世帯年収1500万円でも越えられない壁。耐え難い屈辱を喰らった女の選択

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-01-14 10:23
投稿日:2024-01-13 06:00

【御茶ノ水の女・鈴木綾乃33歳 #3】

 御茶ノ水駅が最寄りの持ち家で2歳年上の夫・孝憲と4歳の娘・香那と3人家族で余裕ある生活を送る彼女は、ママ友と共に充実した生活を送っていた。だが、ママ友たちの小学校受験の話題に置き去りにされている自分に気づき…。【前回はこちら、初回はこちら

  ◇  ◇  ◇

 ランチ会の後、帰る方向が一緒だった藤堂さんに誘われ、湯島にある彼女の家に少しだけお邪魔することにした。

 綾乃の夫は会社の同僚と夜までゴルフに行っている。それは、香那ともどもとても嬉しいお誘いだった。どうやら、藤堂さんは綾乃に話したいことがあるのだという。

「えっ、受験をするために抽選があるの?」

「国立はね。この時期から本気で取り組んでいる方々も多いから、記念受験と口走るのは安易だったかな。私は蚊帳の外だから気にしないけれど」

 7階建てビルの4階までをテナントで貸し出し、その上は全て自宅にしている藤堂さんの持ち家。50平米を超えるリビングの中心にある大きなソファに座りながら聞く衝撃の事実は、綾乃を震え上がらせた。

小学校受験をしない家だと思われていた…

 藤堂さんによると、森さんの家は夫婦ともども代々慶応幼稚舎で、小学校受験に対しかなり熱があるということ。

 佐橋さんも上の子が青山学院といい、お受験に関する塾や習い事を赤ちゃんの頃からいくつも掛け持ちしているそう。

「高柳さんの家なんて、本命は国立だそうだから、抽選対策で水回りの掃除だけはご自身とお子さんでしているらしいの。皆さん、毎日ペーパーテスト対策とか行動観察がどうとか、話ではいろいろ大変そうよ」

 藤堂さんは口元に手を添えて柔らかな笑みを見せる。だが、綾乃は引きつったままだった。

――私、相当無知な発言をしてしまったんだ…。

 呆然とするとともに、彼女たちから、置いてけぼりにされていたことが恥ずかしくなった。

「あなたの家はどうか?」などというお伺いを立てられることもなかった。お受験塾に通っていることも内緒にされていた。つまり、小学校受験をしない家だと半ば決めつけられていた。

「仕事をしているから」の言葉に感じた偏見

「それは…きっと、お仕事をされているからじゃないかしらね」

 いじけて本音を吐露する綾乃に、藤堂さんは優しくフォローした。しかし、「仕事をしているから」というその言葉に偏見を感じ取った。彼女たちはみな、専業主婦である。綾乃は誤解を解くように、慌てて説明をする。

「私がお仕事をしているのは、社会貢献と、自分らしく生きるためなので…」

「わかるわ。私も、それで会社をはじめたし」

「え」

「ドバイへ移住するつもりなの」

 藤堂さんは青山や銀座でファッション雑貨の販売を手がける企業の経営者なのだという。子供はシッターや、半ばFIRE状態で投資家の顔を持つ夫の力を借りながら、外国語教育に特化した幼稚園に通わせているらしい。

「この子が小学校に上がる頃には、ドバイへ移住するつもりなの。こんな時代だし、仕事は世界中でできるからね」

 小学校受験をしない理由を引け目なく話す藤堂さんに、綾乃は生まれてから身近な人に対して一度も感じたことがなかった壁を見てしまった。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


出費額は100万円!? なぜ筋肉マッチョは「ミスターコンテスト」に挑むのか
 女性の外見や内面の美を競うミスコンテスト(以下、ミスコン)。ルッキズムの議論が広がる昨今、ミスコンの意義を問う議論が絶...
記憶鮮明な阪神・淡路大震災発生前夜の“異変”。冬眠モードのカメが突然大騒ぎして…
 8月8日16時42分ごろ、日向灘を震源とする最大震度6弱の地震が発生。その後、気象庁が初めて「南海トラフ地震臨時情報(...
“たまたま”チェックに余念のない茶トラ君♡ 写真集の表紙になれるかな?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「妊娠アウティング」経験者たちのエピソード 悲劇はどうすれば防げたのか
 皆さんは、「妊娠アウティング」という言葉を知っていますか? もしかしたら、実際に被害を受けたことがある人もいるかもしれ...
あの人気観葉植物が地震を予知!? 植物の異変から事前兆候を察知する話
 テレビ画面に映し出される南海トラフの「巨大地震注意」の文字…。不安で心が押しつぶされそうになりますな。ワタクシが生...
アプローチ中のおんにゃの子は塩対応? “たまたま”の恋の行方にドキドキ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
盆地を見下ろす丘で
 盆地を見下ろす丘で。  くるくると回る風に吹かれ、空に風の交差点を観た。
ほっこり癒し漫画/第79回「来るかな? ニャー」
【連載第79回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
「女郎花と男郎花」読める? ヒント:ジョロウは間違い。初秋に愛でたい
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ミルクに難色、昭和育児の「母乳信仰」って何なん? 押しつけがましい上から目線LINEにイラッ
 初めての育児や、何人もの育児をしているお母さんは、とりわけ、毎日大変! そんなお母さんを追い詰める身内、どうにかならな...
セレブ妻が赤羽のサイゼリヤに落ちるまで 上流階級との「品格の差」に絶望
 悠々自適なセレブ生活を送っている医師の妻・大宮由香。ある日、お嬢様学校に通う娘のクラスメイト・愛舞(らぶ)とその母親・...
勝ち組ママ友が放った屈辱的な一言。私を「一般人」と一緒にしないで!
 四ツ谷・番町エリアに暮らす医師の妻である大宮由香は、娘・葵を名門お嬢様学校に通わせている。小学校に入った葵から友人がで...
嘘でしょ…娘の友達が「キラキラネーム」? 玉の輿セレブの大きな誤算
 都会の中心でありながらも、ハイグレードな住宅街として知られる四ツ谷・番町エリア。  大宮由香は、小学校に入ったば...
スメハラ? 90年代の出版社は“異臭”がプ~ン…男と香水と時代の変化
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
移住の思わぬ落とし穴。収入激減で大後悔!こんなはずじゃなかった…
 コロナ禍でリモートワークに対応する会社が多くなり、地方への移住を一つの選択肢として捉える人は増えました。でも、あまり調...