更新日:2024-06-29 13:59
投稿日:2024-06-29 06:00

香港の街は顔、顔、顔だらけ

 香港は1997年に、イギリスから中国へと返還された都市だ。そのせいか、私がイメージする中国とは大きく異なり、どちらかというと、インバウンドで様々な人種の旅行客が大挙した、昨今の東京みたいだった。

 瞳や肌の色、顔の造りや体型、聞こえてくる言語がバラエティ豊かすぎる。どれが香港人なのか、外国人の私には、皆目見当がつかない。とにかく人が多いのだ。

 ど平日の昼下がりなのに、ガラガラの店がどこにもない。喫茶店に入れば相席は当たり前、本数の多いバスも常に定員オーバーで、何本か見送らないと乗り込めない。

 とにかく道を歩けば、顔、顔、顔。人の顔ってこんなに違うんだ。

 香港では、かなり築年数が経つ集合住宅でも、40階50階は当たり前で、夥(おびただ)しい数の窓には、それぞれ大きな室外機がぶら下がっている。1フロアの世帯数が多すぎだ。人口密度が東京の比ではない。

 ここに住む人を一括で想像すると、自動的に解像度が爆下がりして、顔はもはや、ぼんやりした点である。そこに含まれる私も、ただの点。これでは自分の顔が人より劣っているのかどうかもわからない。

「ヤップンヤーだな~」

 他人の美しいと思う顔は絶対的だが、自分自身の顔に抱くコンプレックスは、相対的に生まれる。たるみだって一朝一夕に現れるわけではなく、毎日自分の顔だけ見ていれば、ぼんやりした私は、気付きもしないだろう。

 それは自分に近い他者の顔と、見比べてしまうからだ。そして、自分の顔を見た相手の思考が、ある程度想像できてしまうからだろう。しかしこの地では「ヤップンヤー(日本人)だな~」という感想しかなさそうである。

 帰りの空港で開いたパスポートを、ニュートラルな気持ちで眺める。これは間違いなく私のパスポートだ。いきなり若返ったら、作り直さないといけないだろうか。

 せっかく10年間有効なパスポートに切り替えたのだ。整形のための海外旅行は、10年後でもいいかもしれない。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


離婚で「実母と義母」のバトル勃発! 嫁を“敵認定”した義母が放つ衝撃的な一言【身内のありえない発言】
 嫁と姑の付き合い方が見直され、昔ほどフィーチャーされにくくなった「嫁姑問題」。ですが、実際はトラブルが発生しているもの...
「ミスっても死なない!」優柔不断とおさらばする“前向きマインド”5つ
「優柔不断な性格を直したい…」「いつもクヨクヨ悩んでしまう」こんな悩みを抱えている優柔不断な方、集合! 優柔不断を改善す...
“神たま”のそば、羨ましいでしょ? 進むたび揺れる「にゃんたま」をソッと撮るお仕事です
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
わかるけど…LINEの「疲れた」アピールにウンザリ。愚痴って対応に困るんです!
 何気なくする“疲れたアピール”は、ときに人を困らせてしまうもの。相手に遠慮や我慢をさせてしまったり、無理させたりする場...
仕事一筋の私が『対岸の家事』詩穂に共感した理由。くだらない「専業主婦vsワーママ」対立してる場合じゃない
 多部未華子さん主演のドラマ『対岸の家事』が6月3日に最終回を迎えた。毎回放送されるたびに話題になり、SNSを中心に視聴...
ストゼロでも消えない死への恐怖。介護に離婚…友人それぞれが歩む人生に救われた夜。人が最後に行きつく先は
 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らし...
48歳、乳がん検診の「要精密検査」に衝撃。独居暮らし男の孤独死に重なる…誰にも看取られない恐怖
 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らし...
40代は“知人の訃報”がくる年齢だ。憎んだ男の「死亡通知書」で20年ぶりに集う同級生、独身の私はどう映る?
 板チョコのような重い扉を百恵が開けると、真っ赤な口紅を施したママさんがいつものように明るく出迎えてくれた。 「い...
「20年モノのフライパン」がかっこいい? 貧乏戦線に異状あり!
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
お酒の席の“あのルール”に物申したい! グラスに注ぐベストタイミングは…
 働く側としても、お客さんとしても大好きなスナック。今後も良いところをどんどん書いていければと思っているのですが、今回は...
若者が『めおと日和』の“昭和な恋愛”に胸キュンするのは何故? タイパ重視じゃないもどかしさ
 アラフィフ独女ライターのmirae.です。前回のコラムでは、「50代の恋愛にときめきは必要なのか?」というテーマについ...
婚活に介護…もう頑張れない。アラフォー女性が抱えがちな問題、6つのケースを聞いた
 今回ご紹介するのは、アラフォー女性の悲鳴。「もう頑張れない」と思っていることを教えてもらいました。同じ悩みを抱えている...
怒った中年の顔は「ブス」だと知った。更年期世代がイラついた時にするべき大事なアレ
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
ゴロンする一瞬♡ 奇跡のモフモフ“にゃんたま”とプニプニ頬っぺが尊すぎる
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「現金がよかった」ってそりゃないよ~!『母の日』のガッカリエピソード
 日頃の感謝を伝えるために贈った母の日のプレゼント。なのに微妙〜な反応をされたら悲しいですよね。今回はそんな“母の日のガ...
女性の「理想の顔」ランキングが発表。石原さとみや新垣結衣を抜いた第1位は、上品なイメージのあの女優!
 もしも憧れの芸能人の顔に近づけるとしたら……あなたは誰を「理想」だと感じますか?