特攻隊の前で「別れのブルース」、過去の“淡谷のり子物語”と異なる描き方

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2024-01-05 14:00
投稿日:2024-01-05 14:00

NHK朝ドラ「ブギウギ」~第14週「戦争とうた」#66

 1945年、日本の戦況はますます悪くなっていた。富山に慰問に来ているスズ子(趣里)は、女中の静枝(曽我廼家いろは)の話を聞き、この人のためにも歌を歌わなければいけないと心に誓う。

 鹿児島の茨田りつ子(菊地凛子)は、特攻隊員たちの見つめる中、ステージにあがる。

 隊員たちが望むものを歌うと、りつ子は隊員たちに希望を問いかける。それぞれの思いを胸にステージに立つ2人。戦争とうた。

【本日のツボ】

茨田りつ子の目にも涙

 ※※以下、ネタバレあります※※

 茨田りつ子のモデルとなった淡谷のり子を主人公にしたドラマはこれまでにも何本か作られています。

「土曜ドラマ 女性シリーズ わが青春のブルース」(NHK・1980年放送)では太地喜和子、「もう一度別れのブルースを 淡谷のり子物語」(テレビ朝日系・1991年放送)では秋吉久美子が主人公を演じました。

 それらのドラマでも「特攻隊」の話は描かれていました。それは彼女の自伝にも書かれている史実でもあり、「ぜいたくは敵だ」の時代にあって、「これが私の戦闘服です」とドレスを着続けたというエピソードとともに、淡谷のり子という歌手を語るうえでは欠かせないものです。

 それをわずか数分で描くとはなんとぜいたくなことでしょう。昔、見たドラマでは、淡谷のり子が歌っている最中に、1人、また1人と出撃命令を受けた特攻隊員が立ち上がり、彼女に一礼して去っていくというものでしたが、今回は特攻隊員たちが「勇気づけられました」「もう思い残すことはありません」「これで思い残すことはありません」「迷いはありません」「いい死に土産になります」…などなどと口々に語り、それを目にしたりつ子は袖にはけた後、泣くという演出でした。

特攻隊員の演出シーン

 特攻隊員たちがひとりずつ立ち上がり、口々に台詞を言う場面が、小学校の卒業式で「楽しかった修学旅行」「みんなで頑張った運動会」…と卒業生がやるのに似ているなあ、と。無言で去るだけでは令和の視聴者には伝わらないという配慮でしょうか。

 8月6日、広島に原子爆弾が落とされたと新聞に書かれていたということは、あと数日で終戦になると、今の私たちは知っているのでタイムリープして特攻隊員たちの出撃をなんとか止めさせることはできないか、と思ってしまいました。

 茨田りつ子の涙も自分の無力さを感じてのことでしょう。

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


Perfumeあ~ちゃんの結婚発表とこれまで封印してきた3人のマル秘私生活…残る2人も続いてゴールイン?
 3人組テクノポップユニット「Perfume(パフューム)」のあ~ちゃん(36)が11月11日に自身のインスタグラムで一...
2025-11-13 17:03 エンタメ
FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?
 フジテレビは、嵐の相葉雅紀(42)が司会を務める音楽の祭典「2025 FNS歌謡祭」を、12月3日と10日の2週連続で...
2025-11-13 17:03 エンタメ
福山雅治の「不適切会合問題」で紅白に地殻変動が? “やらかし”がPerfume「トリor大トリ」誘発の可能性アリ
 今年も残すところ2カ月弱。ぼちぼち「紅白内定!」なんてニュースが出始めているが、例年通りの「当確」に注目が集まった人物...
2025-11-13 17:03 エンタメ
「抱きたいでしょ!」名場面が誕生!? これぞ『ばけばけ』、シリアスとコミカルの絶妙な塩梅が最高
 物乞いとなったタエ(北川景子)の前に記者の梶谷(岩崎う大)が取材をしたいと現れる。三之丞(板垣李光人)はタエを守るため...
桧山珠美 2025-11-13 13:05 エンタメ
Number_iとキンプリ、年末特番での共演はあるか? 山下智久&赤西仁に見る“脱退グループ”との関係性
 2025年も年末が近づき、音楽特番への出演者発表でそれぞれのアーティストのファンが盛り上がりを見せている。そんな中、注...
こじらぶ 2025-11-13 11:45 エンタメ
畑芽育には12歳にして風格が…その予感通りに親しみやすい「国民のいとこ」のような女優になった
【2025秋ドラマ 注目美女の魅力と素顔】#4  畑芽郁  (終活シェアハウス/NHK BS)   ◇  ◇  ◇ ...
2025-11-12 17:03 エンタメ
「ばけばけ」苦戦は佐藤浩市の息子で3世俳優・寛一郎のパンチ力不足が一因
 NHK連続テレビ小説「ばけばけ」が、9月29日の放送開始から第7週に突入した。第6週の週間平均視聴率(世帯)は14.9...
2025-11-12 17:03 エンタメ
N党・立花孝志容疑者逮捕で芸能界も激震…あの羽賀研二を映画化めぐる“名誉毀損”で激怒させていた
 ことし1月に亡くなった元兵庫県議に関する虚偽の情報を発信したとして、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容...
2025-11-12 17:03 エンタメ
日テレ菅谷大介アナの急逝に悲しみ広がる…人望厚く後輩思いの“アナウンス部の神”だった
 消化管からの出血のため8日に急逝した日本テレビの菅谷大介アナウンサー(享年53)の突然の訃報に悲しみが広がっている。 ...
2025-11-12 17:03 エンタメ
高市首相に上がり始めた「午前3時のヒロイン」の呼び名 総裁選当選直後から「福田麻貴に似ている」の指摘
 世間をアッと驚かせた高市早苗首相(64)の「午前3時の勉強会」。衆院予算委員会の答弁に臨むためだったとの説明だったが、...
2025-11-12 17:03 エンタメ
【芸能クイズ】難易度高い!? 藤岡弘、の「直筆メッセージ入りマグカップ」に書かれている四字熟語は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
女子プロレス転向フワちゃんいきなり正念場か…関係者が懸念するタレント時代からの“負の行状”
 2024年8月からの芸能活動休止を経て、女子プロレスでの活動復帰を宣言したフワちゃん(31)に賛否両論が出ている。 ...
2025-11-11 17:03 エンタメ
男子バレー小川智大と熱愛報道のCocomi ハイキューファンから《オタクの最高峰》と羨望の眼差し
 木村拓哉(52)と工藤静香(55)の長女で、フルート奏者のCocomi(24)と5歳年上で男子バレーボール代表の小川智...
2025-11-11 17:03 エンタメ
松本人志DOWNTOWN+に渡部建待望論…幻と消えた「笑ってはいけない」お蔵入りシーンの“解除”も
 11月1日のサービス開始から10日が過ぎた「DOWNTOWN+」(DT+)。動画にはサイトの主宰者たるダウンタウンの松...
2025-11-11 17:03 エンタメ
坂口健太郎の“二股報道”に僕が驚かなかった理由。炎上覚悟で女性に伝えたい2つのこと
 9月に「週刊文春」で、俳優・永野芽郁と年上ヘアメイク恋人の二股スキャンダルを報じられた坂口健太郎(34歳)。坂口には“...
堺屋大地 2025-11-11 11:45 エンタメ
「ばけばけ」トキ(髙石あかり)の“腕が太い”は伏線があったのか! 以前の台詞が活きていた
 ヘブン(トミー・バストウ)の女中になる決意をした、トキ(髙石あかり)。錦織(吉沢亮)の立ち会いのもと、トキはヘブンに女...
桧山珠美 2025-11-10 17:19 エンタメ