【立川の女・黒澤麻美30歳 #2】
【#1、#2のあらすじ】
かつて2流アイドルグループの中堅メンバーだった麻美は、現在立川で専業主婦として平凡な毎日を送っている。彼女は現在、ひっそりとライブ配信者として活動しているが、昔のファンにその存在を知られ……。
◇ ◇ ◇
――誰かに見つけて欲しい……。
昔から、目立ちたがり屋で、承認欲求はあったが、自分から表に出られない性格。
だからこそ、グループ解散後もガツガツハイエナのように仕事を求めて活動する気持ちにはなれなかった。
ライバーとして活動しだしても、過去の実績を隠していたのはそういうワケだ。なにより、「見つけられた」時の嬉しさは何事にも代えがたい。現に、麻美はその歓びにひたっていた。
『一生推しさんって、もしかしてタカミさんですか?』
ある配信終了後、麻美は確信を持って、DMを送信した。タカミとは当時の自分のトップオタだった男性だ。
『やっぱりわかりました??(^^♪) また会えてうれしいです(^^♪)』
タカミは、10年前に麻美がファンクラブ限定メールで使用していた絵文字を使い、古参の証拠をアピールしてきた。
懐かしさに思わず麻美も笑みがこぼれる。
2歳年上の早大学生だった
彼は確か自分の2歳年上で、あの頃はまだ早稲田の学生さんだったと思う。どこにでもいる、いたって普通の大学生だった。
見た目は、がんばって雑誌や友人の影響でチャラくしているような……。イベントで対面した時の、「今日は頑張っておしゃれしてきた」という発言に、「自分はこういう男が好きだと思われているのだろうか」と疑問を持ったことを思いだす。
『いや、だってあの時、ゴールデンボンバーがキてる! って、限定メールで言っていたじゃないですか(^^♪)』
当時の不満を告げると、彼は咄嗟に言い訳する。確かに麻美は駆け出しの頃の金爆にハマっていた時期があった。今は好きだったこと自体忘れているが。
しかし、一気に感情がタイムスリップしたのは事実。
あの頃とひとつだけ違うのは、タカミさんが多くのファンのうちのひとりから特別な存在感に変わっていることだった。彼が赤くなっている表情が文面から見てとれ、胸の奥を刺激するのだ。
そしてこぼれた想い
いつの間にか配信後、タカミさんと個別チャットをするのが恒例になっていた。
聞けば彼はグッズをいまだに捨てられずにいるのだという。
『家の近くにトランクルーム借りているほどでさ。恵比寿だから家賃も高くてもう、どうしたらいいかな』
恵比寿に住んでいるんだ――麻美はそっちの方が気になってしまった。彼は何をしている人なんだろう、もっとお話ししたい……。
くだけたやりとりを1カ月以上続けていたら、そんな気持ちが生まれてくるのは当然だった。
『それ、見せてもらえませんか?』
『え……マジっすか』
ふいに、表面張力で耐えていたコップの水が限界を迎えたようにぽろりと想いがこぼれ出てしまう。
『タカミさんにも会いたいんです』
それはアイドルでもライバーとしてでもなく、女としての麻美の言葉であった。
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