家庭が抱える“見えない苦労”。差別や偏見とどう向き合う?
 2024年に離婚した夫婦の数はなんと18万組にのぼるのだそう。なかには「ひとり親家庭」となる人もいるでしょう。子どもと...
コンクリ貫通の生命力!「タカラジェンヌ」が由来の高貴なお花、寒さに弱いはずが“3度の冬”を越えたわけ
 今年の夏も暑かった!、我がお花屋の店先では、暑さにめっぽう強い見上げるほど大きく育った「南国生まれの貴婦人」が見ごろを...