今更「アイドル」になろう。そして、安倍なつみとCoCoの追憶

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2024-04-29 06:00
投稿日:2024-04-29 06:00

「おら、アイドルになる!」

「おら、アイドルになる!」

 そう叫んで、女の子走りでステージから捌けた瞬間、自分でブッと吹き出してしまう。アイドルなんて、私から最も遠いキャラクターだ。

 顔面はメイクで誤魔化せても、アイドルな自分に耐えうるメンタルを持ち合わせていない。

 頬を膨らませたプンプン顔や、舌足らずで甲高い声が、アイドル用に作られたものであることは誰もが承知だ。それでも、ナチュラル・ボーン・アイドルを貫き通す強い心が必要なのだろう。

 それは私にとって、バカ殿の顔で足袋だけ残した全裸になるより、難易度が高いように思われた。

アイドルグループ「CoCo」の記憶

 アイドルの知識は平成9年、「モーニング娘。」のデビュー当時で止まっている。CDを買った記憶は、さらにさかのぼってCoCoまでだ。

 CoCoは昭和64年にデビューした4人組で(デビュー時は5人)、平成6年に解散。センターは羽田恵理香、ショートカットの宮前真樹とぶりっこ担当の三浦理恵子が人気を二分し、最年少で最も大柄な大野幹代は、最も地味な存在だった。

 安倍なつみ推しの私は、やはり羽田恵理香推しであったのだが、なぜか視界の隅で、いつもミッキーこと、大野幹代を追っていた。見た目通り真面目な性格のようで、歌声も三浦理恵子とは反対の、低く落ち着いたアルトだった。

 ミッキーはどう見てもアイドルというキャラクターではないのに、アイドルをやっている。その違和感が心に引っかかっていた。

ストリップ界の「アイドルさん」

 ストリップは基本的にグループを組まないが、松浦亜弥のように、ピンのアイドルは多数存在する。彼女たちは「アイドルさん」などと呼ばれ、フワフワのドレスを着て、かわいらしいダンスを踊る。

 新人ストリッパーのデビュー作は、本人のキャラクターや趣味に関わらず、アイドル演目であることが通例だ。まずは従順な初々しさをアピールしたほうが、古参のお客に受け入れられるからだろう。

演じるのは「アイドルになれない女の子」

 ところで私の新作は、“アイドル演目”ではなく、“アイドルになれない演目”である。東京でアイドルになることを夢見る、アイドルになれなさそうな、東北生まれの女の子の成長譚だ。

 衣装はメロンクリームソーダ色のワンピース。丈が極めて短く、レースのパフスリーブで、ちょっとエッチなウェイトレスの制服みたいなデザインだ。

 パステル色もフレアスカートも全然似合わない。いいぞ、いいぞ。似合わなけらば似合わないほどいい。タイトルは『おら、アイドル』だ。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


意外に難しい「ミモザの鉢植え」を成功させたい! ほっぽらかし園芸好きの花屋が教える5つの失敗と対策
 暦の上では3月、ポカポカを通り越して半袖脇汗が止まらない日中があれば、突然寒くなり雪が降る…これは本当に三寒四温なのか...
想定外しかない商店会ワーク。文句ばかり言うおっさんにブチ切れ寸前、寅さんの名台詞で堪えました
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
ぎっくり腰再発かも…? 運動不足解消のため、水泳を始めた中年おばさんの“まさか”
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
“春ピンク”は女性ホルモンを刺激!【調香師が解説】指先から幸せになるピンクフラワー香り術
 色とりどりの花が咲く春は、気分も明るくなって幸せな気分になりますね。花の色に多いピンクですが、女性ホルモンを刺激する色...
40代の同窓会はどこで差がつく? モテる人とモテない人それぞれの共通点
 若かりし時代を一緒に過ごしたクラスメイトと、定期的に同窓会を開いている人は多いですよね。でも、40代にもなってくると見...
ダイニングテーブル上の「キレイのコツ」5選 すぐに物が散らかり、ぐちゃあ~とするのなんで?
 家族みんなが団欒する時に欠かせないダイニングテーブル。食事をしたり、コーヒーを飲んだり、宿題をしたりと大活躍ですよね!...
「かかってこいや!」攻撃待ちの“たまたま”が余裕の挑発? プロレス開幕の予感にワクワク
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
第一印象が悪いという悩み。好印象に近づく「メラビアンの法則」を知っていますか?
 ビジネスでも恋愛でも、第一印象は大切。第一印象が悪いとビジネスでは取引や契約に悪影響を与え、恋愛では恋人候補から外され...
変わらない、変われない。
 街は変われど、変わらない変われない一本松。  一体、何を視つづけてゆくのだろう。
【漢字一字探し】悔の中に梅はどこ?(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
昭和生まれが驚く令和の卒業式あるある7選。直後に美容院GO、卒業証書のポンポン音はなし
 いよいよ卒業式のシーズンが到来しますね。昭和生まれの40代からすると、令和の卒業式は驚きの連続かもしれません。  今...
40代が身に付けたい「叱り方上手」のコツ。パワハラ上司5つの特徴にドキッとしたら要注意かも?
 職場には、年齢も性格もさまざまな人が働いています。中には誰もが敬遠するパワハラ上司もいるはず!
ほっこり&まったり♡ 癒しの“たまたま”8連発で心のコリほぐしましょ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 2025年に入ってからご紹介したもふもふ・カワイイ・ちょっとは...
「なるほどですね」を多用する会社後輩に言いたい。LINEで相手をイラッとさせるNGな口癖3選
 自分の口癖は、なかなか気付けないものですよね。感謝や褒め言葉など相手を幸せにする口癖ならいいのですが、なかには相手をイ...