言いまつがいに聞きまつがいの上塗り
【vol.21】
初期蜜月期である恋人同士というのはとにかくお互いのいままでの経験を話して話して話しまくって、共有するのが醍醐味であったりします。
よく「81歳と付き合っているって、どんな話をするの?」と聞かれるのですが、その点は、ほかの恋人同士と同じで出逢うまでの時間を埋めるようにひたすら喋って喋って喋り倒します。
ただ、ほかの恋人同士と違うのは……“言いまつがい”や“聞きまつがい”が頻繁に起こるんです。
わたしは滑舌が悪いし、ひろしはたまに耳が遠いので、【滑舌悪いVS耳遠い】ふたりの頂上決戦の様相を呈してきます。前回お話していたようなこと、です。
例えば「多才すぎてヤバい」って言ったら「社会主義でヤバイ?」って聞き返してくるし、突然ゴルフ中にひろしへの愛が爆発して「いますぐ犯したい」って囁いたら「イノシシ買いたい? あぁ、ここら辺なら売ってくれるかも知れんで」と返してきたり、わたしはそれだけで白飯3杯はイケるくらい笑い倒して、81歳と愛し合う“妙”に興じていたのです。
とにかく女好きのひろしなので隠し子もふたり……。
でも「隠し子ふたり」とわたしが言うと滅多に怒らないひろしが「隠してないわい!!」と激怒したのは然るべきだし、そこのところの価値観が同じで安心しました。
とはいえ、「そこかい!!」って突っ込みたくなるのはヤマヤマヤマ……。女の恨みをたくさん買ってきたんでしょ、と言うつもりで「生き霊ついてますよ」と言えば、
「イチロー? あぁ、やっぱりカリスマにはカリスマやな」
とひとりごちて悦に入る。
またあるときにはわたしが料理が大好き過ぎた結果、こじらせ系ゆがんだ偏屈さで「男って、やっぱり肉じゃが好きなんですか?」と昭和の肉じゃが風潮を引きずって尋ねると、
「ミック・ジャガーは誰でも好きやろ。73歳で8人目の子供やで。わしらも作るで!!」と俄然張り切り、ズボンを脱ぎ始めるひろし。
ノリとツッコミの狂騒
こんなこともありました。
「ひろしにとって、わたしってfemme fataleですね」
(※ファムファタル:仏語で宿命・運命の女。男の運命を変える女。悪い意味で使う方が多いけど、わたしは単純に運命の女という意味で使ったのですが……)
「海ほたる? ハハッ、よう分かっとるやないけ。カネ食い虫ちゅーことやろ」
清貧の思想で生きているわたしにひどい言いがかりですが、運転免許を持っていなかったわたしに免許を取らせ、ゴルフを週一でラウンドしてツーサムで教えてくれているので「ぎゃふん」と言うしかなく(ぎゃふんと言った初めての人類よろしく)。
わたしが外を見ながら「雨は(降るかな)? 梅雨?」と聞くと、
「アムウェイ? to you? なんやお前ネットワークビジネスか」と警戒するそぶりを見せたり。
ある日はひろしが相当疲れ切っている様子だったので「癒してあげるね❤️」って子泣き爺のように抱きついたら、
「ヤラしてあげるね? お前もほんまイヤらしいオンナやな!」と嬉しげにわたしの手を股間に誘導したり。
「マッサージして欲しい?」って聞いたら、
「ワサビ? なんや! わしは寿司か!!」とうまくないノリツッコミを披露したり……。
「おっぱい」の破壊力
ノリツッコミといえば、
「寝る子は?」と聞くと、
「育つ」と答え、
「寝る年寄りは?」と聞くと、
「ボケる」と答え、
あるとき、ひどい喧嘩をしたらひろしがずっと黙っているので、不安になって「なに考えているの」と聞いたら、
「おっぱい」
ひとことの破壊力。
とまぁ、我々はひたすら頂上決戦ですが、蜜月期の恋人同士はどんなに時間があっても話し足りないわけです。心の凹凸を充足するために言葉で埋め、その話し足りないなかでセックスをし身体の凹凸を埋め合う。身体の凹凸を埋め合う欲求は根源的なもの。【エロス】と古代のギリシア哲学ではそう表現されていました。
ということで、とても大切な身体の凹凸を埋めるお話。次回(7/19公開予定)はジェロントフィリアにも通じる、プラトンのmissing halfの話をさせていただきたいと思います!
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