中年サラリーマンの超絶かわいい「耳飾り」
AirPodsをしたサラリーマンのおじさんを通勤電車で見た瞬間、私はその後ろ姿にぎゅんと心惹かれた。
なにそれ反則…、超かわいい。
思わずウサギを追いかけるアリスのように、後を追って降車したくなるほど、キュートだった。
耳の穴の下に細い棒が垂れるデザインのAirPodsは、後ろから見ると、イヤリングに見えるのだ。
白いプラスチックのキッチュな耳飾りなんて、70年代のツイッギーか、中原淳一が描く昭和のイラストみたいではないか。
おじさん、それ偶然だろうけどレトロかわいさMAXだよ!
純粋なファッションに見えたからこそ
自分の見た目に無頓着なおじさんたちは、耳を飾らない。
実用重視のトルマリンブレスレットや、指にめり込んだ結婚指輪はしても、白いイヤリングだなんて、未来永劫することはないだろう。
実際はイヤホンだが、それが純粋なファッションに見えた私は、だからこそ激しく、心が揺さぶられたのだ。
私の職業はストリッパー、観客の心を揺さぶって、ぞっこん夢中にさせるのが仕事。
ファッションの意外性が人の心をつかむことを、AirPodsおじさんに学んだ私は、さっそくステージに反映させることにした。
ピアスホールが3つある金髪の踊り子です
アクセサリーといえば、私の耳にはピアスホールが3つ開いている。ピアスが開いてなさそうな清純派ならまだしも、元バンギャル味をいまだに醸し出す金髪の私には、何の意外性もない。
しかもステージでの脱ぎ着が異常に多いため、そのたびにすっ飛んで、常にピアスのキャッチは足りない状態である。
衣装に引っかかって耳たぶが裂けた、という話を聞くと、もはやできればしたくない、とすら思うのだ。
意外性を追求したら「インド」にたどり着いた
デビュー4周年を記念する新作は、インドがテーマだ。ターバンで金髪を隠し、おでこにビンディを貼りつけ、サリーを纏う。もちろん意外性を意識してのことだ。
案の定、今までにないナマステファッションの反応は上々だったが、ひとつ悩みがあった。
ターバンを巻いた私は、サルートのブラジャーも、レースのガーターも、全然似合わないのである。
しかし、サリーを脱いだらすっぽんぽんじゃ、心許ない。何か素肌を飾る方法はないか。
入れ墨は入れない、いや、入れられない
そこで思いついたのが、タトゥーだ。
本物の入れ墨ではない。本物みたいに見えるタトゥーシールが、手頃な値段で手に入る。1日のうち4回ステージがあるから、そのたびにはがして、貼ることもできるだろう。
私はタトゥーを入れたことがない。『TATOO BURST』という専門誌を購読していたくらいには興味を持っているが、なにしろ彫ったら銭湯に入れない。
仕事でせっかく温泉地に行っても、温泉に入れないなんて、耐えられない。しかしシールなら、そんな心配も無用だ。
おまけに、右足のやけど跡の上に貼れば、何気なく隠せて一石二鳥だ。
絶大だった「AirPodsおじさん効果」
AirPodsおじさん効果は絶大だった。ステージを終えた写真タイムでは、タトゥーが見えるポーズを希望する人がほとんどで、シールは日替わりと言えば、ステージのたびに記録写真を撮る人も出始めた。
これにより、私という踊り子にとってタトゥーは意外性があるファッションである、ということがわかった。よっ、清純派!
タトゥーシールのはずが、なぜ落ちない!!
消耗品となったタトゥーシールだが、Amazonで探せば大容量が1,000円以内で購入できる。
さっそく追加したタトゥーシールは公演最終日に間に合い、景気よく特大の薔薇を貼り付けたのだった。
明日のオフには、疲れた体を癒しにスーパー銭湯へ行こう。それを楽しみに、10日間がんばって働いたのだ。
しかし、こすったら取れるはずのタトゥーが、ビクともしない。これでは確実に、銭湯の番台さんに呼び止められるだろう。
シールです、と言ったところで、こすっても取れないなら同じだ。
ジャグアタトゥー?
よくよくパッケージを見てみると、そのフェイクタトゥーは、タトゥーシールと貼り方は同じでも、全く別物であった。
植物由来のインクが肌を染めて、垢スリでこすっても2週間ほど落ちないというジャグアタトゥーなるものであった。
そんな危険なものを、1,000円で売らないでほしい。
オフは10日間。銭湯には行けずに終わりそうである。
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