年収500万、大卒、婚姻歴なしでもムリ! “普通の男”すらなぜ現れない?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-05-11 06:00
投稿日:2024-05-11 06:00

【東京駅の女・小島萌香29歳 #1】

「お待たせしました、萌香さん。お待たせしすぎたかもしれません!」

 約束の時間に15分遅れてきたその男性は、肌色が目立つ頭皮を汗でにじませながらフロアの中心でガハハと笑う。

「…小島です。よろしくお願いいたします」

 小島萌香は目をぱちくりさせながらも、平静を装うのに必死だった。

 JR東京駅直結の東京ステーションホテルにあるロビーラウンジは、結婚紹介所のお見合いで萌香がよく使用する場所だ。

 ヴェネチア製のシャンデリアが輝くヨーロピアン・クラシックな店内は、足を踏み入れるだけでお姫様になったような気分になる。

 そんな、洗練された空間であるはずなのに…。

せっかくのお見合いが苦痛なだけの時間に

「なーんてね! ははは。高梨です。たかっちと呼んでください」

 場違いなダミ声がフロアに響いた。萌香は笑い声を遮るように尋ねる。

「…あの高梨さん、腰のあたりが濡れていますよ」

「すみません、トイレのエアドライヤーが使用中でしたので」

「なるほど…」

「あー、店員さん。僕はショートケーキをお願いします。ドリンクはお冷があるのでいいです。萌香さんは?」

 本心とは裏腹な作り笑いの表情筋がどんどん鍛えられていく。

「私はコーヒーだけでかまいません」

「おっ。なら、僕のケーキとセットで注文ってことにしません?」

 瀟洒な空間での無駄な1時間は今日も過ぎていくのだった。

35歳、大卒、年収500万円、正社員…でもムリ!

「高梨さん、明るくていい方なんですが、合わなかったみたいですね…」

 翌日。オンライン画面の中で、萌香の担当・国崎優枝は申し訳なさそうに頭を下げた。

「もちろん、お断りでお願いします」

 お見合いから一日経過しても、萌香の気持ちは揺るがない。国崎からの連絡に対し、キッパリと告げた。

「でも35歳、年収500万円の正社員、大卒、婚歴なし、明るい性格の方ですよ。勿体ないと思いませんか。もう一度会ってみてもいいんじゃないでしょうか」

「いや、でもムリなものはムリなんです。細かな価値観が違いすぎです」

「そうですか。わかりました…。またご連絡いたします」

 ディスプレイから国崎の顔が消えたところで、萌香はひとり暮らしの部屋中に響くほどの大きなため息をついた。

“普通”の男すら、私の前に現れないの?

 29歳。結婚を意識して結婚相談所に入会し、半年ほど経った。

 担当の国崎とはその時からの付き合いだが、今まで、理想通りの人を紹介されたためしがない。

 条件や写真ではいい人そうに感じても、実際会うと高梨のような常識や清潔感、思いやりが欠如した人間性を目の当たりにする。

 ――交際を重ねて、お互いに成長していけばいいと国崎さんは言うけれどね…。

 特に昨日紹介された高梨とは、愛し合う姿さえ想像できなかった。

 人の容姿をどうこう言うのは気が引けるが、自分はどちらかというと多くの男性の射程範囲には入ると思う。大学時代はミスコンのファイナリストにもなったくらいだ。

 ――なのになぜ、私の前には“普通”の男性すら現れないのかな…。

 昨晩はむしゃくしゃして大切に保管していたはずの赤ワインを開けてしまった。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


【女偏漢字探し】「唱」の中に紛れ込んだ漢字は?(難易度★★☆☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
友達、同僚、彼氏…重い話LINEの角の立たない返し方3選。会話できない時間を狙い、着信履歴を残す!
 友達や同僚、彼氏など、身近な人から重い話をされたとき、大抵は「力になってあげたい」と思うはず。  でも時間がなかった...
共学なんてバカじゃないの! 暴走するお受験妻が「娘の反抗」でようやく気付けたこと
 横浜に暮らす経営者の妻の愛子。小学生の長女・美愛と横浜山手御三家と呼ばれる女子校に狙いを定めて、中学受験に臨んでいる。...
東京の「Fラン大学」を出たママの誇り。お受験戦争の渦中、優秀な娘に人生を重ねる傲慢な願い
 横浜に暮らす経営者の妻の愛子。長女の美愛はまだまだ甘えん坊の小学生。横浜山手御三家と呼ばれるお嬢様女子校に狙いを定めて...
娘の名門合格を喜べない…男に依存してきた妻が「女子校進学」を強いる理由
 冬の突き刺すような西日が差すリビングに、不安げなマウスの音が響いた。  時計の秒針が12を指したことだけを確認し...
ウェブ連載なのにやり取りはイエデン? 64歳、超アナログおじさんの「何やら新しい現象」
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
アルハラ回避! スナック嬢が実践する「酔わない飲み方」3つ。お酒嫌いは「あの飲み物」を垂らしてみて
 みなさんはお酒好きですか?もちろん種類によって好き嫌いがありますよね。実は私、水割りと呼ばれるものが苦手です。焼酎でも...
育休明けのフルタイム復帰、育児家事と両立できるか不安…。キャパオーバーの悲劇を回避する3つの方法
 育休明け、いざ職場にフルタイム復帰することになった時、ママたちの脳裏にはさまざまな不安が押し寄せますよね。子供のことや...
職場バレンタインのトホホなエピソード6選。今年はどうなる? あげても地獄、あげなくても地獄だよ…
 もうすぐ恋する女性の一大イベント、バレンタイン! 好きな男性や彼氏にどんなチョコレートを渡そうか、今からソワソワな女性...
また値上がり!? 40代主婦が物価高を痛感した瞬間と節約サバイバル術4選。買い物は私一人で行きますよ
 続く物価高で、家計のやりくりを頑張っている主婦は多いはず。それでも追いつかないくらいに、物価高の実感は日々高まるばかり...
ねこプロレス第2弾! 挑戦者の尊すぎる“たまたま”ぽろりに延長戦希望
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
春と幸運を呼ぶ「球根付き切花」を長持ちさせる意外な注意点。あー、見るだけでワクワクが止まらない!
 立春を迎え暦の上でも春。猫店長「さぶ」率いる我がお花屋の立地は神奈川の片田舎ですが、1月の終わりごろからど偉いエネルギ...
事例ありき? お役所仕事だな。街路灯ランプをLEDにするだけなのに、なぜかてんやわんや…
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
ホットフラッシュvsニット。“セーター”に恋焦がれる更年期世代から「エアリズムニット」の提案
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
誕プレで発覚! 親友と思ってたのは私だけだった…思わず虚無感を抱いた切ないLINE3選
 友達とLINEをしている時に、思わず虚無感を抱いてしまったことはありませんか? 人は、あまりにも自分の気持ちを無視され...
計算されたような曲線美! 塀の上の“たまたま”が放つ怪しい魔力
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...