セレブ妻が赤羽のサイゼリヤに落ちるまで 上流階級との「品格の差」に絶望

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-08-10 06:00
投稿日:2024-08-10 06:00

なぜか居心地の良さを感じるようになって…

「この二人、クラスでは仲良しすぎて浮いているみたいよ」

 ポケモン図鑑を眺めてクイズを出し合う娘たちに温かな視線を送りながら、来良はドリンクバーで入れて来たコーラを傾けていた。

「でしょうね」

 溜息をつきながらも、受け入れざるを得ない。愛舞といる葵は本当に楽しそうな笑顔を見せているのだから。

「参観日の時に言われちゃったのよ。誰だっけ、いっつもバーキン見せつけて歩いているあの人に」

「鈴華さんのお母さま?」

「そう!『浮いているから何なの?』って言ってやったけど」

 ゲラゲラと笑う彼女に、由香は同調していた。久しぶりに日常で感じた居心地の良さ。いざ、受け入れてみるとラクなものだった。足を組んで、頬杖をついている自分がいる。

「ねえ、なぜこの子たちはあの学校に入ることができたのかしらね」

 明確な答えを求めているわけではなかったが、ぼんやりと来良に尋ねてみた。そんな雑談ができる空間がこの場に流れている。

「そんなのわかんないよ。由香さんは義理のお母さんがOGだからでしょ?」

「まあ…それもあるだろうけど」

「あと、葵さんと仲がいいからじゃないの。うちの学校は面接で母娘の関係性を重要視するってお教室の先生が言っていたし」

母の願いを叶えてくれた娘

 確かに葵と自分の関係性が深いのは事実だ。彼女があの学校に合格したのも、「お嬢様学校に入れたい」という母親の願いを叶えるために必要以上に頑張ったからではないかと思う。

 ただいずれ、もし葵に確固たる自我が芽生えたらその意志は尊重したいとは思う。

 今日もそうだ。

 つい最近まで、由香はポケモンを男児向けの乱暴なアニメだと思っていた。しかし、葵が興味あると知り、その印象はだんだんと変わっている。

 ポケモンのクイズを楽しそうに出し合う女児たちの様子に由香は目を細めた。民放テレビは解禁してもいいかと思い始める。

「うちの愛舞はさ、前も言ったように、めちゃめちゃ賢いのよ! 校風的に入る学校間違えたと思ってるから、中学受験で抜け出すつもりよ。私も夫も偏差値高かったし、桜陰なんてどうかなって思って」

 マウントなのか、純粋に親バカなのかギリギリの発言をする来良だったが、その天真爛漫さが由香にとって気持ちよかった。

「うちもそうしようかしら。葵は負けず嫌いだしね」

「でしょー? やっぱり、葵さんも由香さんとも通じるところがあると思っていたの」

「ちょっと待って、一緒にしないで」

これが私の世界の限界

 来良は手を叩いて笑い、由香もそれを追う。

 そして、お義母さまから言われた「無理に私の家に合わせなくとも」という言葉も、背伸びする由香の根の部分を見透かしていたゆえの言葉だということに気づく。

 ――きっと、これが私の世界の限界…。

 絶望の底に見えた、葵の楽しそうな笑顔。ここが自分のいるべき場所なのだろうかと、下町のファミレスの絶叫とざわめきの中で自らに問う。

 拒否したい自分がいながらも、その日、由香自身も久しぶりに大きな声で笑えたのは、抗えない事実であった。

Fin.

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


違う違うそうじゃない~!彼も同僚もママ友も…何かがズレてるLINE3選
 あなたが「もういいや」と返信する気を失うのはどんなLINEですか? 話が通じない相手や、価値観が異なる相手とのLINE...
癒しの漫画/第52回「一難去って…」
 ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 生きものたち、その生きものたちをこよな...
何が大変? できるなら避けたい! 子どものPTA活動で苦労する5つのこと
 子供がいると仕事や家事で忙しいうえに、学校でのアレコレに参加しなくちゃいけなくて……。特にPTA役員に選ばれると苦労し...
ロッカン、ロッカン痛ぇ…!
「ロッカン! ロッカン!」という歌に合わせて、シャカリキに踊っている。その「ロッカン」とは「第六感」のことだ。  ...
一息ついて水音に耳を澄まそう 2023.6.30(金)
 あしたから7月に突入。衣替えが終わったと思ったら、今年も酷暑の予感だって。  季節に追いかけられて、頭がぐるぐる...
「図々しい人=自分の損に過敏な人」を撃退する唯一の方法
 もうここでぶっちゃけますが、図々しい人って良識がない人が多くないですか? 良識がないから図々しいのか、図々しいから良識...
新生活の疲れが出る時期です…自分に甘々!とっておきの疲労解消法6選
 新年度が始まり、3カ月が経ちます(1年単位でいえば半分を折り返しました……)。転職や異動などで今までとは違う生活になり...
「日焼けに注意!」夕映えの“たまたま”からのありがたい一言
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
愛用のティファールを2年で買い替えたわけ 2023.6.29(木)
 先日、2年前に購入したティファールを買い替えました。油を敷いてもフライパンがこびりつくようになり、お鍋の底が傷だらけに...
公共便所どうなる?波紋広がるジェンダーレストイレ問題、誰が我慢すべき
 登場から物議を醸す「東急歌舞伎町タワー」(東京・新宿区)のジェンダーレストイレ。多様性に配慮する目的で作られましたが、...
義親はしょせん他人です! 同居時の付き合い方5つとストレス発散のコツ
 義親と同居話が進んでいたり、既に同居していたりする人の中には、不安やストレスを抱えている人もいるでしょう。義親といって...
ユリ好きな花屋もなんじゃこりゃ!香り・デカい・花粉を克服した新種たち
「斑目ネーサン、これどう?」  花市場の競りがある前日、「チョット変な花」の入荷予定があると、市場のワタクシ担当お...
似合わない服を着るのは罪ですか? 2023.6.28(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
「梅雨時期の洗濯のコツ」生乾き臭とさようなら、洗剤多めは逆効果です
 梅雨時期になると、ただでさえ面倒な洗濯が余計に億劫に! 外で干せないため部屋干しが増え、生乾き臭に悩んでいる人も多いは...
子育てママの風邪引いたあるある! 市販薬で誤魔化せずゾンビになった私
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
卑しい街を男が独り行く時代は終わったね 2023.6.26(月)
 卑しい街を男が独り行く時代は終わったね。 「夜は短し歩けよ乙女」の主人公のように、どこかで李白老人に会えるかも。...